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第80話 提示と戦いと選択

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俺はルーミスと作った精神支配のポーションの瓶を手の平で転がしながらこれからの事を考えている。

「ルーミスに支配される未来は真っ平だよな」

精神支配のポーションの漆黒に染まる瓶が俺をダークサイドに導くカギのように見える。

「まあ、幸い、おバカちゃん達が早速騒ぎを起こしてくれそうだし、上手く使わせてもらうか」

「コン、コン」

「入って良いよ」

ドアが開くとリンとルーミスが入ってくる
そのリンの手にはリードが握られていて、ルーミスの奴隷の首輪に繋がっている。

「オイゲン君、準備できました」

真っ赤なドレスに身を包んだリンの姿は女王様の様だな。
リードに繋がれたルーミスはリンの影に極力隠れよとしている。
脚を出てしまう短いスカートに胸の形が強調された上着の奴隷用のメイド服が恥ずかしいのだろう。

「リン、赤いドレスが良く似合ってるよ。
ルーミスはリンの良い引き立て役になっているね」

ルーミスの奴は怒りで全身が震えている。

「ねえ、オイゲン君、ルーミス様を私がこのように扱うのは恐れ多いのですが」

リンは遠慮がちにルーミスを見ている。

「リン、ルーミスは奴隷でリンは僕の家来だ、どちらが偉いかはわかるよね」

「はっ、はいいい~」

納得するのは難しいみたいだね。

「まあ良いや、これから奴隷全員に話をする上で、リンにはお願いしたことをしっかりとやってもらう必要があるのだから、そこはしっかりと頼むよ。
それで、全員集まってるのかな」

「ハイ、全員を大広間に集めました」

「それでは行こうか」

僕は歩き出し、その後ろをリンが付いてくる。
ルーミスは付いてきたがらないが、リンにリードに引かれていやいや付いてくる。

大広間では俺が買った奴隷達が集められていた。
俺が入っていくとざわめきが広がり、ルーミスが姿を現した瞬間にざわめきがどよめきに変わった。

「さてと、夜も遅いので簡潔に話をしたい。
まず、後ろにいるルーミスはなぜリードに繋がれているかだが。
それは、自分の立場を弁えなかったからだ。
俺の許可も無く、この屋敷の女主人のように振る舞ったからな」

「私は、ずっとこの屋敷の主人だったわ」

ルーミスが俺の言葉に割り込んでくる。

「そうかもな。
でもそれはお前たちを所有していた主人がお前にその役割を与えたからだろう」

「そうよ、私がこの館の主人にふさわしかったからよ」

「そうだな、娼館としてこの館を使う上でお前が主人の方が都合が良かった。
お前の純潔を守るためだ。
代わりに純潔を捧げろと言えば従う者ばかりなのだから」

「な、なにを言ってるの」

「事実だろう、お前ひとりの純潔を守るために何人の純潔が失われたんだ?
お前の側近以外はみんな娼婦に落ちたじゃないか」

俺の言葉でリンの顔に怒りが浮かぶ。
リンの妹も従妹も男を取らされているからな。

「確かに、俺はお前たちを奴隷として買った。
だが、娼婦として扱う気は無い。
もうこの館は娼館ではない」

俺の言葉でどよめきが起きる。
信じがたいのかな?

「もっとも、平民の俺の奴隷になるのは貴族としての矜持が許さないという者もいるだろう。
だから、俺は君たちに選択権を与えよう。
俺の奴隷として暮らすか、解放されて自分の力で生きるかだ」

「えっ、奴隷から解放されるの?」

「そんな、嘘でしょう」

「なら、なんで私達を買ったのよ」

納得できないようだな。
当然の反応だよね。

「そもそも、リンに頼まれなければ君たちを買う事は無かったんだ」

俺は元帝国貴族が集まっている方を向いて話を進める。

「リンの妹と親族を保護する、それがリンに頼まれた内容だ。
それと、お可哀そうなルーミス様もだな。
正直、これだけ多くの奴隷を庇護するのも大変なんだ」

「私たちは奴隷としても不要だと言うの」

悲鳴のような声があがる。
自分の価値がまた否定されたと思ってるのだろう。

「まあ、俺は君たちを購入した以上、奴隷として転売するような非常なことをする気は無い。
奴隷として俺に庇護されるか、解放され平民として自力で生きてゆくか好きな道を選ばせてやる」

「それは君たちも一緒だ」

俺はもう一つの集団に向く。

「カリンとマリンを購入した縁もあり君たちを購入した。
もっとも頼まれなければ買わなかったけどね。
だから、同じように選択してくれ。
奴隷として俺に庇護されるか、解放され平民として自力で生きてゆくかだ」

「検討期間は2日間だ、良く考える様に」

意外だな、もっと喜ぶかと思ったが、だれも言葉を発しない。
信じがたい話で受け入れきれていないのだろうか?

