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第41話 襲撃

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「オイゲン様、本当に帰られてしまうんですね。
デイジーはオイゲン様と離れての生活に耐えられそうもありません」

デイジーからはそう言われてしがみ付かれました。

「もう、デイジーちゃんたら、オイゲン君にゾッコンなのね。可愛いわね!
私もオイゲン君にゾッコンよ。
だってオイゲン君が助けてくれなかったら死んでたもの。
もう、親子でオイゲン君にメロメロにされちゃったわね」

ルーシーさんはそう言いながら僕を抱きしめてくれます。
おっぱいに顔が埋まった僕は呼吸困難になりました。

「ふん、サッサと帰れ」

辺境伯様からは何故か冷たい一言をもらいました。

そして僕たちは辺境伯領での軍事演習を終えて帰路に就いたのでした。

「ねえ、父さま、デイジーさんと僕の婚約は本当の事なのでしょうか?」

「辺境伯様が寄子全員の前で宣言されたんだ。
本当の事に決まってるだろう」

「そうなんですね。
でも婚約って普通はもっとやる事があったりしませんか?
辺境伯様が宣言されたと言うだけで、母様は納得されますか?」

「まあ、そうだな。
普通は両家で集まって婚約式をやるものだしな。
そういう意味では辺境伯様がオイゲンをデイジー様の婚約者として仮押さえしたというところかな。
辺境伯様からは帝国との関係が落ち着いたら婚約式をやりたいと言われてるしな」

「それって父さま」

「まあ、そういう事だ。
全ては帝国との戦争の結果次第なんだろう」

「はあ、父さま、母さまへの説明はよろしくお願いしますね」

「そうだな、エルザを納得させるのは大変そうだな。
まあ、そこは父さまの仕事だからオイゲンは心配しなくても良いからな」

帰りの野営地では父さまと色々なお話をしました。
デイジーとの婚約の事や帝国の事や領地の将来など家ではなかなか話せないようなことも野営地で焚き火を囲んでいると自然に話せるのです。

僕は父さまが領地の経営に心を砕いている事がよく分かりました。
そして帝国の侵攻が王国の存亡の危機であり、領地、領民の為にその危機とどう向き合うかに父さまが悩まれていることが僕にひしひしと伝わってきました。

そんな帰路の旅もどうやら終わりのようです。
馬車の外の風景が見覚えのあるものにと変わります。
母さまやエリー、そしてマリーや薔薇の騎士達が僕の帰りを待ちわびていていると思います。

そうです、どうしましょう。
デイジーとの婚約の件、父さまは母さまには説明してくれますが、エリーやマリーには僕が伝えるしかありませんよね。
ああ、困りました。
どう言えばいいのでしょうか?

「ヒュン、ヒュン、ドサ」

「うわあ、襲撃だ」

怒声が急に飛び交います。
馬車が止まり、父さまから声が掛かります

「オイゲン、襲われている。
俺たちは迎え撃つから、お前は逃げろ。
馬車で屋敷まで走り抜け」

「ルイス、オイゲンを頼むぞ」

「はっ、オイゲン様を無事にお屋敷までお連れします」

そして馬車が走り出します。

「オイゲン様、揺れますがご辛抱下さい」

馬車は道のデコボコで飛び跳ねて僕を激しく揺らします。
でも、。そんな事は少しも問題ではありません

「父さま、ご武運を」

僕は父さま達の無事を願います。
本当なら僕も父様達と戦いたいのです。
でも、足手まといにしかならない事も分かっています。ら

いくら力を持っていても使えなければダメなのです。
僕には人を殺す覚悟などありません。
父さまは子供だから当然だと言うでしょう。

でも違うのです。
平和な生活が当たり前の日本人のメンタリティを持つ僕には人殺しは絶対悪で決してやってはいけない事なのです。
そんな僕は命をやり取りする戦いの場に出る資格は無いのです。

