閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~

小花はな

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六品目 卵がゆ

二十八話 小鬼たちの決意(2)

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「桃花っ!! ありったけの氷、持ってきたアカーー!!」

「あら、ナイスタイミングよ茜! さぁ閻魔様、ここは観念してもらうわよ!」

「も、桃花? 何を……っ!?」


 いつもは穏やかな閻魔様の珍しく焦った声を聞きながら、わたしは茜の持ってきた氷で手早く氷嚢を作り、閻魔様の額にそっと乗せてやる。
 するとやっぱり熱でしんどかったのだろう。閻魔様が気持ち良さそうに息を吐いた。それを見たわたしは、閻魔様に穏やかに尋ねる。


「……ねぇ、閻魔様。やっぱりせめて今日一日だけは休まなきゃダメだわ。こんな高熱で……、本当は起き上がるだけでも辛いんでしょ?」

「だが、それでは裁判が――」

「あら? 閻魔様だって本当は分かってるんでしょ? 今が閻魔様を手助けする為に生まれた子たちに頼る時だって」

「「――――!?」」

 
 そう言ってわたしが茜と葵を見ると、二匹は驚いたように息を呑んだ。


「茜と葵も、分かってるよね? 閻魔様の為に・・・・・・何をすべきか・・・・・・


 わたしの言葉に少しの間二匹は不安気にこちらを見つめていたが、やがて決心したように畳に座り込み、閻魔様に向かって頭を下げた。


「恐れながら閻魔様! 裁判はオイラたちにお任せくださいだアカ!!」

「絶対にやり切りますアオ! だから、だからどうかご承諾を……っ!!」

「……っ!」


 自分で発破をかけておいてなんだが、発せられた二匹のあまりの気迫に圧倒され、わたしの体はぐらりとよろける。


「!」


 しかしすぐに横から手が伸びてきて、肩を支えられた。
 それにハッとその手の主を見上げれば、いつの間にか布団から出て立っていた閻魔様が、わたしを支えたまま茜と葵を厳しい表情で見下ろしていた。


「……茜、葵。言っている意味は分かっているのか? この場の雰囲気に流されただけのただの気の迷いとは違うのか? 冥土の裁判は死者のその後を左右するとても大事なものだ。安易な判断が出来ない。……とても難しいものなのだよ」


 閻魔様が優しく諭すような、それでいてどこか冷たく突き放したように言う。
 しかしそれにもめげず、茜と葵がなおも言い募った。


「お役目の重さは重々承知しておりますだアカ!」

「しかしオイラたちはそんな重責を担う閻魔様をお傍でずっと見てきましたアオ!」


「「一番多く閻魔様の裁判を見てきた我らをどうか信じてください!!」」


 最後には畳に額をこすりつけて茜と葵が言う。その鬼気迫る様子にわたしはすっかり吞まれてしまった。
 ――そしてそれは、閻魔様もだったのかも知れない。


「……まさかお前たちからそんな言葉を聞く日が来ようとは」


 どこか寂しそうに、でもそれ以上に喜びを隠せないと言った表情で、閻魔様が微笑む。
 先ほどまでの苦い笑いとは違う、心からの微笑みだった。


「裁判は私ですら時として悩み、そして後悔が尽きない。こんな重責、誰にも味わせたくないと思っていたが、お前はとっくに覚悟していたのだな。成長したな、茜、葵。……いや、本当は随分前からそうだったのか。私が見ようとしなかっただけで」

「閻魔様……」


 閻魔様は自嘲するように一瞬だけ目を伏せる。


「――――茜、葵」


 しかし次の瞬間には閻魔様らしい威厳に満ちた表情で、声で、態度で、二匹の小鬼の名を呼んだ。


「「――はい」」


 そしてその圧倒されるような雰囲気に呑まれることなく、茜と葵も居住まいを正す。


「今日この日より、お前たちを冥土の裁判官と任命する。その妖生尽きるまで、冥土の為に務めなさい」

「「ありがたく拝命いたします」」


 二匹が深く礼をする。


「――――!?」


 するとその瞬間、突然小鬼たちから眩い光が放たれ、輝き出したのだ。

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