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地獄に住まう禁忌の子
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もう何年、ぼくはここにいるのだろう。
「……せんせい」
「起きたのかい?可愛いルーカス」
ぼんやりと目を開ければ、豪奢な黄金色の天蓋と、寝台を覗き込む美貌の男の姿が目に入る。圧倒的な強者のオーラを持つ彼は、僕を支配し管理するアルファだ。僕は彼を先生と呼んでいる。
「さぁ、朝食だよ。君の大好きなベーコン入りオムレツがある。口を開けてごらん?」
赤子に対するように優しく言われ、僕は大人しく口を開けた。
僕はオムレツが好きだったのだろうか?ベーコンが入っていると特に?分からない。この絢爛豪華な幽閉部屋にいる間に、感情も記憶も曖昧に溶けて消えてしまったから。
「どうだい?おいしい?」
「……は、い」
「それはよかった」
本当は味なんかわからないけれど、先生がどことなく不安そうだから、僕は大人しく頷いた。そうすれば先生は嬉しそうに笑ってくれるから。
てずから食べさせてくれた先生は、僕の口元をそっと真っ白の布巾で拭い、優しい笑みを浮かべた。
「ルーカス、そろそろ次の発情期だね。気分はどうだい?」
「……え、っと、普通です」
ぞくりと背筋に氷水が垂らされたような気分になりながらも、僕は目を伏せて返事を返す。まるで恥じらっているようなそぶりで、先生から視線を外した。暗く澱んだ感情を読まれないように。
「待ち遠しいねぇ。とりあえず、今日も搾精しておこうか」
「……はい」
しばらく沈黙した後で頷いた僕に、先生は穏やかに唇を歪めて、僕を抱き寄せると囁いた。
「大丈夫、恥ずかしいことじゃないよ。外じゃあみんなやってることだから」
本当だろうか。
外の世界を忘れてしまった僕には、先生の言葉の真偽が分からない。
「んっ、あ……あぁっ!やぁ……せんせッ」
「ふふっ、可愛いねぇ。少年のようなペニスがぷくぷくに膨らんでる」
「あぁあっ」
先生の手で育てられた僕の陰茎は、可哀想なほどに膨張して、今にも弾けんばかりに震えている。僕の痴態を見ても、先生は穏やかな表情を崩さない。
「ん……っ、せんせ……」
「愛しいルーカス、君は本当に素晴らしいね」
「ああっ」
ちゅっ、とペニスに口付けられて、僕は喘ぎながら腰を突き出した。もっと舐めて欲しい。咥えて欲しい。
「おねがっ、……んっ、せんせッ、おねがいぃ」
泣き声で更なる快楽を求めて手を伸ばせば、先生は優しく僕の手を取り、微笑を浮かべて僕のペニスに口を寄せた。
「ちゃんとおねだりできて、良い子だね」
「ぁああっ!あーーッ」
甘い囁きとともに僕のペニスは先生の熱い口の中に飲み込まれる。激しい口淫に僕は悲鳴じみた嬌声をあげた。
「はぁ……君の体液はなんて甘いのだろうか……」
ちゅっと、状況に似合わない愛らしいリップ音を立てて、先生の唇が離れていく。チラリと目線を流せば、白衣の上からでも分かるほど先生の下半身は盛り上がっていた。アルファのペニスはオメガを犯し孕ませようと暴れたがっているのに、なぜか先生は僕を抱いてくれない。
「おや、上も下も、しくしく涙をこぼしているよ。かなしいの?」
僕が快楽の強さで泣いていると思った先生は、満足そうな笑みで僕の目尻を拭ってくれた。たしかにペニスからは堪えきれない欲望の雫がじわじわと滲んでいるだろう。実際、僕の体はもう限界だった。
「せんせぇ……も、おねが……」
「ん?なにが?」
大きな手が宥めるように優しく触れるたびに、体ごとピクピクと跳ねる僕を見て、先生が意地悪な笑みを浮かべて尋ねる。僕は泣きながら希った。
「も、イキた……い……ッ」
「ふふ、ちょっと待ってね」
