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四品目 たけのこご飯

十六話 冥土の朝は早い(1)

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 ――明けない夜はない。それは冥土も同じ。


「桃花! 朝だぞアカ!」

「早く起きろだアオ!」

「ぐえっ! ちょっ、あんた達! 人が寝てる上で飛び跳ねないで! ぐえっ!」


 子どもは朝から元気というのは、どうやら小鬼にも当てはまるらしい。
 人の布団の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる二匹から逃れるようにわたしはベッドから這い出る。


「うう……、今何時よ? 太陽があるなら、冥土にも時間の概念はあるわよね?」

「今はちょうど五時半だアカ!」

「もうすっかり朝だアオ!」

「五時半~!? 確かに朝だけど、早すぎるわよーっ!!」
 

 大きく開け放たれた襖から外を見れば、まだ太陽が登り切っておらず薄暗い。

 ……よし、二度寝しよう!

 そう思ったが、しかし愛しのベッドは小鬼たちに占拠されていて戻れず、結局わたしは観念して起きるしかなかった。


「うう、眠い。眠いよぉぉ」

「早くても朝は朝だぞアカ! さぁ、シャキッとするアカ! そしてさっさと顔洗って着替えて、ほうきを持て! 掃除をするぞアカ!!」

「え、掃除? あれ、昨日はわたしは〝客人〟だから手伝いはしなくていいって言ってなかったっけ?」


 昨日と違うことを言われて首を傾げるわたしに、掃除用の三角巾と前掛けをちょこんと身に着けた茜と葵は、ふふんと得意げに笑った。


「聞いて喜べアオ! 実は今朝、桃花もオイラたちと一緒に宮殿の掃除をしていいと閻魔様からお許しが出たんだアオ!!」

「お前が暇を持て余し、怠惰に食っちゃ寝して過ごしていたことを伝えると、あっさりお許しなさったアカ!!」


「あ、そうなのね」


 怠惰に食っちゃ寝は余計だが、事実なのでグウの音も出ない。
 とはいえ小鬼たちの取り計らい素直ぬ有難い。何せ昨日一日でさえ、暇を持て余して昼寝してたくらいなのだ。労働出来るのは有り難い。
 やはり体をたくさん動かして腹ペコになってこそ、ご飯というのは美味しいのだ。空腹は最高のスパイスである。


「ん? でも今朝・・って、一体何時のことなのよ? あなた達も閻魔様も、随分と早起きなのね?」

「閻魔様とお話するには、このくらいの早起きは必須なのだぞアカ!」

「閻魔様は毎日、夜明け前から裁判に出かけてしまうんだアオ!」

「ま、毎日、夜明け前……?」


 それって一体何時起きなんだろう?  
 つまり五時半でも彼らにとっては遅めということなのか?
 思わず気が遠くなる。


「とにかくさっさと身支度するアカ。お前の着替えは、部屋の箪笥たんすに閻魔様のご指示で用意してあるアカ」

「へ」

「オイラたちは部屋の外で待ってるから、着替えたら声掛けるアオ」

「あ、うん」


 パタンと閉まるふすまの音を聞きながら、わたしは言われた通り部屋にある鏡開きの箪笥を開く。


「わ……」


 すると中には着物ではなく、シンプルで動きやすそうなワンピースや掃除用と思われる作務衣さむえ。それに浴衣も入っており、更に鏡台にはお化粧道具や髪留めまでも準備されている。


「……着物がないのはわたしが着付けを出来ないから、閻魔様が気を利かせてくれたのかしら?」


 なら大変有り難いけど、昨晩までに部屋のあちこちを見てもこんな代物たちは無かったはずだ。いつの間に用意したんだろう?


「あ、昨晩言ってた浴衣用の羽織まである。やっぱり晩の内に閻魔様が動いてくれたんだわ。わたしの部屋に入らずにどうやって箪笥にしまったのか、仕組みは分からないけど……」


 白い小花をあしらった、上品な紫色の羽織をじっと見つめる。


「……んー、まぁ神力ってチートパワーがあるくらいだし、いちいち気にしたってしょうがないわよね!」


 気を取り直して、わたしは箪笥から桜柄が可愛い作務衣を取り出す。着替えながらも考えるのは閻魔様のことだ。


「うーん。閻魔様ってわたしにはこんなに良くしてくれるけど、自分のことにはかなり無頓着なんじゃない?」


 だって昨晩も遅くに宮殿へと戻って来ていたというのに、今朝も夜明け前から裁判だなんて、これでは食事どころか睡眠すらまともにとれていないのではないだろうか?


「睡眠でも神力は回復するって言うけど、寝てないんじゃ元も子もないじゃない」


 確かにこれではいくら神力がチートといえども、茜と葵が心配するのも無理はないと実感した。
 やはり閻魔様の望む料理を早く作らないと。


「んー……、どんな料理が閻魔様の好みに合うのかしら?」


 閻魔様は手軽でつるっと食べられる料理がいいと言っていた。
 つるっと……、喉越しが良い料理ということだろうか?


「喉越しの良い料理なら候補はいくつかあるけど、そこに手軽さがないとダメなのよね……」


 うーん、ちょっとこれは難題かしら?


「よし出来た。茜、葵、お待たせー」


 そんなことを考えながら髪留めで髪を一つにまとめ終えると、わたしは襖を開けて、待っていた茜と葵に声を掛けた。

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