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俺様陛下と眼鏡宰相1
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この国の春本の売れ筋を探るべく図書室へ向かおうと王宮の渡り廊下を歩いていたら、珍しく声がかけられた。
「おい、お前そんなところで何をしている」
不機嫌丸出しな気配に振り返れば、雄々しい美貌の狼獣人の姿。
「あら陛下、奇遇ですわね。ご機嫌よう」
私は白々しくニコッと笑って、軽く会釈をする。夫婦の挨拶とは思えない温度感だが、まぁいつも通りだ。バリトンの美声が、今日も腐女子の鼓膜に来る。大層攻め攻めしいお声だ。良い。
「さっきまでは上機嫌だったのだがな、お前の顔を見たせいで大層不機嫌だ」
「おほほほ、それはお可哀想に」
「貴様……ッ、俺を愚弄する気か!?」
「まさか!同情申し上げていただけですわ」
挑発に挑発を返せば、国王は尚更イラッとなさったようだ。鼻の横がピクピクと痙攣しているし、眉間に深い皺が三本ほど刻まれた。あの皺、美しくないし、嫌だな。まだ若いからよろしいけど、そのうち皺が取れなくなってしまうから気をつけて欲しい。挿絵のイラストにする時は省こう。
「わたくし、秋の夜長に暇を持て余しておりまして。なにか物語でも借りてこようかと、図書室に向かうところでしたの」
ニコッと笑って空気を変え、私は前回借りてきた一般人擬態用の冒険小説を見せて差し上げた。寝る前に読むのに相応しい、少年少女向けの軽い本である。しかし私の可愛らしいチョイスに、国王の顔に嘲りが浮かんだ。
「はっ、暇人め。脳みそまで花畑らしい」
「おほほ」
おっしゃる通り、私の頭にはお花が咲いている。大変麗しい薔薇だ。そしてお前もその一部だ。薔薇の散らした寝台の上で、ベタベタの白濁まみれにしてやろうか?
……なぁんてことを言って高笑うわけにもいかないので、私は王妃に相応しい上品な笑みを浮かべてみせた。
「うふふ、陛下のおかげで、私も毎晩平穏に暮らさせて頂いております。嬉しゅうございますわ」
夜のご訪問がないおかげで、毎晩読書の後はグッスリである。心からの感謝を込めて満面の笑みで御礼を申し上げたのだが、国王は皮肉と取ったのか、カッと顔を赤くして怒鳴った。
「忌々しいッ!貴様のような雌、俺は絶対に抱かぬぞ!せいぜい空閨をかこつと良い!」
「ありがたき幸せに存じますわ」
「……っ、貴様、どこまでも俺を馬鹿にする気か!?」
ニコニコ応答していたら、何故か激昂した国王が、腰の剣に手をかけた。
「え、ちょっ!なんで剣を抜こうとなさっておいでで!?」
「馬鹿にされて黙っていられるか!」
「えええ!?」
いきなりの死亡フラグに私はびっくりドン引きである。どこが逆鱗に触れたのか。思わず二、三歩後退り、周りを見渡してしまった。周りの護衛達も国王夫妻の夫婦喧嘩にどこまで介入して良いのか分からず困惑している。私もだ。
「ちょ、お、落ち着いて下さいませ?ね?」
「黙れッ、おぞましい人間の雌め!」
激昂した国王の声は、本気の憎悪を秘めて、地面を揺らすほどに激しい。
「貴様さえ……貴様さえいなければ、俺は……ッ」
「え?」
私さえいなければ、何?宰相と結婚して二人だけでラブラブになれたのに、って?
いや無理だと思うなぁ?だって雄同士じゃ子作りできないじゃん。陛下に心酔してる宰相は、陛下の子を作って次代に繋ぎたい訳だからさ。どうしようもないと思うよ?どっかの雌を抱いて子作りはしなきゃダメだと思うなぁ。まぁ私は嫌だけど。どっかでWIN-WINになるお相手を見つけてねー。
とか呑気に脳内で突っ込んでいたら。
ガチャ
「え!?」
鼓膜に届いたのは、剣が抜かれる時に聞こえる、耳障りな金属音。ヤバいやつだ。
「ちょ、あの、陛下?」
じわり、と額に脂汗が滲む。剣術の達人と言われる国王がこんな無様な音を鳴らすなんて変よね?本気ならもう切られてるだろうし、ねぇ?そう己に言い聞かせながら、私は必死に笑顔を取り繕って目の前の殺気だった狼に声をかけた。
「お、落ち着きましょう?陛下」
「うるさい!お前などが私を呼ぶな!」
ガチガチャ
「ちょ、ええ!?」
苛立っているのか、剣を握りしめたまま私を睨みつける陛下。指先が白くなるほどの強さで武骨な剣の柄を握り込んでいる。剣を抜いて切りつけてしまいたい己を押さえ込んでいる、って感じ?
……え、本気で切られることはないよね?さすがにね?
「へ、陛下、どうか落ち着いて……」
あの、頼むからさ。剣はおろして?殺気もしまって?
