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銀色の思い出(2)
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ヒロさんが私の元へ来るようになってから数日が経った。
まだお互いのことを知らない私たちは色んなお話をする。ヒロさんは銀色の髪を気にせず、私と接してくれた。
この頃には、私はあまり緊張もせずヒロさんと話せるようになっていた。
学校にいる時とは違う。家族と話す時と変わらない私だ。
「なあ、いつもユキが持ってるそれ。なんなんだ?」
「それじゃないよ。この子は、ぴょん吉さんって言うの」
「変な名前」
「そんなことないよ。可愛いよ。それにね、ぴょん吉さんは凄いんだよ。正義のヒーローなのっ」
「ヒーロー?」
「うん。困ってる人がいるとね、どこへでも飛び跳ねて行って、助けてくれるの。みんなを助けてくれるんだよ」
「飛び跳ねるんだ……カッコわる……」
「そこはウサギさんだからしょうがないのです」
「でも、ヒーローかぁ……」
「どうしたの?」
「ぴょん吉はカッコよくないけど、ヒーローはカッコいいよな。ウ○ト○マンとか仮○ライダーとか」
「ええー。ぴょん吉さんの方が可愛いしカッコいいよ。それにモフモフだよ」
「ヒーローに可愛さなんていらないの!」
他愛もない話をして笑い合う。そんな毎日が、私は楽しくてしょうがなかった。
✳︎
別の日。
「ヒロくんは好きな食べ物ってある?」
「好きな食べ物? そうだなぁ……カレーとか」
「カレー美味しいよね。甘いのがいいよね」
「はぁ? カレーは辛いのが美味しいんだよ」
「辛いのは食べられないよぉ……」
「子どもだなぁユキは」
「むぅ……いいだもん。ユキは辛いモノなんていらないもん。ユキはね、甘い甘いスイーツが好きだな。ショートケーキとか。ホットケーキとか」
「へぇー」
この頃のヒロさんは甘いモノにあまり興味がなさそうだったっけ。背伸びしていたんでしょうか。とっても可愛いです。
このしばらく後。もっともっと仲良くなった頃。私はお母さんに教わって、ヒロさんにカレーを作ってあげた。
私好みの甘~いカレーだったから、あまり喜んでくれなかったけど。
でもそれがヒロさんに食べてもらった、私の初めての手料理。大切な思い出だ。
✳︎
また、別の日。
「ヒロくんは、何か将来の夢ってある?」
「夢……? うーん、なんだろ。わかんない。ユキは?」
「ユキ? ユキはねぇ、お嫁さんっ。お嫁さんになるのが夢なの。綺麗な綺麗なウェディングドレスを着るの」
「相手いないじゃん」
「そ、それはっ……これから作るからいいのっ。それかお父さんに結婚してもらうからっ」
「お父さんとは結婚できないだろ……」
この頃はまだ、ヒロさんのことを異性とは見ていなかったと思う。お父さんが私の一番だった。
✳︎
またまた、別の日。
この頃にはさらにヒロさんと打ち解けていた。そうなると会話の内容もお互いの深くまで、踏み込んだものになったりする。
「なぁ、ユキはさ、なんでいつもここにいるんだ?」
「それは……ユキ、ヒロくん以外にお友だちいないから。だからここしか居場所がないの」
「……なんで? おれとは普通に仲良くできてるじゃん」
「うん……この髪がね、変だってみんな言うの。ユキをね、虐めるの」
「髪……」
ヒロさんが私の髪をマジマジと見つめる。
やめて。そんなに見ないで。
この頃の私はもう、この銀色が嫌になっていたのかもしれない。
そんな私に、ヒロさんはあっけらかんと言う。
「きれいだと思うけどな。銀髪。カッコいいし」
「そ、そんなことないよ。みんな気持ち悪いって言うもん。だから……きれいなんかじゃ——」