「主様、外に怪しい動きがあります」

銀が、部屋に飛び込んで来る。
良いタイミングだな。

「怪しい動き?」

「ハイ、くせ者が10人程度、敷地に侵入しています」

「そうか、思ったより早かったな。
そいつらは此処にいる奴隷達を狩にきたんだろう」

「「「私達を狩に!!」」」

「ああ、美味しい獲物が、簡単に手に入りそうだと思ったんだろう。
何しろ、男は俺一人だけだしな」

「主様、美味しい獲物ですか」

「ああ、俺が買わなければ、ここにいる女奴隷達は娼館に売られるはずだったんだ。
美しい娼婦を欲する娼館は多いからな。
それに娼館では娼婦はすぐに死ぬからな
幾らでも補充が必要みたいだ」

「「「「ひっ、ひいいい」」」」

この先に待つ悲惨な未来に気づいたのだろう。
奴隷達が怯え始める。

「心配するな、10人程度、簡単に制圧してやるさ。
お前達は奥の部屋に隠れていろ」

女達を窓の無い扉が一つだけの部屋に誘導する。

「さて、銀、サミー、リン、相手は幸いな事に俺達を舐め切っている。
全員で正面玄関から攻め入るとは流石に呆れるがね。
作戦は簡単だ、俺がまず光と熱の魔法であいつらを足止めする。
目が眩んだ所で各自好きに潰せ」

「「「ハイ」」」

「それじゃあ、行くぞ」

俺達が正面玄関についても賊たちはまだ外にいる。
俺達が寝静まるのを待つ気なのか?

それじゃあ、こちらから出向いてやろう。

俺はゆっくりとドアを開け、無警戒な姿で外に出る。
もっとも、俺の気配感知に隠れた賊たちは全て捕らえられている。
賊たちは自分たちの存在が気づかれているとは思っていない。

10個だな。

賊たちの頭の上に俺は微小な反物質を出現させる。
屋敷の庭に10個の微小な太陽が出現する。

「「「うわああ」」」

暗闇の中にいきなり強い光が降り注ぐんだ。
暫く目は使い物にならないだろう。
そして、微小な太陽の元に隠れていたはずの賊たちの姿が明らかになる。

そこに銀とサミーの魔法が降り注ぐ。
一呼吸遅れてリンが剣を抜いてとびかかってゆく。
俺も賊の腕の中に微小の反物質を出現させ腕を吹き飛ばす。

勝負は一瞬で着いた。

サミーはそのまま屋敷の敷地の外に走り出すと外でも悲鳴が上がる。
俺は銀とリンに賊の補導を任せるとサミーを追いかけて敷地の外に出る。

「オイゲン、奴らこの馬車で奴隷達を運ぶ気だったようだな」

サミーが御者を倒した馬車は一言で言えば大型の檻そのものだ。

「これは、奴隷商が使う馬車だろう?
あいつ等と組んだ奴隷商もいるようだな」

俺達は馬車を拿捕し屋敷の庭に入れ、馬を馬小屋に繋ぐ。
馬は少し興奮していたが水を与えると大人しくなった。

「それでは、見分するとしようか」

拘束した御者を連れて大広間に戻る
そこには銀とリンが拘束した賊たちが縛られて転がっている。
女奴隷達も大広間に戻っていて、遠巻きに賊の男達を眺めている。

「なあ、簡単に女奴隷が手に入ると思ったのか」

俺はリーダと思われる男に話しかける。

「ふん、餓鬼が良い気になるなよ。
俺達は失敗したが、こんな良い獲物をほおっておくバカはいない。
お前達はいづれ狩られて娼館に売られるんだ。
まあ、覚悟しておくんだな」

「娼館ねえ、それでお前たちも依頼元の奴隷商はだれなんだ?」

「奴隷商、知らねえな、なんで奴隷商が噛んでると思うんだ」

こいつ、俺をとことん舐めてるよな。

「判らないわけ無いだろう。
お前達が持ち込んだ馬車は奴隷運搬用の馬車だ。
あんな馬車は奴隷商しか使っていないだろう。
ここには女奴隷と女子供しかいないと思ったとしても随分と迂闊なことをするもんだな」

「ふん、簡単な仕事だと思ったんだが、外れ仕事だったようだな」

「簡単で美味しい仕事なんかそうは無いんだよ。
舐めたせいでお前たちは一番大事な命を失うんだ。
残念だったな」

「ああ、そのようだな。
だが次はお前だ。
お前の奴隷もお前の命も狙われ続けるんだ。
取れないように精々注意するんだな」

俺は遠巻きに俺と賊のやり取りを見ている女奴隷達の様子をうかがう。
随分と怯えている様だな。
これで自分の危うさが実感できたろう。

まあ、これでも俺の奴隷になることを選ばずに解放されたいというのなら解放するけどね。
直ぐに捕まって奴隷として娼館に売られるとは思うがね。

何しろオークションで目立ち過ぎたからな。
捕まえて売ればそれなりに良い値になると知れ渡っているだろう。

そして、俺は捕まえた賊の足元に開いた亜空間倉庫の扉を出現させる。
急に賊が消えたので女奴隷達の間にまたざわめきが起こる。

「さてと、賊たちは逃げられない場所に移した。
もう安心だ、さあ解散してくれ」

夜も遅いので俺は解散を宣言する。

「「「オイゲン様、私はオイゲン様の奴隷として仕えます
どうぞ、お側に置いてください」」」

下手に放り出されてはと、身の危険を感じた女達が奴隷として使えたいと言ってくる。
予定どおりだな。

「そうか、選んだのならリンに申告してくれ」

10人ぐらいの女達がリンの側へと近づいてゆく。
それを見て、他の女達もそれに続き始める。

どうやら大勢は決まったようだな。
このぶんならほとんどの女奴隷は俺の庇護を選ぶだろう。

さてと、流石に眠いや。
そう思った俺の腕が銀とサミーに捕まれる。
命を張った戦いに興奮冷めやらぬ3人でベッドに向かう。

命を張ったのは4人だろう?
その通り、リンも後から参戦してきたよ。
何に参戦かって、決まってるだろう、野暮なことを聞くなよ

その晩、俺達は弱すぎる賊たちで不完全燃焼気味の野獣の心をベッドで解き放ち、濃厚な一晩を過ごしたのだった。
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