「黙れッ!貴様が諸悪の根源、お前さえ消せば、全て……ッ」
「うぇえ!?」
あ、これガチギレしてる。ヤバいやつだ。
私の背中に本気の冷や汗が伝った、その時。
「こらこら陛下、おやめなさい」
天の助けが現れた。
私のイチオシ眼鏡、宰相閣下である。
「おい、お前そんなところで何をしている」
不機嫌丸出しな気配に振り返れば、雄々しい美貌の狼獣人の姿。
「あら陛下、奇遇ですわね。ご機嫌よう」
私は白々しくニコッと笑って、軽く会釈をする。夫婦の挨拶とは思えない温度感だが、まぁいつも通りだ。バリトンの美声が、今日も腐女子の鼓膜に来る。大層攻め攻めしいお声だ。良い。
「さっきまでは上機嫌だったのだがな、お前の顔を見たせいで大層不機嫌だ」
「おほほほ、それはお可哀想に」
「貴様……ッ、俺を愚弄する気か!?」
「まさか!同情申し上げていただけですわ」
挑発に挑発を返せば、国王は尚更イラッとなさったようだ。鼻の横がピクピクと痙攣しているし、眉間に深い皺が三本ほど刻まれた。あの皺、美しくないし、嫌だな。まだ若いからよろしいけど、そのうち皺が取れなくなってしまうから気をつけて欲しい。挿絵のイラストにする時は省こう。
「わたくし、秋の夜長に暇を持て余しておりまして。なにか物語でも借りてこようかと、図書室に向かうところでしたの」
ニコッと笑って空気を変え、私は前回借りてきた一般人擬態用の冒険小説を見せて差し上げた。寝る前に読むのに相応しい、少年少女向けの軽い本である。しかし私の可愛らしいチョイスに、国王の顔に嘲りが浮かんだ。
「はっ、暇人め。脳みそまで花畑らしい」
「おほほ」
おっしゃる通り、私の頭にはお花が咲いている。大変麗しい薔薇だ。そしてお前もその一部だ。薔薇の散らした寝台の上で、ベタベタの白濁まみれにしてやろうか?
……なぁんてことを言って高笑うわけにもいかないので、私は王妃に相応しい上品な笑みを浮かべてみせた。
「うふふ、陛下のおかげで、私も毎晩平穏に暮らさせて頂いております。嬉しゅうございますわ」
夜のご訪問がないおかげで、毎晩読書の後はグッスリである。心からの感謝を込めて満面の笑みで御礼を申し上げたのだが、国王は皮肉と取ったのか、カッと顔を赤くして怒鳴った。
「忌々しいッ!貴様のような雌、俺は絶対に抱かぬぞ!せいぜい空閨をかこつと良い!」
「ありがたき幸せに存じますわ」
「……っ、貴様、どこまでも俺を馬鹿にする気か!?」
ニコニコ応答していたら、何故か激昂した国王が、腰の剣に手をかけた。
「え、ちょっ!なんで剣を抜こうとなさっておいでで!?」
「馬鹿にされて黙っていられるか!」
「えええ!?」
いきなりの死亡フラグに私はびっくりドン引きである。どこが逆鱗に触れたのか。思わず二、三歩後退り、周りを見渡してしまった。周りの護衛達も国王夫妻の夫婦喧嘩にどこまで介入して良いのか分からず困惑している。私もだ。
「ちょ、お、落ち着いて下さいませ?ね?」
「黙れッ、おぞましい人間の雌め!」
激昂した国王の声は、本気の憎悪を秘めて、地面を揺らすほどに激しい。
「貴様さえ……貴様さえいなければ、俺は……ッ」
「え?」
私さえいなければ、何?宰相と結婚して二人だけでラブラブになれたのに、って?
いや無理だと思うなぁ?だって雄同士じゃ子作りできないじゃん。陛下に心酔してる宰相は、陛下の子を作って次代に繋ぎたい訳だからさ。どうしようもないと思うよ?どっかの雌を抱いて子作りはしなきゃダメだと思うなぁ。まぁ私は嫌だけど。どっかでWIN-WINになるお相手を見つけてねー。
とか呑気に脳内で突っ込んでいたら。
ガチャ
「え!?」
鼓膜に届いたのは、剣が抜かれる時に聞こえる、耳障りな金属音。ヤバいやつだ。
「ちょ、あの、陛下?」
じわり、と額に脂汗が滲む。剣術の達人と言われる国王がこんな無様な音を鳴らすなんて変よね?本気ならもう切られてるだろうし、ねぇ?そう己に言い聞かせながら、私は必死に笑顔を取り繕って目の前の殺気だった狼に声をかけた。
「お、落ち着きましょう?陛下」
「うるさい!お前などが私を呼ぶな!」
ガチガチャ
「ちょ、ええ!?」
苛立っているのか、剣を握りしめたまま私を睨みつける陛下。指先が白くなるほどの強さで武骨な剣の柄を握り込んでいる。剣を抜いて切りつけてしまいたい己を押さえ込んでいる、って感じ?
……え、本気で切られることはないよね?さすがにね?
「へ、陛下、どうか落ち着いて……」
あの、頼むからさ。剣はおろして?殺気もしまって?
「黙れッ!貴様が諸悪の根源、お前さえ消せば、全て……ッ」
「うぇえ!?」
あ、これガチギレしてる。ヤバいやつだ。
私の背中に本気の冷や汗が伝った、その時。
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天の助けが現れた。
私のイチオシ眼鏡、宰相閣下である。
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