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しおりを挟む「おっと、私めですか?」
面倒くさいことになった、と言いたげにほんの一瞬口を歪めたアウエルは、しかし、すぐに人が良さそうな穏やかな微笑を浮かべた。いや見たからな?
「おほほ、私めなどに意見を聞かれるとは、妃殿下は柔軟な方でいらっしゃるようで」
「どう思います?」
「いやぁ、臣下にも意見を聞けるというのは、上に立つ者の素質。我が国は素晴らしい王妃様を得ま」
「どう思います?」
「……誤魔化されてくれないのですね」
にっこり。
面倒だからって話を逸らそうとしても、許しません。私の一生に一度のイベントが控えてるんですから。せっかく転生してもオタクを貫いてるんですもの。オタクの名に恥じぬ生き方をしなくては。
「で、どう思います?」
「あー、私は良いのではないかと思いますよ?」
国王のじっとりとした視線を交わしつつ、半笑いのアウエルは、赤褐色の眉を下げつつ肯定した。
「妃殿下はこの国で、人獣の架け橋としてよくお勤めくださっております。人の国に帰ってコチラに戻ってこないなどという不義理をなさる方には見えませんし、政情が見えていらっしゃるからそんな愚かな選択はなさいませんでしょう?」
「おほほほ、高く評価して頂けてるようで嬉しいわ」
チクチクする表現を挟みつつも、おおむね私に好意的なご意見を頂き感謝である。
「この国はとっても楽しいから、実家に帰るつもりはなくてよ?あそこ、息苦しいのだもの」
「妃殿下はこの国でしか出来ない楽しいご趣味をお持ちのようだし」
「うふふ」
あら嫌だ、なんで知ってるのよ。やはり女官や侍女たちの中にもこの狐のスパイがいるわね。
「なんだそれは」
「うふふ」
満面の笑みでかわす。聞くな。それは聞くな。オタクとして良心。同人ルールの最後の一線。本人バレだけは回避させてくれ。
「お聞きにならない方がよろしいですよ。何、害のあるモノではございません。ご婦人の嗜みのようなものでございますよ」
「……そうか?アウエルがそう言うなら」
おおっ、ありがとうアウエル!ファインプレーだ。
「理解のある殿方は好きよ」
感謝を込めて見つめれば、部下に対して独占欲が強い国王が不満そうに私を睨んできた。
「俺の部下に色目を使うな」
「色眼鏡なら」
「は?」
調子に乗ってブラックジョークをかましたら、案の定国王はキョトンと首を傾げ、そして。
「え?私も!?」
アウエルから驚きの声が上がってしまった。
あれ、そこは知らなかったのか。密告者もしっかり同人ルールを守って心配りしてくれていたらしい。しまったな。でもまぁ、向こうが探ってきたんだから、いっか。こちらは良識の範囲で努力しましたので。
「おほほ、私は王妃として遍く目を配り、この国の民を等しく愛しておりますもの。もちろんアウエル文官のこともね」
白々しく天女の笑みを浮かべてみせたが、アウエルは固まっている。私の趣味の餌食にされていると察して、少々肉付きの悪い頬がひくついている。ふっ、愛い反応だわね。これは受け確定。
「ま、まぁ、加護が頂けると聞いたら賛成しないわけにはいきません」
「ね!そうよね!」
これ以上藪を突かぬ方が良いと判断したらしいアウエルが、強引に話題を戻した。さすがに賢い。
「加護ありの人の姫が我が国に居てくださるのならば、それはありがたいことです。さすが陛下、そこを見越して妃殿下の純潔を守っていらしたとは!」
「いや、その、まぁ……そ、そうだな!」
突かれると痛いポイントを押さえて、アウエルが国王をヨイショする。良い仕事だ。次回作では君の見せ場を作ると約束しよう。
「ところで帰国される場合、どなたを護衛に?ご希望は?」
話がまとまったらしいと察して、これまで私の趣味の話に巻き込まれないようにか、息を潜めていた宰相が口を開いた。私はこれ幸いと希望をお伝えする。せっかくなら推しに守られたい。
「そうねぇ、騎士団長は?パレードの後ならお暇でしょう?」
「お前は本当に図々しいな?我が国の防衛の要をお前のために差し出せと?」
「団長が一人いたら、かなり少なくて済むでしょう?大所帯だとバレてしまうもの」
「は?」
うんざり顔だった国王が、私の漏らした一言に顔を強張らせる。
「こっそり帰りますわ。バレたら追い返されてしまうので」
「……招かれざる客じゃないか!」
国王はふざけるなとか叫んでいるが、奥で呆れ顔の宰相閣下と、疲れた顔のアウエルが首を振っている。諦めて下さったようでなによりだ。私の熱意が通じたらしい。
「国に帰っちまえばコッチのものです!私は必ずや聖人降臨の場に立ち合い、聖人様より加護を授かってこの国に凱旋致しますとも!」
「信用ならんわッ!!」
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