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エピソード9
心臓のない王(3)
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* * *
「クソ。ここもダメか」
屋敷に到着したオレは、窓から入ろうとして舌打ちをした。
出入口には見張りの男たちがいて、中に入ることができない。
正面突破も考えてはみたが、相手は鍛え抜かれたスペシャリスト複数人。
どう甘く見積もっても、ユリアの元まで辿り着くことは難しい。
考えろ。
考えろ、考えろ、考えろ。
奥歯を噛みしめる。
焦りで手のひらに汗が滲んだ。
陽の光が平気なユリアは、昼間であっても逃げようと思えば逃げられる。
けれど彼の性格上、使用人たちを置いていくとは思えない。
ならば、屋敷の何処かで身を潜めているに違いなかった。
男たちがユリアを見つけ出せずに、そのまま帰る可能性もまだある。
それを思うと、事を荒だてるわけにもいかない。
「どこかにないか……屋敷に入れる場所……」
教会の男たちが気付かない扉。
例えば、秘密の道でもあったなら。
「……あるじゃん」
オレは急き立てられるように、地を蹴った。
目指すは――青いバラの咲き誇る庭園だ。
* * *
杭が深々と埋まった。
鮮血が滲んで、服を真っ赤に染まっていく。
「なぜ……」
僕に杭を打ち込んだ男が、呻くような声をこぼした。
「なぜ、死なない……」
そう言うが早いか、男は杭から手を離し手甲をこちらの顔面に振り下ろす。
鈍器のようなそれで、僕の頭を潰すつもりだ。
首を動かし潰されるのを紙一重で回避したものの、
躱し切ることができず、喉を潰された。
彼らに言わなくちゃならないことがあるのに、声が出ない。
「た、隊長、どういうことですか。
心臓を潰されても死なないヴァンパイアがいるなんて……っ」
「集中を欠くな! コイツは我々の標的ではないだけだ!」
「なっ!?」
言葉に、彼の仲間たちの表情に狼狽の色が滲んだ。
「だ、だとしても、弱点を潰されて生きていられるわけがない!」
「コイツの弱点は心臓ではないのだろう」
そう言って、男は僕の体から杭を引き抜き、中を見るように目で告げた。
皮膚が破けた奥には、あるはずのモノは存在せず、ただただ空洞が広がっている。
「心臓がない…?
コイツらはその心臓で超回復をしているはずでは!?」
「どういうカラクリなのかはわからん。だが、これが事実だ」
「だとしたら、どうやって殺すと言うんですか!」
「喚くな。それをこれから調べるんだろうが」
拳が持ち上げられ、手甲から鮮血が滴る。
ついで、彼は刃の折れた剣を拾い上げると、僕の首へと振り下ろした。
「化け物め……
銀が効かない上に、首を撥ねるよりも早く再生するか……」
再び刃が振り下ろされる。
けれど、その一撃も僕の再生能力に阻まれ落とすには至らない。
「さて、根競べといくぞ」
……ダメだよ。逃げて。
意識が朦朧として、次第に『彼』の気配が色濃くなっていく。
赤が広がる。
引き裂かれた肉片が、血を伝って繋がり合う。
「痛みはしっかりと感じているようだな」
刃が振り下ろされるたびに、手足が痙攣したように跳ねた。
けれど、それは痛みでなく生理的反応だった。
脳のどこかが生命を維持するべく感覚をシャットダウンしてしまったように、
もう体からは痛覚が抜け落ちている。
男は何度も何度も僕に剣を振り下ろした。
それを周囲の男たちは黙って見下ろしている。
なんとも異様な光景だった。
……どれくらいそれを繰り返していただろうか。
突然の起こった『それ』に、男が目を見開いた。
「なんだと……」
彼の瞳の中で、僕はどんどんと膨らんで1匹の白狼の姿へと変化した。
ついで獣は男を見下ろすと、口を開いた。
「『シーズンズ』――12の月に例えられた、下らん王の称号、か。
そんな物に興味などみじんもないが、今日は貴様らのお陰で機嫌がいい。