僕の懇願に嬉しそうに笑うと、先生はあっさり僕のパンパンに腫れた陰茎から手を離して立ち上がった。
「精液は清潔に採取しなきゃね」
「……ぅ、んんっ」
キュッと冷たい液体で先端を消毒されて、ビクンと腰が跳ねる。こんな刺激にも反応してしまう己の体が恨めしい。でも仕方ない。こうなるように、先生が僕を作り上げたのだから。
「さぁ、今日も後ろの刺激だけで射精しようね。そうすると、とっても清潔に採精できるからねぇ」
そう言って、先生は手袋を嵌めた手にたらりとオメガを発情させる媚薬ジェルを垂らした。
「さぁ、横を向いて。指で突いてあげるから、上手にカップの中に出すんだよ」
僕はこの、医療じみた行為がとても嫌だった。僕の精液を採取するための行為なのだから仕方ないのだけれど。でも、ただ受け入れるのは耐えられなくて。
「……ね、ねぇ、先生ッ、お願いっ」
いつものように道具を準備した先生に、僕もまたいつもと同じように願った。
「採精、がんばるからっ!お願い、先生のペニスでイカせて……ッ」
「……可愛いルーカス、それは難しいね」
涙声の僕の懇願に、先生は困ったように笑って首を振る。僕は泣きながら、服越しにも分かる硬く太く熱い棍棒のようなペニスに手を伸ばした。
「なんで……っ?ここにあるコレを、挿れてくれればいいだけでしょう?」
僕が触れた刺激で、びくりとひとまわり大きさを増した灼熱の肉棒に、僕は擦り寄り懇願する。
「ねぇおねがい。コレをちようだいよ」
「すまないが、それは無理だよ」
僕が必死にねだっても、先生は苦笑して首を振るだけだ。
「それをすると、僕の子を孕んでしまうかもしれないだろう?いくら避妊魔具があると言っても、万が一がある。そんなことになったら大変だ」
「先生……」
一体何が大変なの。それの何がいけないの。
オメガがアルファの子を孕むことの、なにが。
そう思いながらも、先生の悲しげな顔の前に、僕は詰ることも出来ず声を詰まらせる。
いつものように断られて、いつものように僕は泣く。
それだけだ。
「なんでだめなの……?ぼくは、孕むならあなたの子を孕みたいのに」
「私は君自身だけから生まれた、君だけの子が欲しいんだよ、ルーカス。それがいつか、この世界の光になるんだ」
いつものように、先生は遠くを見る眼差しで、愚かなオメガの僕には理解できない話をして、そして優しく僕の髪を撫でる。
「その日が楽しみだ。この世の美しいものだけを凝らせて生まれた君から生み出された子は、きっと何よりも清らかで美しいだろうからね」
「そんなぁ……ッ、んっ、あーーっ」
「さぁ、イキなさい。次の発情期こそ受胎できるように、たくさん出しておきなさいね」
会話の最中も休まずなだらかに僕を頂点へと追い上げていた先生の手が、緩やかに速度を増す。
「やっやだよぉ!お願いだから僕を抱いてよッ、んーーーっ」
先生を求めて涙ながらに手を伸ばすも、ひ弱なオメガである僕の抵抗は易々と封じられてしまう。後孔に長い指を挿入され、弱点ばかりを徹底的に刺激されて、僕はよがりくるいながら必死に目を開ける。冷静に僕のペニスの先へ容器を当てている先生は、何かを押し隠すかのような無表情だ。
「せんせ、せんせぇっ!あなたの子をはらませてぇッ」
「無理だよ、私には無理だ」
どうして先生は僕を抱いてくれないのだろう。僕を愛しいと言いながら、なぜ僕と子を作ろうとしてくれないのだろう。
「んっ、ぅんんんッ、あっぁあああッ!」
慟哭のような嬌声とともに、僕は吐精し、満足げに頷く先生を横目に意識を沈めていく。
「さぁ、次の発情期こそ、うまくいくといいのだけれど。ねぇ、ルーカス」
「……はい、せんせぃ」
僕はちっともうまくいって欲しくないけれど、先生が同意を求めてくるから、虚ろな意識の中で頷く。
