41 / 65
八品目 バーベキュー
四十一話 残された時間で出来ること(1)
しおりを挟む――わたしは天宮桃花。十七歳の高校生。
わたしの両親は仕事人間でとても多忙な人たちだった。小さな頃から何かと言えば仕事優先で、わたしは放ったらかしにされることの方が多かったと思う。
「桃花、お父さんもお母さんも今夜もお仕事で遅くなるから」
「夜ご飯はお弁当をチンして食べてね。冷蔵庫に入っているから」
「……うん」
だから両親揃っての家族で食事なんて滅多にない。しかも二人ともすごく料理下手だから、ご飯と言えばもっぱらコンビニ弁当か冷凍食品、それかスーパーのお惣菜が我が家の当たり前だった。
――だけど、
「桃花! 今日はお父さんもお母さんもお仕事お休みだよ!」
「みんなでカレー作ろっか!」
「ほんとっ!? やったぁ!」
本当に、ほんとーに極たまにだけど、家族が全員揃う時があって、そういう時は両親がカレーライスを作ってくれたのだ。市販のルーを使っているからお母さんが作っても、お父さんが作っても同じ味。
「桃花、美味しい?」
「うんっ!!」
そんなカレーライスがわたしの家庭の味で、唯一の温かい手料理だった――……。
◇◆◇◆◇
閻魔様の宮殿にある庭園はとても広大である。
真ん中にあるひょうたん型の池を中心に、左側には前にわたしが落ちかけた古井戸が。そして実は右側には、見るからにお宝が眠っていそうな重厚な造りの立派な〝蔵〟があったのだ。
「う、わぁーっ!!」
四人でほっこりと煮込みうどんを啜った翌朝のこと。
今日も今日とてみんなでの賑やかな朝食を終えたわたしは、そんな前から気になっていた蔵を茜と葵と一緒に掃除をすることになったのである。
「すごいっ! 高そーな桐箱がいっぱい! あっちの壺なんて金ピカで、見るからに高級な品よね!?」
「おい、桃花。あんまりキョロキョロして、足元の品を蹴飛ばさないよう気をつけるアカ」
「もし壊しでもしたら、地獄で永遠に強制労働しても返せない程の借金を背負うことになるアオ」
「じごっ!? わ、分かってるわ……」
笑えない二人の脅し文句にゾッと頷く。
だがしかし、蔵の中には壺の他にも、掛け軸や皿などの骨董品。それに絵画や高級そうなお酒なんかも所狭しと保管されていて、否が応でもわたしの好奇心をくすぐるのだ。
ついついキョロキョロと、あちこち見てしまう。
「蔵の掃除って、どれくらいの頻度でやってるの?」
「週に一回は定期的に行っているアカ」
「へぇ、どうりで綺麗だと思った」
それなら掃除自体は、埃を軽く払うだけで済みそうだ。
「じゃあオイラたちは二階の掃除をするから、桃花は一階を頼むアオ」
「りょーかい! 任せて!」
わたしがビシッと敬礼すると、ギシギシと古い木造の階段が鈍く軋む音を立てながら、茜と葵が蔵の二階へと上っていく。
「さて、やりますか」
それを見送り、口元に手拭いをぎゅっと巻いてから、わたしはパタパタと持ってきたはたきで棚や品物の埃を落としていく。
……そうして粗方の埃を払い終えた頃だった。
「んっ? あれ? これって、もしかして……」
蔵の奥まった一角で、わたしはこの冥土には少々似つかわしくない意外なものを見つけて、目を丸くする。
「多分……お祭りとかで使うのぼりよね? あ、こっちには鉄板や木炭もたくさんあるわ」
のぼりに近寄ると、横には縁日で使うような屋台の骨組みもあった。
更に足元に雑に積まれたダンボール箱を開ければ、中には木炭がぎっしり。大きな鉄板もいくつもまとめられている。
「わっ、花火セットまである! これってまだ使えるのかしら?」
なんだか地元のお祭りを思い出して懐かしい。
屋台のご飯って、焼きそばとかたこ焼きとか別に特別な料理って訳じゃないけど、なんだか妙に美味しく感じるのよね。まるで〝特別な味〟って感じ。
「でも、一体なんでこんなものが冥土にあるのかしら……?」
――お祭りと閻魔様。
失礼だが全然結びつかず、思わずわたしは首を傾げた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる