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だれもしらない
しおりを挟む「聞いてくださいよ社長。もう本当に、翔大には手を焼いています。誰彼構わず、後輩達を食っているんですからね!」
「お疲れのようだな」
「ほとほと困り果てていますよ。本人は無意識なんですかね?アレは」
「昔から自然と人を誑し込むところはあったけど、最近のはさすがに、な」
「冗談じゃ、済まされなくなってきてますよ」
「後輩も舞い上がっちまうからなぁ」
「うちの事務所で、同性同士、しかもアルファやベータの男性同士で刃傷沙汰なんて、洒落になりません!」
「あぁ。それだけは避けたい。そんなことになったら、世紀の大スキャンダルだよ」
「この間はなんとか大事になる前に押さえ込めましたけど、こんな修羅場がこれからもまた続くとしたら、ぞっとしないですよ」
「はぁ、まったく……。翔大、ソッチの趣味はなかったと思ったんだがなぁ」
「私も想定外です。だから対処が遅れたんですけど」
「ま、オメガじゃないのがまだ救いかぁ。うっかり番持ちにでもなられたら大騒動だ」
「だいたいアルファ男性相手が多いですよねぇ、まぁ、たまにベータにも手を出してますけど」
「尻を掘られたいタイプだとは思わなかったなぁ。人は見た目によらねぇな」
「本当ですよね。あんな典型的な俺様アルファのくせして」
「はぁ……勇樹は?何か言っていたか?」
「いえ、なにも……。翔大が、後輩とベッドにいるところに、別の後輩が乱入して、ド修羅場になって、包丁で腕を切られた、なんて」
「えぇ!?そのまま伝えたのか!?」
「いや、さすがに言葉は選びましたけど。随分ショックを受けたようで、え!?と言ったきり、真っ白な顔で、何も言いませんでした。翔大が無事で、安心と安全のために暫く入院すると伝えたら、思いつめた顔を少し和らげてましたけど」
「……そうか」
「まぁ、子どもの頃から一緒の友人兼担当モデルが、同性と刃傷沙汰じゃあ、そらショックも受けますよねぇ」
「……勇樹はちっとも気づいてなかったのか?」
「そりゃ思いもしないでしょう。幼馴染が、後輩達と、ソウイウ関係だなんて。思ってた方がびっくりですよ」
「そう、だなぁ……さて、それにしてもどうするか」
「どうしましょうねぇ」
ピピピ ピピピ
「あ、すみません」
「あぁ、出ろ出ろ」
「あれ?現場からだ……はいもしも……はぁ?!勇樹戻らない?居なくなったァ?!」
「っ、なんだって?!」
「今日は翔大の謝罪行脚だろうが、アイツがいなきゃ話に」
「そんなことどうでもいい!貸せっ!……おい、どういうことだ……勇樹は翔大の見舞いに行った切り、だと?!二時間前?!ッ探せ!すぐ探し出せ!!」
「しゃ、社長!?どうしたんですか!?な、なにが」
「慌てるのが遅いんだよ馬鹿野郎!御託はいいからさっさと探せ大馬鹿野郎!」
「は、はい!ですが、あの翔大の後始末だけでも大変なのに、勇樹までいったいどうしたんでしょうか?二人そろって第二の反抗期ですか?」
「……その程度の話で済めばいいがな」
「え?どういう意味で……社長、なんでそんな顔してるんですか」
「あいつら……どっちかがどっちかを殺しててもおかしくねぇぞ」
「ええ?!何で」
「お前は知らんだろうな……勇樹の結婚前、あいつらは付き合ってたんだよ、おそらくな」
「……はぁあああ?!嘘でしょう?!」
「問い詰めたことはないから真相は分からん……が、もうおそらく手遅れだろう、な」
「ど、どういうことです」
「2時間もあれば十分だろう」
「え」
「どこへいくにも、な」
「……どこへ、いくにも?」
「あぁ、どこへ、逝くにも」
***
「なぁ、どこにいくの?」
「ん?……さぁなぁ」
「ふふっ、分からないのに、いってるのか」
「わかるひとなんて、いないんじゃないか?」
「そうかもなぁ。だぁれも、いったこと、ないんだもんなぁ」
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