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世界が反転するような衝撃
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けれど、翔大は良い奴だから、今も友人としての関係は続いている。
翔大は我が家にも時折やってきて、娘をよく可愛がってくれる。そして娘も、驚くほど翔大に懐いている。
娘を見ていると事あるごとに俺に似ていると感じさせられるので、好みも似ているのかもしれない。将来は翔大のお嫁さんになりたいとか言い出しそうで恐ろしい。下品な話だが、娘と竿兄妹にはなりたくないなぁ。そんなことだけが今は心配の種だ。
まぁなんにせよ、翔大は今の俺にとって最高の親友で、幼馴染だ。
そのはずなのだ。
だから、こんなにショックを受けているのは、ただ、驚いたから。
それだけだ。
「勇樹、今日の仕事は中止だ」
「え?」
朝出勤の準備をしていたら、急に専務から切迫した声の電話がかかってきた。驚いて戸惑うだけの俺に、「落ち着いて聞け」と言ってから、専務は低い声で続けた。
「翔大が刺された」
「はぁ!?」
あまりに唐突な一大事に、俺は思わず叫んだ。
「そんな!?しょ、翔太は無事なんですか!?」
「無事だ、無事だから落ち着け!お前まで怪我したら敵わん!」
イライラした様子の専務の声に、俺はカッとなって叫んだ。
「その言い方はなんですか!?翔大は被害者なんでしょう!?」
しかし。
「たしかに被害者だ。だが、同時に加害者でもあるだろうよ。というか、諸悪の根源はアイツだ」
「……え?」
苛立たし気な声で吐き捨てられる言葉に、緊張が走る。訝しそうに、そして責めるような響きを含んだ声で専務が俺に問いかけた。
「お前、本当に気づいてなかったのか?」
「な、にをですか?」
カラカラに乾いた喉から言葉を搾り出せば、専務は溜息を落とした。
「最近翔大が、後輩を片っ端から喰っちまってることだよ」
「えっ!?じゃあ、オメガか女に刺されたってことですか!?」
あの運動神経もずば抜けてイイ翔大が?余程油断していたのだろうか?
そう思考を巡らせた俺は、次に続いた言葉に完全に凍りついた。
「ちげぇよ、オスにヤられたんだよ」
「……え?」
「アイツ、男のアルファやベータやらに、自分のケツを掘らせてたんだよ!ったく、どうしちまったってんだよ」
「…………え?」
そこから先は、もう記憶にない。上役とともに今日の撮影先に謝罪をして回り、ひと段落したところで、思考が戻った。
うそだ。
ありえない。
翔大が、アルファや、ましてやベータに抱かれるだなんて。
あんな強く美しく優れたアルファが、他の格下の雄に犯される、だなんて。
気づいた時には、聞き出したばかりの病院の特別室に足を運んでいた。どうやってここまで辿り着いたのだろう。お得意のその場しのぎで誤魔化して、善意の人々を欺いて来たのだろうか。
ガチャリ、鍵のかかっていないドアを開ける。部屋に足を踏み入れれば、窓際のベッドでぼんやりと外を見ていた背の高い男がこちら振り向いた。
「……翔大」
「あれ、勇樹?」
片腕を包帯で括られている以外はいつも通りの翔大が、いつも通りの顔で俺を見る。少し驚いたように目を見開いて、そしてすぐにクシャリと顔を歪ませた。
「ごめんな、ミスって怪我しちゃって……。今日の仕事キャンセルだよな?勇樹に謝りに回らせちゃって悪い。今度俺も頭下げに行くよ」
申し訳なさそうな顔で俺に頭を下げているのは、外では傲岸不遜で傍若無人なトップモデルでも、どんな時でも俺に気安く優しい態度を崩さない、アルファの親友だ。
いつも通りの翔大を前に、俺はいつもの顔で口を開いた。
「なぁ翔大、聞きたいことがある」
「ん?」
キョトンと首を傾げる翔大に、俺は冷え切った声で尋ねた。
「お前を抱かせた男の名前、教えてよ」
「…………え?」
凍りついた翔大の元に、大股で荒々しく歩み寄り、ガッと肩を掴んだ。
「いっッ」
「教えてよ、翔大」