「オイゲン様、こちらを追ってくる賊はいないようです」

賊達から馬車は逃げ切れたようです。
どうしてでしょう?
賊に取って馬車は1番の獲物のはずです。
考えてみれば道を塞いでいないのはおかしいですね。

「判りました。屋敷まで急ぎましょう」

色々と疑問もありますが、今は屋敷に無事に着くことに集中します。
それから屋敷までの間、僕たちを襲ってくる賊はいませんでした。
そして屋敷のエントランスに馬車は滑り込みます。

「オイゲン様、着きました」

「ヒュン」

「うわあああ、ドサ」

「ルイス、どうしたのですか?」

ルイスの悲鳴、そしてルイスが馬車から落ちた音がしました。

「約束が違います。私があなた達に降れば他の者に手出しはしないと言ったではありませんか」

母様の悲鳴の様な声が聞こえます。

「御者なら死んだ。サッサと馬車から降りろ。
馬車に篭っても無駄だぞ。
火達磨になって死にたくは無いだろう。
それとも、お前の母親が俺の剣に貫かれて死ぬところを先に見るか」

母様を人質に取れれては、悔しいですけど賊の指示に従うしか無いようです。
僕は馬車を降ります。

馬車を降りた僕の周りを賊が取り囲みます。
母様は賊の1人に剣を突きつけられて、腕を掴まれて取り押さえられているようです。

その賊の隙を狙う様に我が家の兵士が遠巻きにしていますが、手を出せそうには有りません。
母様の首先に剣を突きつけられていては無理ですね。

「お前がオイゲンか」

「そうですけど貴方達はなんですか」

お父さま達を襲撃した一味でしょうが、整った服装や上等な武器が単なる賊では無いことを教えてくれます。

「俺たちの事をお前に話すわけなど無いだろう。
お前は俺の質問に答えれば良いのだからな。
さてと、マリー様はどこにいる。
お前ならマリー様の隠れ場所を知っているだろう」

マリーを探しているのですか。
そう言われて周りを見れば薔薇の騎士の面々も賊に囚われています。
この状況でマリーが捕まっていないのならパニックルームが役に立ったと言う事でしょう。

