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あなたは誰?……運命の番?僕らには、要らないよ。

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政財界の重鎮ばかりが集まる、夜のパーティー。
そんな場所に、何故か知らないが呼ばれるのが僕ら、オメガのタレントたちだ。
品評会のような視線に晒されながらにこやかに自己紹介をして、僕らはをするのだ。

「いやぁ、君たちは実に美しいね」
「若い子の間では天使だと言われていると聞くが、なるほど、分からんでもないな」

タレントを評価するふりをして、僕らを頭から爪の先まで舐めるように見る人々に、僕らは笑みを返す。

「うちの息子が君たちのファンなんだ。琴坂社長、写真を撮ってもいいかな?」
「ええ、もちろんです」

わざとらしく社長に伺いを立てた男は、社長の同意を得ると、僕らには一言の断りもなく二人の間に割り込んできた。
そして、歳のわりにやけに逞しい腕を僕らの肩に回す。

「はははっ、二人とも華奢だねぇ」
「えへへ」
「よく言われます」

不愉快な笑い声と共に抱き寄せられ、僕らの体はますます男にべったりとくっついた。
不快さを押し隠し、天使のような表情を浮かべて、僕らはフラッシュの中で笑う。

「ほほぉ、いい写真だ。等身大の人形を抱いているようだよ」
「あら、羨ましいですね。私も撮りたいわ」
「今話題の天使たちで、両手に花を体現できるとは、今日のパーティーはですな」

我も我もと僕らに群がる、汚らしい男や女。
彼らは皆、アルファだ。

「次の商品のCMでは、君たちを起用したいものだ」

鼻の下の伸びたお偉方の皆様に、僕らはそっくり同じ顔で微笑んで言うのだ。

「ありがとうございます」
「もし機会があれば、ぜひ」

と。






「疲れたね、ゆー」
「そうだね、しゅん」

まだ高校生の僕らは、会場の隅で、共にオレンジジュースのグラスを傾ける。

「もう、未成年を働かせちゃいけない時間なのにさ」
「ひどい話だよね」

口元には微笑を貼り付け、目には柔らかい光を湛えて、このパーティーをさも楽しんでいるような顔で。
僕らは仮面の下に苛立ちと疲弊を隠して、こそこそと喋る。

「早く終わらないかなぁ」
「こういうのがなければ、もっと眠れるのにねぇ」

贅を尽くしたくだらない宴は、まだ当分終わりそうもない。
僕らの貴重な睡眠時間が着実に削られていくことを実感して、笑ってしまった。

「ホント、無意味な時間……」
「そうでもないさ」
「へっ」

突然僕らの会話に入り込んだ異物。
聞いたことのない重い低声。
振り向けば、明らかに高級なスーツに身を包んだ、背の高い男が立っていた。

「っ、失礼な発言をいたしました」

慌てて声と顔を取り繕い、はペコリと頭をさげる。
しまった、とほぞを噛んだ。
僕の失言を聞かれてしまったから、この男は声をかけてきたに違いない。
生意気なオメガのタレントだ、と。

「どちらの会社の方でしょうか?ご挨拶がまだのようで、申し訳ありませんでした」

笑顔を作り、つとめて明るく尋ねた。
僕はその時、隣で固まっている片割れを、瞬を守らなければ、と必死だった。
双子とはいえ、僕は兄なのだから、弟を守る義務があるのだ、と。
けれど。

「名乗るまでもないだろう?」

男は、僕の方へはチラリとも視線を寄越さず、瞬だけを見ている。
まるで、捕らえようとでもするかのように。
どきん、どきん、と僕の心臓が嫌な音を立てる。
凶事の前兆のような静けさが、僕らの周りを包んでいた。

「名前も立場も関係なく、会った瞬間にわかる。そういうものだ」

嘲笑うような男の言葉が、僕の心を無造作に踏み荒らした。
隣で何も言得ずに固まっている瞬を見て、僕の中で嫌な予感が、確信に変わっていく。

「君もオメガなら、わかるはずだ」

男は燃えるような目で瞬を見つめ、そして決定的な一言を告げた。

「俺が、君の運命の番だよ」

神の宣告にも似た強さを持つ言葉に、僕の息が止まる。
けれど。

「……だから、何?」

蛇に睨まれた蛙のようだった瞬は、その途端に息を吹き返した。
がんじがらめに捕らえようとするような男の視線を断ち切り、そして刃向かうような眼で睨み返す。

「僕は、いらないよ、アナタなんて。……運命の番なんて、いらない」
「……ふふ、あははははっ」

反抗的な瞬の言葉に、男は目を見開いた後、上機嫌に笑い出した。

「いいね、実にいい。……うん。悪くない気分だよ、KOTO芸能事務所の時野瞬くん」

天使のような顔に冷たい決意を浮かべる瞬の顔を舐めるように見て、男は歌うような声で言った。

「ぜひ、そのままで居てくれたまえ」

余裕のある態度と、愉快そうな口調。
そして長い腕を無造作に伸ばし、男は指の先で瞬の顎に触れた。

「媚びへつらってくるオメガは、もう飽き飽きなんだ」
「……触るな」

振り払われた己の手へ楽しげに口付ける男は、瞬の怒りや苛立ちを心底楽しんでいるようで、狂気を感じた。
金と地位と権力を持つ人間たちの多くが持っている狂気。
他者の人生を、ゲームの駒のようにしか考えていない人間たちの、狂気だ。

「僕は誰とも番になる気はない。だから、諦めて」
「ふふっ、バカだなぁ」

バッサリと切り捨てた瞬に、男はまるで幼児を相手にしているかのような顔で笑う。
それを横目に見ながら、瞬は金縛りにあったように固まっていた僕の腕を取って「行こう」と告げ、男に背を向ける。

「せっかく見つけたのに、簡単に諦めるわけないじゃないか」

立ち去る僕らを追おうともせず、男は独り言のように呟く。

「運命からは逃れられないよ。……君は、俺のオメガだからね」

まるで、勝利が決まっている、遊戯のように。
優雅に微笑みながら。


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