きっとまた、発情期には縛られて、胎内にシリンジで自分の精液を注入されるのだ。そして腰を上げたままの状態で、蓋をするのだと笑う先生に、自分のペニスよりも何倍も太い擬似男茎を差し込まれる。
酷く屈辱的で、けれど先生の手で苦しく疼き貪欲な収縮を繰り返す内腔を犯されるのは、どこまでも刺激的で、僕は泣きながら悦びの悲鳴をあげてしまうのだ。
発情期のたびに、実験動物のように授精させられ続ける日々は、いつから始まったろうか。
もう僕には始まりが思い出せないほど、長く続いている。
けれど近親婚よりもさらに濃いこの狂気の沙汰が実を結び、受胎することはめったにない。
溢れるほどの己の精液を己の子宮に注がれても、孕むのは十回に一度ほど。それすらもこれまでは全て流れてしまい、まだ僕が出産に辿り着けたことはない。
僕の子が流れるたびに、悲しげに涙を流す先生に、僕はなんと言葉をかければいいのか分からない。
こんな行為は神が許していないのだと叩きつけられているのだと思いながらも、そう口にすることはできない。それを言えば、全てが終わってしまうような気がして。
「いつか……先生は僕を抱いてくれる?」
眠りに落ちる間際、ぽつりと尋ねた言葉に、精液を処理していた先生が動きを止める。
「……そう、だね。いつか……」
言葉を止めて、先生は夢見るような瞳で僕を見て、優しく額を撫でた。
「いつか、君が子を産めたなら、……完全な君の複製が手に入ったのならば……私も君を抱きたいと願っているよ」
ちゅ、と温かい口付けをを額と頬に落とし、先生は微笑みながら呟いた。
「神の摂理に反した僕の悪行を、神が許してくれるのならば、ね」
許されるわけがないのだけれどと笑いながら、先生は僕に言う。
「そんな日が、いつか来るといいね」
「……えぇ」
あぁ、そんな日は来ないのだろう。
そう察しながら、僕は頷き、うっすらと笑む。
「永遠に君だけを愛しているよ。壊れてしまわないように、大切に大切に愛していくよ。私だけの、美しいルーカス」
「……僕も、先生を愛しています」
あぁ、これはなんという。
なんという、地獄だろうか。
「……せんせい」
「起きたのかい?可愛いルーカス」
ぼんやりと目を開ければ、豪奢な黄金色の天蓋と、寝台を覗き込む美貌の男の姿が目に入る。圧倒的な強者のオーラを持つ彼は、僕を支配し管理するアルファだ。僕は彼を先生と呼んでいる。
「さぁ、朝食だよ。君の大好きなベーコン入りオムレツがある。口を開けてごらん?」
赤子に対するように優しく言われ、僕は大人しく口を開けた。
僕はオムレツが好きだったのだろうか?ベーコンが入っていると特に?分からない。この絢爛豪華な幽閉部屋にいる間に、感情も記憶も曖昧に溶けて消えてしまったから。
「どうだい?おいしい?」
「……は、い」
「それはよかった」
本当は味なんかわからないけれど、先生がどことなく不安そうだから、僕は大人しく頷いた。そうすれば先生は嬉しそうに笑ってくれるから。
てずから食べさせてくれた先生は、僕の口元をそっと真っ白の布巾で拭い、優しい笑みを浮かべた。
「ルーカス、そろそろ次の発情期だね。気分はどうだい?」
「……え、っと、普通です」
ぞくりと背筋に氷水が垂らされたような気分になりながらも、僕は目を伏せて返事を返す。まるで恥じらっているようなそぶりで、先生から視線を外した。暗く澱んだ感情を読まれないように。
「待ち遠しいねぇ。とりあえず、今日も搾精しておこうか」
「……はい」
しばらく沈黙した後で頷いた僕に、先生は穏やかに唇を歪めて、僕を抱き寄せると囁いた。
「大丈夫、恥ずかしいことじゃないよ。外じゃあみんなやってることだから」
本当だろうか。
外の世界を忘れてしまった僕には、先生の言葉の真偽が分からない。
「んっ、あ……あぁっ!やぁ……せんせッ」
「ふふっ、可愛いねぇ。少年のようなペニスがぷくぷくに膨らんでる」
「あぁあっ」
