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番外編

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「位置情報発信魔法付きのネックレスの何が悪いのさ!?」
「全部よ!アレを見るたびに過去の悪夢が蘇って夫に対する憎しみが増すから売っぱらったのよ!」
「そんなぁあああ!?何がそんなに嫌だったんだ!?」
「言わないわよっ!思い出したくもないっ!」

そう、あれは思い出したくもない黒歴史だ。
ケーキを食べ過ぎてお腹を壊した私は、厠滞在時間が長すぎると心配したコーリーにドアの外から三十分声をかけられ続けられるという、淑女にはあるまじき恥辱を受けたのだ。あれは歴代のコーリーのの中でもかなり上位を争う最悪っぷりだった。
なお当然だが、売り払う前に魔法は解除してある。まぁ、一人暮らしのご老人には使い方によっては安心な魔法かもしれないと思ったので、今後改良してあの魔法を使う可能性はあるが、そんな話は横に置いておく。今はこのポンコツをのが先だ。

「それに誰よりも飽きっぽいアナタに言われたくないですけど?ぽんぽんアイデアのままに実験して、結果をまとめる前に放り出し、次から次へと移っていくアナタの研究をまとめているのは、この私よ?」

私の言葉にぎくりと顔を強張らせたコーリーは、やはり自覚があるのだろう。日々私に尻拭いをさせていると。……分かっているならやるな、本当に。毎日常人には理解できないような内容の研究が乱立していき、放置するにはあまりに惜しいそれらを形にするために、私の前には超高難度なタスクばかりが積み上がる。私の睡眠を削っているのは目の前のこの美貌の悪魔だ。そんな怒りを湛えて睨みつければ、コーリーは不利を悟ったのか、慌てて次々と言い訳を口にした。

「研究は仕方ないじゃないか!だ、だって神様が僕に次々とインスピレーションを与えるんだもの!忘れる前にとりあえずやってみなければと思うし、やってるうちに新しいアイデアが浮かぶから、思いつくままに次々と、その」
「言い訳は聞き飽きたわね」

取り付く島もなくバッサリ切って捨てれば、コーリーは涙目で縋り付いてきた。

「で、でも!僕はカミラに会ってから君以外に興味を持ったことはないよ!?」
「いや、人間に興味がなさすぎるっていうのも問題なのよ?」

この男はなにしろ私以外のほとんどの助手の名前を、まだ覚えていないのだ。魔力属性と魔力量で呼んでいる。

「あ、水属性魔力量中の方ちょっと来て~」

みたいな感じだ。普通に屑上司である。
まぁそんなことはどうでも良い。助手達も気にしていないようなので。
それより、身近に迫った我が身の危機である。

「それに、そのとやら、どっちかって言うと浮気した人間に与える罰なんじゃないの?」
「は?」

意味不明なコーリーの要求を退けるべく、そう指摘すれば、今までしょぼくれていたコーリーは突如顔色を変え、ぎらっと目を光らせて私の両腕を鷲掴んだ。

「え?なんでそんなに詳しいの?まさかカミラ浮気したの?」
「どうしてそうなる?」

とんでもない方向に進んだ会話に、私は真顔で問い返す。このポンコツに振り回されて多忙極まりない毎日で、どう浮気しろと?

「じゃ、じゃあ春本読んだことあるの!?僕と言うものがありながら!?あんなに愛し合ってるのに欲求不満なの!?そうならそうと言ってくれれば良」
「違う、落ち着け、興奮するな」

私をブンブンと振り回さんばかりに揺さぶるコーリーに、私は舌を噛まないように気をつけながら押し留めた。

「結婚前の閨房術講義の一環にあったのよ似たような体験談が」
「はぁあああ!?ふしだらすぎない!?何をしてるのさ!」
「私は快楽大好きクソ爺もしくは折檻大好き好色親父に嫁ぐ予定だったから、必須知識だったのよネそういうの」
「あああああああああ思い出させないでよ君に酷いことしちゃいそうだから!」
「なんでよ、意味わかんないわよ」

頭を掻きむしって唸っている馬鹿夫を半眼で見下ろす。コーリーは顔を上げると、天使のような美貌に毒々しく荒々しい笑みを浮かべ、危険な光を宿した眼を見開いて叫んだ。

「君が僕以外の男を選び、その男にそのふわふわの乳房を触らせ揉ませて、ピンクの乳首をこねくり回したり抓ったりさせて、つるつるの腹をぺろぺろ舐めさせて、可愛いお臍に舌をいれてお掃除させたり吸わせたりして、ヌルヌルの秘密の花園を指や舌で弄らせて、しまいには細くてキツい花道をバキバキに勃った陰茎で強引に貫かせるのだと考えたら、純情な独占欲の塊である僕のハラワタが煮えくりかえるに決まってるだろ!?」
「太陽が燦々と降り注ぐ昼食の場で淫語まみれの罵倒を浴びた私の方がハラワタ煮えくりかえってるわよ!?ふざけないで!!」

それに花道って何だ、それは淫語ですらないぞ。何かと間違えて覚えたのでは?本当にどうでも良いけれど、コーリーのこの手の知識の出所は心底疑問だ。研究者にあるまじきことに、正確性が担保されていない情報を鵜呑みにしている気がする。

「というか何?他の男、いや、好色ヒヒジジイとはそんなイヤラシイことをするつもりだったくせに、僕とはできないって?どういうこと?全然意味がわからない。僕のこと愛していないわけ?」
「あなたこそ私がしたくないと分かっていてそんなこと言うなんて愛がないんじゃないの!?愛しているなら私が嫌がることはすべきではないわよね!?」

愛の定義から問い直したいと思いつつ言い返せば、コーリーは大層美しい笑みを浮かべて、自信満々に言い切った。

「君は嫌がらないよ!僕には分かる!」

全く分からんが?
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