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番外編 他者視点
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「いやあれは……牽制だろ」
「やっぱそうだよなー!優しさじゃないわなぁー!」
再びガバッと机に突っ伏した俺に、ヨシキは「まだそんな夢見てんのかよ」と笑った。
「もう二度と涼哉に近づかないようにしてんだろ。まぁ、やってるのが割と善行の部類だから良いけど」
「思考回路がヤベェよなぁ」
「あれも狂人だからな」
真顔の評価に俺も笑ってしまう。確かにその通りだ。普通じゃない。
「でも……そんなヤベェ奴らとトモダチをやめられない時点で、俺らの負けだよなぁ」
しみじみ負けを認めていると、ヨシキも真っ赤な顔で静かに頷いている。お互い良い感じに酔っ払ってきたようだ。
「なんなら奴らのために、俺たち無駄に動き回っちゃってるし」
「別に感謝もされねぇのに」
「あいつらと一緒に馬鹿やれて楽しめるのが、楽しいんだよなぁ」
「お互い以外とは付かず離れずのあいつらと、仲良くできるってことに、周りに優越感抱いちゃったりしてる時点で負けだよな」
たしかに。
あいつらが魅力的すぎるのがいけない。
俺たちは愚かにも、あんな魅力的な人間たちの一本内側のラインに入れることが、嬉しくて仕方ないのだ。
「ってかさ、最近あいつら一緒に登校してくるよな」
「うん」
「譲、家帰ってなくね?」
「あー、かもな。知りたくないけど」
「察してしまう俺たち」
「oh……」
何があったか知らないし知りたくもないが、最近の涼哉は妙にギラギラしているし、譲は妙に……、なんというか、色っぽい。
いつ見ても疲れたような顔で、くったりとしているけれど、気怠げに動く仕草がとんでもなく艶かしい。
なんとなく理由の一端を察している俺たちは、敢えて確認もせず、揶揄いもせず、ひたすら口を噤んでいる。
そして最近の涼哉は恐ろしいほど上機嫌で、これまで以上に譲にかかりきりである。ついでに、譲が他者と少し会話するだけでも割って入るほどの、凄まじい独占欲に取り憑かれているのだ。
そんな涼哉に束縛され、自由を制限された譲は、酷く、……酷く、幸せそうだ。
「ゆず、早く帰ろ」
「せっかちかよ。落ち着け馬鹿、……わりぃ、また今度な」
俺たちと数分話していただけで、涼哉は不機嫌そうに呼び戻しにくる。だが、涼哉の腕に引かれて去っていく時も、譲は幸せそうに微笑んでいるのだ。それも、譲はまるで愛し合う者同士が夜通し愛を交わし合った後のような、妖艶に満たされた顔をするのだ。中学時代から見慣れたはずの笑顔なのに、こちらの胸がどきりと高鳴ってしまうことすらある。涼哉の視線が怖いので、変な気は起こさないけれど。
「譲って、なんか色っぽいよな」
ノーマルなはずの男達も、最近そんなことを言っている。そのせいで余計に涼哉は気が気ではないのだろう。涼哉の束縛は強くなる一方だ。
でも、周りのそんな反応すら、分かってやっているのかもしれない。譲は賢くて、酷く計算高いから。
「最近涼哉が理不尽なんだよねぇ」
「そんなの昔からだろ」
俺たちに向かって惚気にも似たことをのたまっていたので、あまり深入りはせずあっさりと返した。
「んー、そうかなぁ?」
納得していない顔の譲が諦め混じりに笑う。困ったように、けれどどこか嬉しそうに。
「お前ら以外の友達と話してると、ヤキモチ焼きやがるんだよねー」
「……へぇ」
他の人間と話した後は、一体どんな夜を過ごしているのか。最近の譲は、ぐったりと気怠そうな日が多く、少し襟が引っ張られると痛々しいほどの紅い痕が、数え切れないほどに散らばっている。
譲がどこかへ行ってしまわないか、不安で不安で仕方ない涼哉を見て、困ったように笑って見せながらも、いつも満ち足りたように眼を細める。
やっと、安寧が得られたとでも、言いたげに。
これは、譲が涼哉に与えた罰なのだろうか。
一見すれば、罰を与えられているのは譲だ。
自由を制限され、人との交流を断たれ、意思を許されず、まるで所有物のように扱われる。
けれど、それを、譲は望んでいたのかもしれない。
「……ま、あの二人の関係なんて、俺たちにはどうでもいいんだけどな」
「そうそう、平和であってくれればそれでいいのよ」
俺たちは祈りと共に新たな酒缶を開けて乾杯すふ。
なんにせよ、昔からの仲間たちからすると、二人の痴話喧嘩など、今更の話だ。
だが巻き込み事故だけは、ほとほと勘弁してほしい。