先生の手で育てられた僕の陰茎は、可哀想なほどに膨張して、今にも弾けんばかりに震えている。僕の痴態を見ても、先生は穏やかな表情を崩さない。
「ん……っ、せんせ……」
「愛しいルーカス、君は本当に素晴らしいね」
「ああっ」
ちゅっ、とペニスに口付けられて、僕は喘ぎながら腰を突き出した。もっと舐めて欲しい。咥えて欲しい。
「おねがっ、……んっ、せんせッ、おねがいぃ」
泣き声で更なる快楽を求めて手を伸ばせば、先生は優しく僕の手を取り、微笑を浮かべて僕のペニスに口を寄せた。
「ちゃんとおねだりできて、良い子だね」
「ぁああっ!あーーッ」
甘い囁きとともに僕のペニスは先生の熱い口の中に飲み込まれる。激しい口淫に僕は悲鳴じみた嬌声をあげた。
「はぁ……君の体液はなんて甘いのだろうか……」
ちゅっと、状況に似合わない愛らしいリップ音を立てて、先生の唇が離れていく。チラリと目線を流せば、白衣の上からでも分かるほど先生の下半身は盛り上がっていた。アルファのペニスはオメガを犯し孕ませようと暴れたがっているのに、なぜか先生は僕を抱いてくれない。
「おや、上も下も、しくしく涙をこぼしているよ。かなしいの?」
僕が快楽の強さで泣いていると思った先生は、満足そうな笑みで僕の目尻を拭ってくれた。たしかにペニスからは堪えきれない欲望の雫がじわじわと滲んでいるだろう。実際、僕の体はもう限界だった。
「せんせぇ……も、おねが……」
「ん?なにが?」
大きな手が宥めるように優しく触れるたびに、体ごとピクピクと跳ねる僕を見て、先生が意地悪な笑みを浮かべて尋ねる。僕は泣きながら希った。
「も、イキた……い……ッ」
「ふふ、ちょっと待ってね」
僕の懇願に嬉しそうに笑うと、先生はあっさり僕のパンパンに腫れた陰茎から手を離して立ち上がった。
「精液は清潔に採取しなきゃね」
「……ぅ、んんっ」
キュッと冷たい液体で先端を消毒されて、ビクンと腰が跳ねる。こんな刺激にも反応してしまう己の体が恨めしい。でも仕方ない。こうなるように、先生が僕を作り上げたのだから。
「さぁ、今日も後ろの刺激だけで射精しようね。そうすると、とっても清潔に採精できるからねぇ」
そう言って、先生は手袋を嵌めた手にたらりとオメガを発情させる媚薬ジェルを垂らした。
「さぁ、横を向いて。指で突いてあげるから、上手にカップの中に出すんだよ」
僕はこの、医療じみた行為がとても嫌だった。僕の精液を採取するための行為なのだから仕方ないのだけれど。でも、ただ受け入れるのは耐えられなくて。
「……ね、ねぇ、先生ッ、お願いっ」
いつものように道具を準備した先生に、僕もまたいつもと同じように願った。
「採精、がんばるからっ!お願い、先生のペニスでイカせて……ッ」
「……可愛いルーカス、それは難しいね」
涙声の僕の懇願に、先生は困ったように笑って首を振る。僕は泣きながら、服越しにも分かる硬く太く熱い棍棒のようなペニスに手を伸ばした。
「なんで……っ?ここにあるコレを、挿れてくれればいいだけでしょう?」
僕が触れた刺激で、びくりとひとまわり大きさを増した灼熱の肉棒に、僕は擦り寄り懇願する。
「ねぇおねがい。コレをちようだいよ」
「すまないが、それは無理だよ」
僕が必死にねだっても、先生は苦笑して首を振るだけだ。
「それをすると、僕の子を孕んでしまうかもしれないだろう?いくら避妊魔具があると言っても、万が一がある。そんなことになったら大変だ」
「先生……」
一体何が大変なの。それの何がいけないの。
オメガがアルファの子を孕むことの、なにが。
そう思いながらも、先生の悲しげな顔の前に、僕は詰ることも出来ず声を詰まらせる。
いつものように断られて、いつものように僕は泣く。
それだけだ。
「なんでだめなの……?ぼくは、孕むならあなたの子を孕みたいのに」
