俺を運命の番だと言う天才剣士はオメガで、ヒートの時は俺の使用済みパンツを盗む。

トウ子

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訓練場での戯れ合い

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「やっほー!アベルくん、完全復活です!」

ふざけた宣言と共に現れた俺の好敵手に、剣を振っていた俺は早速声をかけた。

「おぉ、やっと来たか。やるぞ」
「一週間前に違うが聞きたかったなぁ」
「何を意味わかんねぇこと言ってんだよ」
「ロドリグは冗談が通じないなぁ」

じろりとねめつければ、肩をすくめて笑いながら、アベルはいつもの調子で笑う。肩までの金髪をさらりとかきあげて、後頭部で結えるとパチリとウィンクを寄越した。

「僕とヤリ合うのが、そんなに待ち遠しかったの?」
「おう」

軽薄な冗談には真顔で返すに限る。俺はあっさりと諾うと、にやりと戦闘的な笑みを浮かべた。

「じゃ、さっそくやろうぜ?」

俺の声に、アベルが剣を手に取る。練習用の刃が潰してある剣だ。だが。

「いいよ、……おいで」

まるで男を誘う仇花のような笑みと囁き。それを合図に、剽軽に振る舞っていた男が、すうっと目を細めた。
ブン、と軽く振っただけの剣が空気を切り裂く。まるで力みのない、何気ない動き。それなのに、アベルの右手が俺に剣を向けた瞬間から、俺たちの間の空気がピンと張り詰める。
呼吸すらも躊躇われる緊張。まるで世界に互いしかいないかのように見つめ合う。

あぁ、隙がない。
どこから詰めようか。

そう思いながらジリジリと睨み合っていると、ふ、とアベルの唇が笑みの形に綻ぶ。

「え?……ッ!」
「油断はダメだよ、ロドリグ」

一瞬の隙をついて、アベルが一気に距離を詰める。突き込まれた剣先を寸でのところでかわした。

「くっそ!」
「ふふっ、ロドリグは可愛いね」

舌打ちしながら、なんとか巻き返そうと隙を探るが見つからない。撃ち込む場所が見当たらない。
また今日もアベルのペースだ。そのまま防御の体勢から攻撃に転じることはできず、そして。

「ちっくしょぉおおおお!」
「あははっ、ロドリグは素直すぎるからなぁ」
「俺は油断なんてしてねぇぞ!?」
「焦りは油断に繋がるよぉ?君には冷静さが足りないよね」
「焦ってもねぇよ!」

剣を持つのは一週間ぶりのはずなのに、ちっとも衰えをみせないアベルに嫉妬と羨望を覚える。団から支給される抑制薬があるとはいえ、発情期で寝込んでいたのだから、衰弱しても良いはずなのに。こいつはいつだって艶々だ。発情期前より元気な気すらする。腹立たしい。

「くそっ!ちょっとくらい弱ってみせろよ!」
「君にそんなみっともないところ見せられないさ。失望されるといけないからね」
「はぁ!?」

さらりと返されたセリフに目を剥く。意味がわからないと喚いても、アベルはおかしそうに笑うだけだ。

「僕は常に、君の憧れの人でいたいのさ」
「……腹立つなぁ」

パチリとやけに様になるウインクを返され、俺は悔しさに呻く。
憧れていることを否定できないからこそ、腹が立つ。そんな俺の心情を理解しているらしいアベルが、クスッと吹き出した。

「君は本当に素直だなぁ」
「嘘はつかない主義なんだよ」
「嘘がつかないだけだろう」

汗ひとつかいていない色男に優しく微笑まれて、ハァ、と大きく息を吐いた。こっちは冷や汗と脂汗で、じっとり汗ばんでいるというのに。

「はぁ……あーあ」

練習場の隅に腰を下ろし、ぼんやりと稽古の様を眺める。
俺の相手を出来るやつは、もうここにもアベルしかいない。団長クラスの方々にはまだまだ俺も及ばないから、彼らがいる時は稽古をつけてもらえるが、上層部は多忙だ。滅多にない。だから俺は、アベルがいないときは、ひたすら自主練に励むしかないのだが、……アベルは。

「お前、俺とやり合ってもつまらないだろ」
「へ?ロドリグってば急にどうしたのさ」
「必ず勝つ戦いなんて、面白くないじゃねぇか」

不貞腐れたように吐き捨てた俺に、アベルはキョトンとした後で苦笑した。

「僕、わりといつも本気なんだけど、伝わってない?」
「伝わってねぇよ。楽しそうにニヤニヤしやがって。俺をおちょくって面白いか?」
「え、面白いよ?」
「性格が悪いな!」
「あはは!」

冗談だよ、と笑い混じりの声で否定して、アベルはやけに優しい顔で俺を見た。

「これまで僕はずっと、天才だとか麒麟児だとか言われて、誰もからね。僕をきちんと本気にさせてくれる君が、真正面から挑んできてくれるのが、とても楽しいんだ」

悟り切ったような顔で言うアベルは、ただ純粋に剣を楽しんでいるように感じた。ひたすら打倒アベルを掲げて我武者羅に齧り付いている俺とは違う。一つ違うステージに立っているように感じて、悔しくなる。

「……くそっ」

俺と同じ歳のくせに、剣の道を極めた達人みたいなことを言うアベルに、俺はますます納得がいかない。なんでここまで差があるのだろう。練習量だけならば、俺の方が多いはずなのに。

「あーあ!ちくしょう」
「ふふっ、ロドリグは、なにがそんなにご不満なんだい?」

ゴロンと子供のように地面に大の字になりぼやいた。アベルは涼しい顔で上から俺を覗いてくる。揶揄うような言葉に、俺は八つ当たりするしかなかった。

「いつもいつも、何でお前はそんなに余裕なんだよ!」
「そりゃ、勝利に固執していないからじゃないかな?」
「はぁ?」

思ってもいない返答に、俺はパチクリと目を瞬いた。

「僕は君とやり合えるのが楽しいだけで、勝ちたいとは思っていないから。そこが余裕に繋がるんじゃない?」
「……嫌味な野郎だな」

つまり、相手にされていないと、本気になっていないということじゃないか。
悔しい。いつかコイツに必死な顔をさせてやる。コテンパンに負かせて泣かせてやる。絶対だ。
何百回目かの決意を胸に、俺はため息をついた。

「まぁ、俺はまだまだ成長途上だからな!今に見てろよ!」
「もう二十歳超えてるのに、元気だねぇ。ま、期待しているよ」

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