頭に顔を歪める翔大を見下ろして、冷え切った脳が急激に発火して、思考が焼き切れそうになる。
「今からソイツらのチンコ切り落としてくるから」
翔大は我が家にも時折やってきて、娘をよく可愛がってくれる。そして娘も、驚くほど翔大に懐いている。
娘を見ていると事あるごとに俺に似ていると感じさせられるので、好みも似ているのかもしれない。将来は翔大のお嫁さんになりたいとか言い出しそうで恐ろしい。下品な話だが、娘と竿兄妹にはなりたくないなぁ。そんなことだけが今は心配の種だ。
まぁなんにせよ、翔大は今の俺にとって最高の親友で、幼馴染だ。
そのはずなのだ。
だから、こんなにショックを受けているのは、ただ、驚いたから。
それだけだ。
「勇樹、今日の仕事は中止だ」
「え?」
朝出勤の準備をしていたら、急に専務から切迫した声の電話がかかってきた。驚いて戸惑うだけの俺に、「落ち着いて聞け」と言ってから、専務は低い声で続けた。
「翔大が刺された」
「はぁ!?」
あまりに唐突な一大事に、俺は思わず叫んだ。
「そんな!?しょ、翔太は無事なんですか!?」
「無事だ、無事だから落ち着け!お前まで怪我したら敵わん!」
イライラした様子の専務の声に、俺はカッとなって叫んだ。
「その言い方はなんですか!?翔大は被害者なんでしょう!?」
しかし。
「たしかに被害者だ。だが、同時に加害者でもあるだろうよ。というか、諸悪の根源はアイツだ」
「……え?」
苛立たし気な声で吐き捨てられる言葉に、緊張が走る。訝しそうに、そして責めるような響きを含んだ声で専務が俺に問いかけた。
「お前、本当に気づいてなかったのか?」
「な、にをですか?」
カラカラに乾いた喉から言葉を搾り出せば、専務は溜息を落とした。
「最近翔大が、後輩を片っ端から喰っちまってることだよ」
「えっ!?じゃあ、オメガか女に刺されたってことですか!?」
あの運動神経もずば抜けてイイ翔大が?余程油断していたのだろうか?
そう思考を巡らせた俺は、次に続いた言葉に完全に凍りついた。
「ちげぇよ、オスにヤられたんだよ」
「……え?」
「アイツ、男のアルファやベータやらに、自分のケツを掘らせてたんだよ!ったく、どうしちまったってんだよ」
「…………え?」
そこから先は、もう記憶にない。上役とともに今日の撮影先に謝罪をして回り、ひと段落したところで、思考が戻った。
うそだ。
ありえない。
翔大が、アルファや、ましてやベータに抱かれるだなんて。
あんな強く美しく優れたアルファが、他の格下の雄に犯される、だなんて。
気づいた時には、聞き出したばかりの病院の特別室に足を運んでいた。どうやってここまで辿り着いたのだろう。お得意のその場しのぎで誤魔化して、善意の人々を欺いて来たのだろうか。
ガチャリ、鍵のかかっていないドアを開ける。部屋に足を踏み入れれば、窓際のベッドでぼんやりと外を見ていた背の高い男がこちら振り向いた。
「……翔大」
「あれ、勇樹?」
片腕を包帯で括られている以外はいつも通りの翔大が、いつも通りの顔で俺を見る。少し驚いたように目を見開いて、そしてすぐにクシャリと顔を歪ませた。
「ごめんな、ミスって怪我しちゃって……。今日の仕事キャンセルだよな?勇樹に謝りに回らせちゃって悪い。今度俺も頭下げに行くよ」
申し訳なさそうな顔で俺に頭を下げているのは、外では傲岸不遜で傍若無人なトップモデルでも、どんな時でも俺に気安く優しい態度を崩さない、アルファの親友だ。
いつも通りの翔大を前に、俺はいつもの顔で口を開いた。
「なぁ翔大、聞きたいことがある」
「ん?」
キョトンと首を傾げる翔大に、俺は冷え切った声で尋ねた。
「お前を抱かせた男の名前、教えてよ」
「…………え?」
凍りついた翔大の元に、大股で荒々しく歩み寄り、ガッと肩を掴んだ。
「いっッ」
「教えてよ、翔大」
頭に顔を歪める翔大を見下ろして、冷え切った脳が急激に発火して、思考が焼き切れそうになる。
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