「——銀色ってさ、ぜんぶの色の中で二番目に輝いてるんだよ」
「二番目に輝いてる……?」
何がなんだか分からなくて泣いてしまいそうな私に、ヒロさんは語る。
その目はどこか遠くに、思いを馳せているかのように感じた。
「そう。オリンピックとかでさ、メダルは金が一番で、銀が二番、それで銅が三番だろ? だから、銀色ってことは世界で二番目に輝いていて、世界で二番目に幸せってことだ」
「それなら金色の方がもっともっといいよ?」
「そんなことない。もちろん金色もすごいけどさ。そんなふうに、金色に輝くような幸せなんて、すぐに無くなっちゃうんだよ。長くは続かないんだよ。そんな最高の幸せの後には、きっと抱え切れないくらいの不幸が待っているんだ。だから、銀色くらいが丁度いいんだ。おれにとっては、銀色が一番なんだよ」
「そう……なのかなぁ……?」
「うん。だからユキの髪はすごいんだ。銀色の幸せが、いつでも一緒にいてくれるんだから」
そう言われて、私は堪えきれずに泣いてしまった。ヒロさんの前で泣いたのは初めて会ったあの日以来。
顔がくじゃぐしゃになるまで泣いてしまった。
ヒロさんの言葉の意味が全て理解できたわけではない。ヒロさんが何を想ってこんなことを言ったのかも、この頃の私には分からなかった。
でも、この髪を、忌々しくさえ思えたこの銀色を、ヒロさんが一番だと言ってくれるならそれでいいと思えたんだ。
胸の痛みが、和らいだ気がしたんだ。
言葉にできないほど、嬉しかったんだ。
ヒロさんの言葉は、私を救ってくれたんだ。
私は銀色の幸せと共に生きている。ヒロさんと一緒ならそう思えるんだ。
きっとこれが、最初のきっかけ。ヒロさんを少しだけ意識し始めた瞬間だ。
だけど、その本当の始まりはこの先にある。
あの事件があったから。
苦しくて。悲しかったけれど。
あの時のヒロさんがいてくれたから。
銀色の幸せを、ヒロさんに届けたいと願う。2人で、幸せになりたいと願う。
今の私が在るのだろう。
まだお互いのことを知らない私たちは色んなお話をする。ヒロさんは銀色の髪を気にせず、私と接してくれた。
この頃には、私はあまり緊張もせずヒロさんと話せるようになっていた。
学校にいる時とは違う。家族と話す時と変わらない私だ。
「なあ、いつもユキが持ってるそれ。なんなんだ?」
「それじゃないよ。この子は、ぴょん吉さんって言うの」
「変な名前」
「そんなことないよ。可愛いよ。それにね、ぴょん吉さんは凄いんだよ。正義のヒーローなのっ」
「ヒーロー?」
「うん。困ってる人がいるとね、どこへでも飛び跳ねて行って、助けてくれるの。みんなを助けてくれるんだよ」
「飛び跳ねるんだ……カッコわる……」
「そこはウサギさんだからしょうがないのです」
「でも、ヒーローかぁ……」
「どうしたの?」
「ぴょん吉はカッコよくないけど、ヒーローはカッコいいよな。ウ○ト○マンとか仮○ライダーとか」
「ええー。ぴょん吉さんの方が可愛いしカッコいいよ。それにモフモフだよ」
「ヒーローに可愛さなんていらないの!」
他愛もない話をして笑い合う。そんな毎日が、私は楽しくてしょうがなかった。
✳︎
別の日。
「ヒロくんは好きな食べ物ってある?」
「好きな食べ物? そうだなぁ……カレーとか」
「カレー美味しいよね。甘いのがいいよね」
「はぁ? カレーは辛いのが美味しいんだよ」
「辛いのは食べられないよぉ……」
「子どもだなぁユキは」
「むぅ……いいだもん。ユキは辛いモノなんていらないもん。ユキはね、甘い甘いスイーツが好きだな。ショートケーキとか。ホットケーキとか」
「へぇー」
この頃のヒロさんは甘いモノにあまり興味がなさそうだったっけ。背伸びしていたんでしょうか。とっても可愛いです。