「マリーの居場所ですか?
今戻ってきた僕が知っているわけ無いでしょう」

「マリー様をお前如きが呼び捨てにするな」

怒声と共に出た脚が僕のお腹に突き刺さります。

「グフェ」

僕は吹っ飛ばされます。

サミーと銀が僕を助けようと一歩を踏み出しますが、僕が目で制します。
僕の大事な母様に傷一つ付けさせる訳にはいかないのです。

「王国の愚民が忌々しい。
さて、俺が優しくしているうちに話した方が良いぞ」

「隊長、ガキを甘やかすから舐められるんです。
ガキはしっかりと躾けないとダメですぜ」

大剣を肩に載せた男が後ろから現れます。

「ほう、グリー、ではどうするんだ」

「ガキを躾るには恐怖心を植え付けるのが一番でしょう。
おい、連れてこい」

グリーの言葉で薔薇の騎士の1人が連れて来られます。
あれは、シンリーですね、酷い有様です
随分と痛めつけられています。

「さてと、向こうを見ろ。
誰がいるか分かるか?」

グリーは母さまを指差します。
こいつ、母様に何がする気か。

「お前ら、母さまをどうする気だ」

「それはお前の態度次第だな。
さてと、お前が良い子になる魔法を見せてやるよ」

そう言うとグリーが大剣を上段に構えます。

「おい、抑えろ」

グリーの声で男が2人出てきます
2人掛かりでシンリーが押さえ込まれ腕が横に伸ばされます。

「おい、お前何をする気だ。
止めろ、止めるんだ、シンリーはもう片腕が無いんだぞ」

「はああ」

グリーの上段に構えた剣が振り下ろされるとシンリーの腕が吹っ飛びます。

「うわああああ」

切り落とされたシンリーの腕から鮮血が飛び散り、シンリーは痛みで地面に突っ伏します。

「なんだ、女とは言えかつては栄えある帝国騎士の一員だったのだろう。
腕を切り落とされたぐらいでその醜態とは情けないな」

グリーは汚物でも見るような目でシンリーに罵声を浴びせます。

グリーの嘲が聞こえたのでしょう。シンリーは地面に伏しながらもグリーを汚物の様に見据えます。

「はっ、はっ、はっ、無抵抗の人間の腕を切り落とすような騎士道を弁えない男に言われたくは無いわね」

シンリーが気丈に言い返します。
腕からは血が吹き出していて止血しなければ命に関わる状態なのに凄い精神力です。

「クソが、連れて行け。
おいガキ、マリー様の隠れ場所を話す気になったか?
まだ剛情を張るなら次はお前のかーちゃんの腕が飛ぶぞ」

母さまの腕を切り落とす。
こいつ、何を言ってるんだ。

「おい、こいつの母親を連れてこい」

このやろう、本気で母さまに害を成す気ですね。

「や、や、はなせ、離しなさい」

無理やり母さまが引き出されます。

「おいガキ、最後のチャンスだ.
マリー様の隠れ場所を話さないとお前の母親は片腕を失う事になるぞ」

こいつは本当にやりますよね。

「それで、マリーの隠れ場所を話したとして、マリーを見つけたらどうする気ですか」

「そんな事はお前が知る必要はない」

この言い方、こいつらは母様やマリーを殺す気です。
僕は覚悟を決める必要があるようです。

人を殺したくない。そんな僕の覚悟の無さでシンリーは両腕を失ってしまいました。
あの失血の中生き残ったとしてもこの先の人生は厳しいものになります。
それに、マリーの隠れ場所を仮に話したとしても僕たちが無事で済むとも思えません。

賊の数は全部で10名
大丈夫、いけます!

殺せ、殺すんだ。
これ以上、僕の大切な人達を危険に晒しちゃダメなんです。

僕の甘さのせいでシンリーの腕が切り落とされ、母様とマリーが窮地に陥っているのです。

いいでしょう。そんなに僕に人を殺させたいなら殺してあげますよ。
ええ、一人残らずにね。

「おい、グリー、お前の愚かな行為のせいで、お前とお前の仲間は皆死ぬ事になるんだ。
あの世でしっかりと仲間達に詫びることたな。」

「ほう、この状況で大層な口を聞くガキだな。
なんならお前を先に殺してもいいんだぞ」

「やはりね、マリーを確保すれば皆殺しにするきだな。
良い事を聞きいた。
これでお前達を殺す事を躊躇せずに済みむからな。」

「こいつ、殺してやる」

グリーの大剣が僕に向かって振り上げられます。

「パーン」

グリーの頭の中で大きな音がします。
僕の力をすれば人を殺すのは簡単なのです。
頭の中に高圧の圧縮空気を送り込めば死ぬしか無いですよね。
ぐちゃぐちゃになった脳味噌が眼球と共に眼孔から吹き出します。

「パーン」、「パーン」、「パーン」……

音が1つするたびに1人の頭の中で脳味噌が弾け飛びます。
皆自分が死んだ事にも気付けなかったでしょう。
残りは隊長と呼ばれた男だけです。

僕は殺した男達から必死で目線を外して嘔吐感を堪えながら隊長に詰問します。

「それで、貴方達はマリーを見つけてどうするつもりだったんだ」

「お前、俺の部下達が……
お前、一体何をやったんだ」

隊長の目に恐怖が浮かんでいます。
先ほどまでの僕を舐めた態度は消え失せてますね。

「お前に質問する権利は無い。
貴方は私の質問に答えれば良いんだ。」

「ふざけるな。部下達の仇を取らせてもらうぞ」

隊長が剣を構えます。
愚かですね、部下達の死に様から少しも学習してません。

「パーン」

音と共に隊長の右腕が吹っ飛びます。

「ぐううう」

この人には生きていてもらわないと事情聴取も出来ませんからね。

「ま、まだまだ」

片腕を吹っ飛ばしてあげたのに、まだ戦う気ですか。
僕に剣を振り下ろそうとしています.

「パーン」

その音で隊長の残りの腕も吹き飛びました。

「オイゲン様」

薔薇の騎士達が駆け寄ってきてくれます。
もう、大丈夫でしょう。
僕は膝から崩れ落ちると、胃の中の物がなくなるまで嘔吐を続けた後、意識を手放しました。
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