俺たちは、あいつらと友達でありながら、安穏と暮らしたいだけなので。
「やっぱそうだよなー!優しさじゃないわなぁー!」
再びガバッと机に突っ伏した俺に、ヨシキは「まだそんな夢見てんのかよ」と笑った。
「もう二度と涼哉に近づかないようにしてんだろ。まぁ、やってるのが割と善行の部類だから良いけど」
「思考回路がヤベェよなぁ」
「あれも狂人だからな」
真顔の評価に俺も笑ってしまう。確かにその通りだ。普通じゃない。
「でも……そんなヤベェ奴らとトモダチをやめられない時点で、俺らの負けだよなぁ」
しみじみ負けを認めていると、ヨシキも真っ赤な顔で静かに頷いている。お互い良い感じに酔っ払ってきたようだ。
「なんなら奴らのために、俺たち無駄に動き回っちゃってるし」
「別に感謝もされねぇのに」
「あいつらと一緒に馬鹿やれて楽しめるのが、楽しいんだよなぁ」
「お互い以外とは付かず離れずのあいつらと、仲良くできるってことに、周りに優越感抱いちゃったりしてる時点で負けだよな」
たしかに。
あいつらが魅力的すぎるのがいけない。
俺たちは愚かにも、あんな魅力的な人間たちの一本内側のラインに入れることが、嬉しくて仕方ないのだ。
「ってかさ、最近あいつら一緒に登校してくるよな」
「うん」
「譲、家帰ってなくね?」
「あー、かもな。知りたくないけど」
「察してしまう俺たち」
「oh……」
何があったか知らないし知りたくもないが、最近の涼哉は妙にギラギラしているし、譲は妙に……、なんというか、色っぽい。
いつ見ても疲れたような顔で、くったりとしているけれど、気怠げに動く仕草がとんでもなく艶かしい。
なんとなく理由の一端を察している俺たちは、敢えて確認もせず、揶揄いもせず、ひたすら口を噤んでいる。
そして最近の涼哉は恐ろしいほど上機嫌で、これまで以上に譲にかかりきりである。ついでに、譲が他者と少し会話するだけでも割って入るほどの、凄まじい独占欲に取り憑かれているのだ。
そんな涼哉に束縛され、自由を制限された譲は、酷く、……酷く、幸せそうだ。
「ゆず、早く帰ろ」
「せっかちかよ。落ち着け馬鹿、……わりぃ、また今度な」
俺たちと数分話していただけで、涼哉は不機嫌そうに呼び戻しにくる。だが、涼哉の腕に引かれて去っていく時も、譲は幸せそうに微笑んでいるのだ。それも、譲はまるで愛し合う者同士が夜通し愛を交わし合った後のような、妖艶に満たされた顔をするのだ。中学時代から見慣れたはずの笑顔なのに、こちらの胸がどきりと高鳴ってしまうことすらある。涼哉の視線が怖いので、変な気は起こさないけれど。
「譲って、なんか色っぽいよな」
ノーマルなはずの男達も、最近そんなことを言っている。そのせいで余計に涼哉は気が気ではないのだろう。涼哉の束縛は強くなる一方だ。
でも、周りのそんな反応すら、分かってやっているのかもしれない。譲は賢くて、酷く計算高いから。
「最近涼哉が理不尽なんだよねぇ」
「そんなの昔からだろ」
俺たちに向かって惚気にも似たことをのたまっていたので、あまり深入りはせずあっさりと返した。
「んー、そうかなぁ?」
納得していない顔の譲が諦め混じりに笑う。困ったように、けれどどこか嬉しそうに。
「お前ら以外の友達と話してると、ヤキモチ焼きやがるんだよねー」
「……へぇ」
他の人間と話した後は、一体どんな夜を過ごしているのか。最近の譲は、ぐったりと気怠そうな日が多く、少し襟が引っ張られると痛々しいほどの紅い痕が、数え切れないほどに散らばっている。
譲がどこかへ行ってしまわないか、不安で不安で仕方ない涼哉を見て、困ったように笑って見せながらも、いつも満ち足りたように眼を細める。
やっと、安寧が得られたとでも、言いたげに。
これは、譲が涼哉に与えた罰なのだろうか。
一見すれば、罰を与えられているのは譲だ。
自由を制限され、人との交流を断たれ、意思を許されず、まるで所有物のように扱われる。
けれど、それを、譲は望んでいたのかもしれない。
「……ま、あの二人の関係なんて、俺たちにはどうでもいいんだけどな」
「そうそう、平和であってくれればそれでいいのよ」
俺たちは祈りと共に新たな酒缶を開けて乾杯すふ。
なんにせよ、昔からの仲間たちからすると、二人の痴話喧嘩など、今更の話だ。
だが巻き込み事故だけは、ほとほと勘弁してほしい。
俺たちは、あいつらと友達でありながら、安穏と暮らしたいだけなので。
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