16 / 65
四品目 たけのこご飯
十六話 冥土の朝は早い(1)
しおりを挟む――明けない夜はない。それは冥土も同じ。
「桃花! 朝だぞアカ!」
「早く起きろだアオ!」
「ぐえっ! ちょっ、あんた達! 人が寝てる上で飛び跳ねないで! ぐえっ!」
子どもは朝から元気というのは、どうやら小鬼にも当てはまるらしい。
人の布団の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる二匹から逃れるようにわたしはベッドから這い出る。
「うう……、今何時よ? 太陽があるなら、冥土にも時間の概念はあるわよね?」
「今はちょうど五時半だアカ!」
「もうすっかり朝だアオ!」
「五時半~!? 確かに朝だけど、早すぎるわよーっ!!」
大きく開け放たれた襖から外を見れば、まだ太陽が登り切っておらず薄暗い。
……よし、二度寝しよう!
そう思ったが、しかし愛しのベッドは小鬼たちに占拠されていて戻れず、結局わたしは観念して起きるしかなかった。
「うう、眠い。眠いよぉぉ」
「早くても朝は朝だぞアカ! さぁ、シャキッとするアカ! そしてさっさと顔洗って着替えて、箒を持て! 掃除をするぞアカ!!」
「え、掃除? あれ、昨日はわたしは〝客人〟だから手伝いはしなくていいって言ってなかったっけ?」
昨日と違うことを言われて首を傾げるわたしに、掃除用の三角巾と前掛けをちょこんと身に着けた茜と葵は、ふふんと得意げに笑った。
「聞いて喜べアオ! 実は今朝、桃花もオイラたちと一緒に宮殿の掃除をしていいと閻魔様からお許しが出たんだアオ!!」
「お前が暇を持て余し、怠惰に食っちゃ寝して過ごしていたことを伝えると、あっさりお許しなさったアカ!!」
「あ、そうなのね」
怠惰に食っちゃ寝は余計だが、事実なのでグウの音も出ない。
とはいえ小鬼たちの取り計らい素直ぬ有難い。何せ昨日一日でさえ、暇を持て余して昼寝してたくらいなのだ。労働出来るのは有り難い。
やはり体をたくさん動かして腹ペコになってこそ、ご飯というのは美味しいのだ。空腹は最高のスパイスである。
「ん? でも今朝って、一体何時のことなのよ? あなた達も閻魔様も、随分と早起きなのね?」
「閻魔様とお話するには、このくらいの早起きは必須なのだぞアカ!」
「閻魔様は毎日、夜明け前から裁判に出かけてしまうんだアオ!」
「ま、毎日、夜明け前……?」
それって一体何時起きなんだろう?
つまり五時半でも彼らにとっては遅めということなのか?
思わず気が遠くなる。
「とにかくさっさと身支度するアカ。お前の着替えは、部屋の箪笥に閻魔様のご指示で用意してあるアカ」
「へ」
「オイラたちは部屋の外で待ってるから、着替えたら声掛けるアオ」
「あ、うん」
パタンと閉まる襖の音を聞きながら、わたしは言われた通り部屋にある鏡開きの箪笥を開く。
「わ……」
すると中には着物ではなく、シンプルで動きやすそうなワンピースや掃除用と思われる作務衣。それに浴衣も入っており、更に鏡台にはお化粧道具や髪留めまでも準備されている。
「……着物がないのはわたしが着付けを出来ないから、閻魔様が気を利かせてくれたのかしら?」
なら大変有り難いけど、昨晩までに部屋のあちこちを見てもこんな代物たちは無かったはずだ。いつの間に用意したんだろう?
「あ、昨晩言ってた浴衣用の羽織まである。やっぱり晩の内に閻魔様が動いてくれたんだわ。わたしの部屋に入らずにどうやって箪笥にしまったのか、仕組みは分からないけど……」
白い小花をあしらった、上品な紫色の羽織をじっと見つめる。
「……んー、まぁ神力ってチートパワーがあるくらいだし、いちいち気にしたってしょうがないわよね!」
気を取り直して、わたしは箪笥から桜柄が可愛い作務衣を取り出す。着替えながらも考えるのは閻魔様のことだ。
「うーん。閻魔様ってわたしにはこんなに良くしてくれるけど、自分のことにはかなり無頓着なんじゃない?」
だって昨晩も遅くに宮殿へと戻って来ていたというのに、今朝も夜明け前から裁判だなんて、これでは食事どころか睡眠すらまともにとれていないのではないだろうか?
「睡眠でも神力は回復するって言うけど、寝てないんじゃ元も子もないじゃない」
確かにこれではいくら神力がチートといえども、茜と葵が心配するのも無理はないと実感した。
やはり閻魔様の望む料理を早く作らないと。
「んー……、どんな料理が閻魔様の好みに合うのかしら?」
閻魔様は手軽でつるっと食べられる料理がいいと言っていた。
つるっと……、喉越しが良い料理ということだろうか?
「喉越しの良い料理なら候補はいくつかあるけど、そこに手軽さがないとダメなのよね……」
うーん、ちょっとこれは難題かしら?
「よし出来た。茜、葵、お待たせー」
そんなことを考えながら髪留めで髪を一つにまとめ終えると、わたしは襖を開けて、待っていた茜と葵に声を掛けた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる