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嘘つきはホンモノの始まり

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「だって僕、あなたを見た瞬間に気づいたんですもん!あなたが運命だって。それなのに惚れ薬なんて持ってるから、こりゃヤバい!と思って捨てちゃいました。えへっ」

可愛く小首を傾げて舌を出しているのは、結婚可能年齢になった途端に俺を攫った元・少年だ。
知らぬ間に両家同意済みで、誰も止めてくれなかったし、助けてもくれなかった。
こいつは慌てる俺を笑顔で強引に組み敷き、ズッコンバッコン突きまくった。そしてひんひん泣いてる俺を犬のようにペロペロ舐めまくって、
「あまぁい~♡やっぱり智さんは♡どこもかしこもおいしいっ♡♡♡」
とハートマークが乱舞してそうな気持ち悪い声で宣った。
率直に言って変態だな、と思った。



「はぁ。待ちに待った智さんとの初夜……さいっこう……っ!」
「ぁあんっ!あはぁッ」

ドロドロにされすぎて、マトモに返事も出来ない俺をスルーして、佑希は恍惚としながら男臭い顔で笑った。

「智さんっ、僕のこと好きぃ?」
「ぅんっ、ハァっ、あぅっ」
「ウンって言ってくれたっ♡」
「言ってなっ、ァアンッ」
「うれしぃ♡僕もだいすきだよっ♡」

会話の通じないまま、最終的にはもちろん、ザクッと遠慮容赦なくうなじを噛みやがったのだ。
俺が、まだオーケーしていないのに!
まったく、とんだ大馬鹿野郎だ。

「ありえねぇっ、んっ、俺、もうお前以外とぉ、ッあ、ヤれねぇじゃん!?」
「えへへ~っ、本願成就ぅ♡」
「このっ、クソガキィッ、ぁんっ」
「やっと智さん僕のものォ♡」

エヘエヘと情けない顔で笑み崩れる佑希を、俺は快楽に溶けた目で睨みつけた。しかしもちろん全く効果はなかったし、ますます盛った馬鹿を喜ばせるだけだった。ちゅーちゅーと顔中にキスの雨を降らされて、俺はくすぐったさに身をよじる。

「あーあ!…………っんもぉ!しゃあねぇから、お前につかまってやるよッ」
「わーい♡」

わざとらしくため息をついて、俺はポスンと坂月の人間らしい逞しい腕の中に体を預けた。可愛い子ぶった返事をするくせに、もうコイツは俺より一回りも大きい。ガタイの良い元クソガキに、俺は年上として、せいぜい尊大に言い放った。

「せいぜい大事にしやがれ、ばーか」
「はいっ♡もちろんです智さんっ♡」

ハートマークを語尾に舞い散らせながら良いお返事をする年下の男にフッと吹き出す。
こんなヤバい奴に噛まれてしまっては、なんかもう仕方ないな、と思った。
そして賢い俺は、潔く人生を諦めたのだ。

…………佑希とのセックスは、たしかに脩平なんか目じゃないくらい、最高に気持ち良かったし。






まぁ、それはそれとして。

「うわぁー、飲んでなかったのかよ!まじかよ!」

ピロートークで暴露された真実に、俺は広いベッドの上で頭を抱えてのたうち回っていた。あの薬に振り回されていると思い込み、己の不用心さを海より深く後悔して、ついでに元婚約者に無駄な憎悪と憤怒を煮えたぎらせてしまった。なんてことだ。無駄すぎるエネルギーの浪費だ。凄まじい徒労感だ。

「言えよ!『いたいけなお子様の人生を狂わせちまったかなぁ』とか一瞬でも悩んでしまった俺の苦悩を返せ!」
「言えないですよ~、『運命の番に会った♡』とか言って婚約破棄されたばかりの人に!どうせ言っても、信じてくれなかったでしょ?」
「ま、ぁたしかに」