このしばらく後。もっともっと仲良くなった頃。私はお母さんに教わって、ヒロさんにカレーを作ってあげた。
私好みの甘~いカレーだったから、あまり喜んでくれなかったけど。
でもそれがヒロさんに食べてもらった、私の初めての手料理。大切な思い出だ。
✳︎
また、別の日。
「ヒロくんは、何か将来の夢ってある?」
「夢……? うーん、なんだろ。わかんない。ユキは?」
「ユキ? ユキはねぇ、お嫁さんっ。お嫁さんになるのが夢なの。綺麗な綺麗なウェディングドレスを着るの」
「相手いないじゃん」
「そ、それはっ……これから作るからいいのっ。それかお父さんに結婚してもらうからっ」
「お父さんとは結婚できないだろ……」
この頃はまだ、ヒロさんのことを異性とは見ていなかったと思う。お父さんが私の一番だった。
✳︎
またまた、別の日。
この頃にはさらにヒロさんと打ち解けていた。そうなると会話の内容もお互いの深くまで、踏み込んだものになったりする。
「なぁ、ユキはさ、なんでいつもここにいるんだ?」
「それは……ユキ、ヒロくん以外にお友だちいないから。だからここしか居場所がないの」
「……なんで? おれとは普通に仲良くできてるじゃん」
「うん……この髪がね、変だってみんな言うの。ユキをね、虐めるの」
「髪……」
ヒロさんが私の髪をマジマジと見つめる。
やめて。そんなに見ないで。
この頃の私はもう、この銀色が嫌になっていたのかもしれない。
そんな私に、ヒロさんはあっけらかんと言う。
「きれいだと思うけどな。銀髪。カッコいいし」
「そ、そんなことないよ。みんな気持ち悪いって言うもん。だから……きれいなんかじゃ——」
「——銀色ってさ、ぜんぶの色の中で二番目に輝いてるんだよ」
「二番目に輝いてる……?」
何がなんだか分からなくて泣いてしまいそうな私に、ヒロさんは語る。
その目はどこか遠くに、思いを馳せているかのように感じた。
「そう。オリンピックとかでさ、メダルは金が一番で、銀が二番、それで銅が三番だろ? だから、銀色ってことは世界で二番目に輝いていて、世界で二番目に幸せってことだ」
「それなら金色の方がもっともっといいよ?」
「そんなことない。もちろん金色もすごいけどさ。そんなふうに、金色に輝くような幸せなんて、すぐに無くなっちゃうんだよ。長くは続かないんだよ。そんな最高の幸せの後には、きっと抱え切れないくらいの不幸が待っているんだ。だから、銀色くらいが丁度いいんだ。おれにとっては、銀色が一番なんだよ」
「そう……なのかなぁ……?」
「うん。だからユキの髪はすごいんだ。銀色の幸せが、いつでも一緒にいてくれるんだから」
そう言われて、私は堪えきれずに泣いてしまった。ヒロさんの前で泣いたのは初めて会ったあの日以来。
顔がくじゃぐしゃになるまで泣いてしまった。
ヒロさんの言葉の意味が全て理解できたわけではない。ヒロさんが何を想ってこんなことを言ったのかも、この頃の私には分からなかった。
でも、この髪を、忌々しくさえ思えたこの銀色を、ヒロさんが一番だと言ってくれるならそれでいいと思えたんだ。
胸の痛みが、和らいだ気がしたんだ。
言葉にできないほど、嬉しかったんだ。
ヒロさんの言葉は、私を救ってくれたんだ。
私は銀色の幸せと共に生きている。ヒロさんと一緒ならそう思えるんだ。
きっとこれが、最初のきっかけ。ヒロさんを少しだけ意識し始めた瞬間だ。
だけど、その本当の始まりはこの先にある。
あの事件があったから。
苦しくて。悲しかったけれど。
あの時のヒロさんがいてくれたから。
銀色の幸せを、ヒロさんに届けたいと願う。2人で、幸せになりたいと願う。
今の私が在るのだろう。
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