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七品目 煮込みうどん
三十九話 穏やかな冥土のひと時の終わり(1)
しおりを挟む「閻魔様の御前に座るなど、オイラには恐れ多くて無理だアカ!」
「かと言ってお隣も緊張して味が分からなくなるアオ!」
「それじゃあどこにも座れないんじゃない!?」
わたしと閻魔様が食堂に入ると、待っていたのは茜と葵が言い争いだった。
原因は〝席〟。前は緊張する。横も緊張する。
そう言って、いつまでもいつまでも騒いでいる。
「まったく……」
先ほどわたしからお盆をひったくって食堂に行ったから、てっきり閻魔様と一緒の食事も受け入れたのかと思ったのに、このごねよう。
行き過ぎた尊敬は、ただ面倒くさいだけだ。
やっぱり二人は早急に閻魔様と馴染むべきである。
「もうっ! だったら茜と葵だけ隣の机で食べる?」
「馬鹿者! 先ほどの閻魔様のお言葉を忘れたかアカ!!」
「同じ食卓につかなくては失礼アオ!!」
「なら一体どうしたいのよ、アンタたちは……」
ああ言えばこう言う二人に頭痛がして、わたしは「はぁ……」と大きな溜息をつく。
「桃花、私に良い考えがある」
「閻魔様?」
するとこの騒ぎを黙って見守っていた閻魔様がポンとわたしの肩に手を置き、そして茜と葵の前に向き直る。
「ならば茜、葵。どの席になるか、くじで決めてはどうだろう?」
「え、くじですかアカ?」
「公明正大で、分かりやすくていいだろう? それで全員恨みっこなしだ」
「閻魔様がそうおっしゃるならアオ」
――結果的にその鶴の一声によって、良くも悪くも騒ぎは収まった。
席はわたしと閻魔様が向き合う形で座り、閻魔様の横が茜、茜の向かいが葵である。
「すまないアオ、茜」
「…………」
悠々とわたしの隣に座る葵に対して、その向かいに座る茜が緊張で肩を震わせながらもギロリと葵を睨みつける。
しかしもう、その小競り合いには付き合いきれないので、知らんぷりだ。
「さ、みんな小鍋の蓋を開けてみて。いい感じに煮えてるから」
だがしかしまぁ、現金というか。なんというか。
「ああ、そうだったね」
「お」
「どれどれ」
わたしの言葉に一斉に小鍋の蓋を開けた途端、小鍋からのぼる美味しそうな湯気と、ぐつぐつと食欲を唆る音。
みんなそれらに釘づけとなって、先ほどまでのしょーもない騒ぎなど、頭から吹き飛んでしまったのだけどね!
「うおおっ! 出汁の匂いがすごいアカ! 美味そうアカーっ!!」
「鶏肉にしいたけに卵に……。具がいっぱい乗ってて、オイラが知っているうどんより数段豪華だアオ!!」
「ふふ、煮込みうどんは具をたくさん乗せて煮込む料理なのよ。うどんの方は粉から手打ちしてみたから、ちゃんとコシが出てるか気になるところなのよね」
「ほぉ、うどんを自作したのかい? 桃花の料理の腕前には本当にいつも驚かされるな」
広く大きな食堂なのに、わざわざこじんまりとした正方形の机で四人が顔を突き合わせて、うどんを啜る。
傍から見たらなんともシュールな光景だろう。
「「んむっ! うまいアカ(アオ)!!」」
――でも、わたしにはなんだかそれがとても尊く、得難いもののように感じるのだ。
そしてそれはきっとわたしだけじゃない。
「うん、ちゃんと麺にコシがある」
茜も葵も、閻魔様も。
「……美味い」
今みんな、きっと同じことを考えてる――。
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