だから、流儀に合わせて自己紹介してやろう」
「俺が、13番目にして真の王だ」
「クソ。ここもダメか」
屋敷に到着したオレは、窓から入ろうとして舌打ちをした。
出入口には見張りの男たちがいて、中に入ることができない。
正面突破も考えてはみたが、相手は鍛え抜かれたスペシャリスト複数人。
どう甘く見積もっても、ユリアの元まで辿り着くことは難しい。
考えろ。
考えろ、考えろ、考えろ。
奥歯を噛みしめる。
焦りで手のひらに汗が滲んだ。
陽の光が平気なユリアは、昼間であっても逃げようと思えば逃げられる。
けれど彼の性格上、使用人たちを置いていくとは思えない。
ならば、屋敷の何処かで身を潜めているに違いなかった。
男たちがユリアを見つけ出せずに、そのまま帰る可能性もまだある。
それを思うと、事を荒だてるわけにもいかない。
「どこかにないか……屋敷に入れる場所……」
教会の男たちが気付かない扉。
例えば、秘密の道でもあったなら。
「……あるじゃん」
オレは急き立てられるように、地を蹴った。
目指すは――青いバラの咲き誇る庭園だ。
* * *
杭が深々と埋まった。
鮮血が滲んで、服を真っ赤に染まっていく。
「なぜ……」
僕に杭を打ち込んだ男が、呻くような声をこぼした。
「なぜ、死なない……」
そう言うが早いか、男は杭から手を離し手甲をこちらの顔面に振り下ろす。
鈍器のようなそれで、僕の頭を潰すつもりだ。
首を動かし潰されるのを紙一重で回避したものの、
躱し切ることができず、喉を潰された。
彼らに言わなくちゃならないことがあるのに、声が出ない。
「た、隊長、どういうことですか。
心臓を潰されても死なないヴァンパイアがいるなんて……っ」
「集中を欠くな! コイツは我々の標的ではないだけだ!」
「なっ!?」
言葉に、彼の仲間たちの表情に狼狽の色が滲んだ。
「だ、だとしても、弱点を潰されて生きていられるわけがない!」
「コイツの弱点は心臓ではないのだろう」
そう言って、男は僕の体から杭を引き抜き、中を見るように目で告げた。
皮膚が破けた奥には、あるはずのモノは存在せず、ただただ空洞が広がっている。
「心臓がない…?
コイツらはその心臓で超回復をしているはずでは!?」
「どういうカラクリなのかはわからん。だが、これが事実だ」
「だとしたら、どうやって殺すと言うんですか!」
「喚くな。それをこれから調べるんだろうが」
拳が持ち上げられ、手甲から鮮血が滴る。
ついで、彼は刃の折れた剣を拾い上げると、僕の首へと振り下ろした。
「化け物め……
銀が効かない上に、首を撥ねるよりも早く再生するか……」
再び刃が振り下ろされる。
けれど、その一撃も僕の再生能力に阻まれ落とすには至らない。
「さて、根競べといくぞ」
……ダメだよ。逃げて。
意識が朦朧として、次第に『彼』の気配が色濃くなっていく。
赤が広がる。
引き裂かれた肉片が、血を伝って繋がり合う。
「痛みはしっかりと感じているようだな」
刃が振り下ろされるたびに、手足が痙攣したように跳ねた。
けれど、それは痛みでなく生理的反応だった。
脳のどこかが生命を維持するべく感覚をシャットダウンしてしまったように、
もう体からは痛覚が抜け落ちている。
男は何度も何度も僕に剣を振り下ろした。
それを周囲の男たちは黙って見下ろしている。
なんとも異様な光景だった。
……どれくらいそれを繰り返していただろうか。
突然の起こった『それ』に、男が目を見開いた。
「なんだと……」
彼の瞳の中で、僕はどんどんと膨らんで1匹の白狼の姿へと変化した。
ついで獣は男を見下ろすと、口を開いた。
「『シーズンズ』――12の月に例えられた、下らん王の称号、か。
そんな物に興味などみじんもないが、今日は貴様らのお陰で機嫌がいい。
だから、流儀に合わせて自己紹介してやろう」
「俺が、13番目にして真の王だ」
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