16 / 25
僕らはどうすればよかったのだろうか。あぁ、いっそのこと、生まれる前に戻れたら。
しおりを挟む「……全部、察してるんだね」
僕の顔を見た悠はポツリと呟いて、儚く微笑んだ。
俯いた頬に、ぽろりと透明な涙が伝う。ひとつだけ残った、真っ黒な瞳から。
「死ねなかった……ごめんなさい」
呻くような謝罪の言葉を皮切りに、血の気をなくした悠の唇からは、次々と絶望の悲鳴がこぼれ落ちる。
「僕は罰を受けるべきなんだ」
「あのナイフは正しかったのに」
「誰かに僕を消して欲しかった」
「自分で消えることはできなくて」
「弱虫で」
「僕は卑怯だ」
悠が口を開くたびに、僕の心臓は切り裂かれていく。
切れ切れの言葉から正答を理解して、僕は立ち尽くした。
「せっかく瞬に運命の番が現れたのに。瞬に相応しい相手が、現れたのに。喜べなくて。送り出せなくて。見たくなくて」
「ゆ、う」
違う、その感情には何も問題なんかない。
だって、僕だって、あんな男いらないんだ。
僕は、僕も、僕こそ、悠さえいればいいと思っているんだ。
そう言いたいのに、ほろほろと泣き続ける悠の前で、僕は凍りついたように立ち尽くす事しかできなかった。
あまりにも悠がぼろぼろで、何かひとつでも間違えたら、今にも砕け散ってしまいそうで。
「瞬が僕だけのもので居てくれないのならば、いっそ……瞬の中に消えない傷となって残りたいと思ってしまったんだ」
透明な悲しみの中で、悠は自嘲するように泣き笑う。
僕にそっくりの顔で、僕よりもずっと美しく。
「そのせいで、……僕の我が儘のせいで、瞬にまで傷を負わせてしまった」
美しい肌だったのに、と悠は唇を噛み締め、悔やみ切れないとでも言うように懺悔する。
悲しみの中で完結し、絶望してしまった悠に、僕は何を言えばいいのか分からなかった。
グッと拳を握りしめて目を閉じれば、雪那の笑い顔が瞼の裏に浮かぶ。
あぁ、確かにあいつの言う通りだ。
雪那は、この件については何もしていない。
けれど悠を壊したのは、間違いなくあいつだ。
あいつが小細工をして悠を引き摺り下ろそうとしたから。
あいつが僕らを引き離そうとしたから。
いや、そもそも、あいつが僕と出会ったからだ。
あの時から僕らは、少しずつ狂い始めてしまったのだ。
僕らしかいなかった世界に、無理矢理に異物が入り込んだから。
あぁ憎い。
あの男が憎い。
悠を、僕らを壊したあの男が!
「チ、クショウッ」
でも、この事態を止められなかった自分、悠を守れなかった自分も同じくらい腹立たしくて、悲しく、憎らしいのだ。
「どうして、こんなことに」
僕から悠を奪おうとするものなんて、全部、消えてしまえばいい。
そう願っていたのに。
僕から悠を奪おうとしたのが、悠本人だったなんて。
僕はどうしたらいいんだ。
「な、んで……」
ああ、神様。
僕は、僕らは、何を間違えたんだ。
僕らはどうすればよかったのだろうか。
どうしたら、僕らは壊れずにいられたのだろうか。
「悠、ゆう、ゆ、ぅ、……っ」
あぁ、いっそのこと、生まれる前に戻れたら。
何も考えず、ただ悠と二人だけで揺蕩っていられた、あの幸せな時間に。
「ぁ……あぁぁっ、うああああああっ」
マグマのように蠢く負の感情に、僕は呻くような声で泣いた。
真っ白なベッドに突っ伏して、言葉もなくただ泣き続ける僕を、悠はそっと撫でる。
まるで幼い頃、眠れない夜にそうしていたように。
2
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕
めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、
その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。
「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。
最初から、選ばされてなどいなかったことを。
αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、
彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。
「愛してるよ」
「君は、僕たちのもの」
※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる