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六品目 卵がゆ
二十九話 閻魔様の想い(1)
しおりを挟む「何――――っ!?」
突然茜と葵が眩い光に包まれて、そのあまりの眩しさに思わず手で目を覆う。だが光は本当にほんの一瞬だけだったようで、すぐさま収まり、わたしはホッと目を開いた。
「え」
しかし、異変は突然の光だけでは終わらなかったのである。
「え、えええええっ!!? 茜、葵!? な、なんか……、姿、が…………」
わたしはプルプル震える指先で二匹を指す。
目の前の光景に二の句が継げず、口をパクパクさせてるわたしの目の前には、およそ十四、五くらいの赤毛と青毛の人間姿の少年が二人立っていた。
「ど、どうして……」
まだ幼さを残しながらも精悍な顔つきをした二人の頭上には、見慣れた一本角がキラリと光る。
間違いない。彼らは茜と葵だ。
だけど一体どうなってこうなったのか??
二人は閻魔様と同じそれぞれ赤と青の道服を身にまとっていて、凛と着こなすその姿は既に立派な冥土の裁判官に見えた。
「「閻魔様、それでは我々は裁判に行って参ります」」
そんなとんでもない様に頭が混乱するわたしに、茜と葵はチラリと視線を向け、しかし何も言わず閻魔様に片膝で礼をしたと思うと一瞬で消え去った。
「へぇっ!? 今度は茜と葵の姿が突然消えたわ!?」
「高速移動の妖術だね。小鬼から成体の鬼になったことで、格段と能力も上がったんだ。今頃はもう裁判所だろう」
「よ、〝ようじゅつ〟? だからその妖術ってなんなの?? ま、まぁそうなんだ……。あの子たち、大人になったのね……。語尾まで消えてたし」
「人間と違い、あやかしの類いは心の在り様でどんな姿にでも変化する。今の姿は茜と葵の心をそのまま映した姿と言えるだろうな」
「心……」
つまりあの子たちの〝閻魔様の役に立ちたい〟という想いが、あの姿に変えたということだろうか?
「そっか」
あのちょっとウザいくらいだった語尾と、二頭身のゆるふわマスコット体型にもう会えないのかと思うと正直寂しい。
でも、それと同じくらい、なんだか誇らしくて嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
「ありがとう、閻魔様。あの子たちの想い、受け止めてくれて」
「いや……桃花、私は礼を言われるようなことは何もしていない」
「え?」
「私は桃花に言われるまで、ずっと茜と葵を未熟なのだと決めつけていた。……それはあの子たちだけじゃない。かつてこの冥土にいたどの眷属達のことも未熟なのだと、こんな重責を担わせられないと切り捨てて、向き合おうとしてこなかった」
「…………」
かつて宮殿にはたくさんの眷属達がいた。
でもいつしかみんな、閻魔様の元から離れてしまった。
きっとそれは閻魔様を憎いとか、恨んでとかじゃない。眷属達は無力感でいっぱいだったんじゃないのかな?
一人で後悔も苦しみも全部背負いこんでしまう閻魔様に、何もしてあげられなかったことが。
「けれどそれは間違いだった。重過ぎる役目に潰されないかと案じていたが、あの子たちはそれを承知で私と共にその重責を分かち合おうとしていたのだな」
「そうね。あの子たちは裁判に携われなくとも、任せらた仕事は完璧にこなしていたわ。宮殿がこんなにも綺麗に保たれているのも、あの子たちが毎日頑張っているから。いつか閻魔様が認めてくれるって、信じていたからよ」
「ああ。――しかし」
「?」
そこで閻魔様は言葉を切って、じっとわたしを見た。
熱のせいかその紅い瞳は潤んでいて、なんだか妙な色気を感じ、ドキドキする。
「な、何?」
「それでも以前のあの子たちならば、私の意に背くような行動を取ることは決してなかっただろう。……それを変えたのは、桃花なのだろうね」
「え……」
意外なことを言われて、目を見開く。
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