閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~

小花はな

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冥土のクリスマス~たっぷりの生クリームを添えて~

茜と葵の大暴走(2)

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「浮気! 浮気だアカ(アオ)!!」

「はぁ??」


 何度も同じ単語を連呼して騒ぐ二人に、わたしは困惑する。

 浮気? ウワキ? UWAKI??
 一体この二人は何を言っているのかしら?

 全く身に覚えのない濡れ衣を着せられてポカンだが、横にいる閻魔様も同じくポカンとしている。


「えっと……? 意味分からないから、説明ほしいんだけど?」


 とりあえず落ち着かせようと、対話を試みる。
 しかし酔った上に興奮状態の二人には話が通じない。


「おいっ! オイラたちが無知と高を括って、まだしらばっくれる気かアオ!!」

「いいか! オイラたちは思い出したんだアカ! 〝クリスマスの由来〟をなアカ!!」

「クリスマスの、由来・・……?」


 なぁにそれ? そんなの考えたこともなかった。だって日本では、由来なんてそっちのけでみんなで楽しむ為の日だし。
 由来、由来……。
 うーん、確かキリストの――……。


「あ゛」


 二人が言わんとすることに思い至った瞬間、わたしの声は裏返った。


「やっと気づいたかアカ! そうだクリスマスとはつまり、〝イエス・キリストの降誕祭〟アカ!!」

「お前は閻魔様を前にして、他の神の誕生を盛大に祝おうとしていたのだアオ!!」

「ま、待った待った!! そんなつもり全くもってなかったわよ!!? そもそもクリスマスパーティーってのも、ただのこじつけで……!!」

「問答は無用アカ!! サンタそんな服着て、めちゃくちゃ浮かれてるアカ!!」

「桃花は閻魔様に本気じゃなかったんだアオ! 遊びだったんだアオー!!」

「ああ、お労しや閻魔様だアカ!!」

「ちがっ!!」


 否定しようとしても、真っ赤に酔っ払った顔で二人はああ言えばこう言う。
 ああもう、違うのに! わたし、本当にそんなつもりでクリスマスをしようとしてした訳じゃないのに!!


「…………っ」


 ちらりと閻魔様を見れば、未だ驚いたような表情で事の成り行きを見守っているものの、その真意は分からない。
 ……もし、閻魔様にまで浮気者だって思われていたら?
 いやだ。そんな誤解、絶対にしてほしくない。

 だってわたし、他の神様だなんてそんな、だって、だってわたしは――……!


「違うっ!! わたし、閻魔様のことが好きなの!! 本当にっ、本気で好きなのよーーっっ!!!」


 食堂中、宮殿中。……いや、もしかしたら冥土中に届くような大きさでわたしは叫んだ。


「……!」


 そして叫んでしまってハッとする。
 見れば小鬼たちも閻魔様も、更にはわたしを焚きつけたはずの当の茜と葵までもがポカンとこちらを見ていたのだ。


「~~~~っ」


 一斉にわたしに注がれる視線に、恥ずかしくて死にそうになる。
 こんなことをしでかしてしまって、もうまともに誰の顔も見られない。というか見たくない。何も言えず呆然と立ちすくむ。


「……桃花さま」


 するとそんなわたしの腕を、くいくいと杏が引っ張った。


「この場はボクにお任せくださいキ」

「え?」


 わたしの返事を待たず、言うや否や、杏がスッと音も無く茜と葵の元へと走る。そして……、


 ――ガンっ! ガンっ!


 急に小気味良い音がしたと思ったら、茜と葵は頭に大きなコブを作って倒れていた。
 そんな二人の後ろには、どこから取り出したのか、フライパンを持った杏が……。


「ふぅ。お二人・・・を想う気持ちは分かりますが、やり方がお子ちゃまですキ。図体がでかくなり、裁判官となっても、根が幼いのは変わらないですキ」

「…………」


 すっかり伸びている茜と葵を前にして、やれやれと溜息をつく杏は、大きくなった二人よりも随分と大人びて見えた。
 ていうかフライパンを振り上げた瞬間、全く手元が見えなかったんだけど!? 杏、アサシン過ぎない!?


「さぁみんな、クリスマスパーティーはこれにてお開きだキ。後片付けをするキ!」

「はぁーい!」


 杏の声掛けで、今までポカンと固まっていた小鬼たちが一斉に慌ただしく動き出す。
 先ほどのわたしの大失態が、杏によって見事に掻き消されてしまった。


「すごいわ、杏……」


 これからはいくらマスコットのような見た目が可愛いからといって、あまり杏を子ども扱いしないようにしよう。
 そうわたしは心に誓うのであった……。

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