人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

文字の大きさ
上 下
9 / 224
エピソード3

可愛がられるのも世話焼きのうち(?)(2)

しおりを挟む
「紅茶、お口に合いませんか?」

 唐突に立ち上がったオレに、ユリアが不安げに瞳を揺らす。

「そうじゃねぇ。紅茶はめちゃくちゃ美味い。
 じゃなくてさ……オレ、朝から何もしてねぇんだよ。世話係なのに」

 綺麗な服を着て、美味いもん食って、腹ごなしに散歩して、また美味いもん食って。
 給料分働くどころの話ではない。むしろ天引きされても文句が言えないレベルだ。

「こうして一緒にお茶を楽しむ、じゃ仕事になりません?」

「楽しいから、より仕事って感じがしねぇ。
 お前がムカつく甘ったれな坊ちゃんなら、まだ仕事だって考えられたけど」

 ユリアがきょとんとする。

「楽しい……」

 それから、誰にともなく呟くと頬を染めてもじもじした。
 オレは必死で、世話係の仕事を探して思考を巡らせる。

 身支度の手伝いは不要。
 繕いものや、皿洗い、ゴミ捨て等の屋敷を維持する仕事はもう人手が足りている。

 じゃあ、オレに出来ることってなんだ?

 ふと、ユリアの指が視界に入った。
 大きい手だった。指はスラリとしているが、太くて長い。
 綺麗なアーモンド型の爪は短く切りそろえられている。

 例えば、そう……エロいこととか?

 ――って、ダメだダメだダメだ!!
 オレは慌てて頭を振った。

 ただの前職のクセだ。
 断じて、ちょっとも、やましい気持ちなんて持ってない。いや、マジで。

「メイドにも相談してみたんだけど、間に合ってるって言われちまってさ。
 でも、このまま何もしないで過ごすのは、怖いんだ。
 一通りのことは出来るよ。出来ないことはすぐ覚える。
 だから、なんかオレに仕事をくれないか」

「そうですね……ご存じの通り、ハウスキーパーは間に合ってますし、
 僕の世話と言っても……」

 ふと、ユリアが言葉を途切れさせる。
 何か思いついたのだろう。オレはすかさず身を乗り出した。

「何かあるんだな? 言ってみろよ」

「その……笑わないで、くださいね?」

「もちろん」

 ユリアが視線を彷徨わせる。
 それから、ポツリと呟いた。

「……ギュッて、してもいいですか」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

彼と彼女の十月十日 ~冷徹社長は初恋に溺れる~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:37

淫美な虜囚

BL / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:268

嫌われ悪役王子は死にたくない!!《本編完結済》

BL / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:1,689

その名前はリリィ

BL / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:50

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

BL / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:2,077

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,845pt お気に入り:1,598

転生したら激レアな龍人になりました

BL / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:3,017

処理中です...