気まずくなって目を逸らす。
ぷんぷん、と口で言いながらペロペロと俺のうなじを舐めてくる奴は、本人曰く俺の運命の番らしい。
俺はキツイ抑制剤を飲みすぎて、気づいていなかったが、たしかにコイツからはイイ匂いがする。香水でもつけてんのかね色気付きやがって、とか思っていたけれど、なるほどこれがフェロモンか。俺も大概鈍い奴だな。

「いやぁ、なんにしても、あなたを年がら年中追いかけ回して、あらゆる縁組みを妨害した甲斐がありました!」

きらきらしい笑顔で非道な発言をしている男は、俺の髪を撫でながら懐かしげに目を細める。

「こんなに優良物件の僕が一途に愛を語っているのにも関わらず、一顧だにしてくれないんですもん。それなのに、他の男に次々手を出そうとして…………まさかあなたがそんな淫売とはつゆ知らず」

ひどい言われように、俺はさすがに顔を顰めて佑希の頭をペチンと軽く叩いた。

「人聞き悪いんだよ!十二歳も下のアルファを待ってたらオメガの旬が過ぎるだろう!その後でまた捨てられたら、俺は行き場がないだろうが!」

苦虫を噛み潰した顔で言えば、自信家の男はシュンとして「やはり婚約破棄のトラウマが……」とか呟いている。

「トラウマじゃねぇよ、経験値だよアレも」
「他の男の影があるのマジムカつくんで、とりあえず二度と前婚約者の話はしない方針で」

真顔のドアップで要請された。声のトーンがガチだ。これは抵抗しない方が良いな、と俺は本能で察して、「へぇへぇ」と適当に受け流した。

「でも、一応アイツ、お前の義理の兄だろ。交流あるんじゃねぇの?」
「あの人はあまりにも馬鹿な行動したので本気で縁切られてますから。もはや他人ですよ」
「へぇ。お坊ちゃん育ちには大変そうだな」
「愛があれば大丈夫なのでは?オメガさんの方は生活力あるでしょうし」
「確かに」

若い男の腕の中で、使用人が用意したワインとチーズを楽しみながら呟く。

「そう考えると、なんだかんだ、俺の人生わりと成功してるな?」
「そりゃ大成功ですよ」

背中の男がクスクスと笑う声がする。

「婚約破棄のおかげで僕はあなたに出会えて、あなたは僕に出会えたんですから。僕はあの愚義兄に感謝してますよ……あなたは感謝しなくていいですよ、あなたの貴重な感情のリソースを彼に割く必要はありません。僕が代わりに十分感謝を捧げておきますので」
「はいはい」

独占欲が強い男の馬鹿らしい発言をあしらいながら、俺はグッと後ろにもたれる。

「薬、ほんとに飲んでないの?お前」
「飲んでませんよ。飲んでも変わらないと思いますけど」
「ふぅん……」
「試しに飲みますか?」

揶揄うような言葉に「いいよ」と首を振る。

「勿論、あなたが飲みたいなら止めませんよ!惚れ薬を飲んでポーッとなって僕に抱きついてきてくれるなんて、……なんてご褒美!今度の休日の前の晩に飲みましょうよ!」
「飲まねぇよ。そもそも効果が一年なのに休日の前ってなんだよ。媚薬じゃあるまいに」
「確かに。……じゃあ媚薬飲みます?ってか飲みましょう?」
「なんでだよ」

ウキウキ言ってくる懲りない男の頭を叩く。そして一つため息をついてから、俺は慣れない言葉を紡いだ。

「クスリなんか飲まなくても、ちゃんと好きだから安心しろ」
「予告ない殺し文句は殺意ありとみなします!殺された!僕は今、智さんに殺されました!心臓一発ズキュンです!即死ですっ!罰として媚薬の内服を要請します!」
「あーもう!うるせぇよ!」

いい加減面倒くさくなってきた。

「ちょっとお前は黙っとけ!」

いつまでも騒いでうるさいガキの唇を、俺は自分の口で塞いだ。



「ホンモノの運命に勝るクスリなんかねぇだろ。それくらい分かれ、バーカ」

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