「私は君自身だけから生まれた、君だけの子が欲しいんだよ、ルーカス。それがいつか、この世界の光になるんだ」
いつものように、先生は遠くを見る眼差しで、愚かなオメガの僕には理解できない話をして、そして優しく僕の髪を撫でる。
「その日が楽しみだ。この世の美しいものだけを凝らせて生まれた君から生み出された子は、きっと何よりも清らかで美しいだろうからね」
「そんなぁ……ッ、んっ、あーーっ」
「さぁ、イキなさい。次の発情期こそ受胎できるように、たくさん出しておきなさいね」
会話の最中も休まずなだらかに僕を頂点へと追い上げていた先生の手が、緩やかに速度を増す。
「やっやだよぉ!お願いだから僕を抱いてよッ、んーーーっ」
先生を求めて涙ながらに手を伸ばすも、ひ弱なオメガである僕の抵抗は易々と封じられてしまう。後孔に長い指を挿入され、弱点ばかりを徹底的に刺激されて、僕はよがりくるいながら必死に目を開ける。冷静に僕のペニスの先へ容器を当てている先生は、何かを押し隠すかのような無表情だ。
「せんせ、せんせぇっ!あなたの子をはらませてぇッ」
「無理だよ、私には無理だ」
どうして先生は僕を抱いてくれないのだろう。僕を愛しいと言いながら、なぜ僕と子を作ろうとしてくれないのだろう。
「んっ、ぅんんんッ、あっぁあああッ!」
慟哭のような嬌声とともに、僕は吐精し、満足げに頷く先生を横目に意識を沈めていく。
「さぁ、次の発情期こそ、うまくいくといいのだけれど。ねぇ、ルーカス」
「……はい、せんせぃ」
僕はちっともうまくいって欲しくないけれど、先生が同意を求めてくるから、虚ろな意識の中で頷く。
きっとまた、発情期には縛られて、胎内にシリンジで自分の精液を注入されるのだ。そして腰を上げたままの状態で、蓋をするのだと笑う先生に、自分のペニスよりも何倍も太い擬似男茎を差し込まれる。
酷く屈辱的で、けれど先生の手で苦しく疼き貪欲な収縮を繰り返す内腔を犯されるのは、どこまでも刺激的で、僕は泣きながら悦びの悲鳴をあげてしまうのだ。
発情期のたびに、実験動物のように授精させられ続ける日々は、いつから始まったろうか。
もう僕には始まりが思い出せないほど、長く続いている。
けれど近親婚よりもさらに濃いこの狂気の沙汰が実を結び、受胎することはめったにない。
溢れるほどの己の精液を己の子宮に注がれても、孕むのは十回に一度ほど。それすらもこれまでは全て流れてしまい、まだ僕が出産に辿り着けたことはない。
僕の子が流れるたびに、悲しげに涙を流す先生に、僕はなんと言葉をかければいいのか分からない。
こんな行為は神が許していないのだと叩きつけられているのだと思いながらも、そう口にすることはできない。それを言えば、全てが終わってしまうような気がして。
「いつか……先生は僕を抱いてくれる?」
眠りに落ちる間際、ぽつりと尋ねた言葉に、精液を処理していた先生が動きを止める。
「……そう、だね。いつか……」
言葉を止めて、先生は夢見るような瞳で僕を見て、優しく額を撫でた。
「いつか、君が子を産めたなら、……完全な君の複製が手に入ったのならば……私も君を抱きたいと願っているよ」
ちゅ、と温かい口付けをを額と頬に落とし、先生は微笑みながら呟いた。
「神の摂理に反した僕の悪行を、神が許してくれるのならば、ね」
許されるわけがないのだけれどと笑いながら、先生は僕に言う。
「そんな日が、いつか来るといいね」
「……えぇ」
あぁ、そんな日は来ないのだろう。
そう察しながら、僕は頷き、うっすらと笑む。
「永遠に君だけを愛しているよ。壊れてしまわないように、大切に大切に愛していくよ。私だけの、美しいルーカス」
「……僕も、先生を愛しています」
あぁ、これはなんという。
なんという、地獄だろうか。
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