59 / 65
冥土のクリスマス~たっぷりの生クリームを添えて~
新生・冥土の台所事情(2)
しおりを挟む「あら? あらら?」
出来上がったものを見てびっくり仰天。
「この絞り、完璧だわ! しかもわたしが用意した生クリームとは別に、ピンクのイチゴクリームを使って、白とピンクで交互に絞られてる……!」
更にはわたしの話を聞いて初めてクリスマスを知ったと言っていたのに、サンタとトナカイのマジパンまでケーキの中央に飾られている! かっ、可愛い!
これは最早、パティシエが作ったものだと勘違いしそうなほど、完璧な仕上がりのクリスマスケーキだった……!!
「え、えええぇぇ!?? みんなすっごいねっ!?」
正直わたしが絞ったクリームよりも、小鬼たちの方が形が整っていて綺麗。
驚いて小鬼たちを見れば、目の前に立つ黄色い肌をした小鬼――杏が、照れくさそうに頬を掻いた。
「えへへ。ボクたちは元々この宮殿で料理担当として働いていた眷属ですキ。故に料理に関する技巧はある程度心得ていますキ」
「そうよね、杏たちは料理担当だったわよね。でも製菓の技巧まで身につけているなんて驚いたわ。さすが閻魔様の眷属。塩おむすびしか作れない茜と葵とは大違いね」
「あはは、それは仕方ないですキ。あの二人は裁判担当。故に料理は専門外ですキ。ボクだって裁判のことはサッパリですキ」
「そっかぁ。それもそうよね」
茜と葵。今じゃすっかり大きいけど、出会った頃はこの子たちと同じ、つぶらな瞳が特徴的な可愛いマスコットのような小鬼だった。
その二人が料理を知らないながらに閻魔様の為を思ってせっせっと握った塩おむすびは、格別の味わいだったわね。ああ、また食べたいわ。頼んだら作ってくれないかしら?
「……桃花さま? あの?」
「はっ!?」
いけない、ついヨダレが口から出てた。
不思議そうにこちらを見つめる杏に、わたしは苦笑して緩く首を振った。
「ああっ、ごめんなさい! なんでもないわ! 今閻魔様たち、裁判頑張ってるのかなぁなんて思っちゃって。……閻魔様はちゃんと毎日ご飯食べてる?」
わたし天宮桃花は現在、いくつかのご縁が重なって、生者の身でありながら、冥土と現世を行き来する生活を送っている。
しかし大学生という身の上の都合上、わたしが冥土へ行けるのは、夏休み等の長期休暇除けば毎週末のみだ。
わたしが滞在している間はモリモリとご飯を平らげる閻魔様だけど、元は一千年もの長きに渡って一切食事を口にしなっかった究極の食わず嫌い。普段きちんと食事をしているのか、心配だった。
「はい、それはもう三食きちんと召し上がられていますキ。以前のお姿がまるで嘘のようで、ボクたちも作り甲斐があって張り切っていますキ」
「そう、よかった……」
まぁ彼の血色の良い顔つきを見れば、健康的な生活を送っていることは分かってはいたんだけれど。
でもこうやって普段閻魔様と寝食を共にしている子から実際に言葉でも聞けて、ホッと安心する。
「はい、本当に。それもこれも、全て桃花さまのおかげですキ!」
「ええっ!? わ、わたし!?」
特に感謝されるようなことをした覚えがなく、ビックリして目を見開く。するとニコニコと笑って杏は当然とばかりに大きく頷いた。
「もちろんですキ! 閻魔様は桃花さまと会った時に余計な心配をさせたくないと、毎日規則正しい生活を心がけているんですキ! 桃花さまの存在が、閻魔様の原動力なのですキ!」
「そ、そうなんだ……」
なんだか改めてそういう話をされると、照れてしまう。
確かにわたしと閻魔様は、本当にほんとーに奇跡ではあるけど、いわゆる〝恋人〟っていう関係で……。
でも〝閻魔様の原動力〟だなんて、本当に閻魔様はそんな風に思っていてくれてるんだろうか?
「? どうされたんですキ?」
「だって杏、わたし閻魔様にまだ――……」
「桃花さま……?」
不意に押し黙ったわたしに、杏が心配そうにそのつぶらな瞳を揺らす。
嬉しくてドキドキと早まる鼓動と、今にも胸が押し潰れてしまいそうな不安。
相反する二つの気持ち。その間で揺れ動き、考え込んでいると……。
チーーーーン!
「あ」
軽やかなオーブンの出来上がり音が台所に響いて、わたしの意識は一気にそちらへと向かった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】出戻り妃は紅を刷く
瀬里
キャラ文芸
一年前、変わり種の妃として後宮に入った気の弱い宇春(ユーチェン)は、皇帝の関心を引くことができず、実家に帰された。
しかし、後宮のイベントである「詩吟の会」のため、再び女官として後宮に赴くことになる。妃としては落第点だった宇春だが、女官たちからは、頼りにされていたのだ。というのも、宇春は、紅を引くと、別人のような能力を発揮するからだ。
そして、気の弱い宇春が勇気を出して後宮に戻ったのには、実はもう一つ理由があった。それは、心を寄せていた、近衛武官の劉(リュウ)に告白し、きちんと振られることだった──。
これは、出戻り妃の宇春(ユーチェン)が、再び後宮に戻り、女官としての恋とお仕事に翻弄される物語。
全十一話の短編です。
表紙は「桜ゆゆの。」ちゃんです。
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる