いつか幸せを抱きしめて~運命の番に捨てられたαと運命の番を亡くしたΩ~

トウ子

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いつか離れるその日まで〜βとΩの発情期〜

噛みついたうなじ

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夜になり、獣欲の波が貴志を襲う。

「だから、風邪ひくだろ」

深夜の水音に目を覚ませば、やはり貴志はバスルームにいた。
懲りもせずに冷水を浴びていた貴志を、ため息をついて抱え上げた。
全身を火照らせて動くこともままならない貴志を抱え上げ、ベッドに運ぶ。
ぐったりと力のない体をマットレスの上に下ろそうとした、が。

「うわっ」

俺の首に両腕を回して、離そうとしない貴志のせいで、俺はベッドに倒れこんだ。
慌てて両腕を突いて自分の体重を支えるが、貴志の上昇した体温が布越しに肌へ伝わって、身体が熱くなった。

「貴志、離して」

我慢の下手な自分の欲望が兆してきそうなことを察して、慌てて貴志に両腕を離せと告げた。
しかし、貴志はより強く、俺の首を引き寄せた。

「貴志!」
 「なぁ、頼む」

慌てて咎めた俺の声に被せるように、貴志が切羽詰まった囁きを漏らした。
 泣きそうに潤んだ声が、耳元で呻いた。
貴志が俺に縋りつく。

 「今だけでいいから、抱いて」

至近距離で発せられた貴志の声は、俺の鼓膜を直に震わせる。
熱い吐息に、脳がくらくらと逆上せてしまいそうで、慌てて離れようとした。
けれど。

「でもっ」
「しゅういち」

幼気な瞳で見つめられて、俺は反論を封じられた。

「たすけて、しゅういち」

縋り付く腕を、離せなかった。




一度箍が外れてしまえば、もう歯止めはきかなかった。
綺麗な貴志を、自分は綺麗な思いで見てはいなかったのだと、突きつけられた。

自分がどれほど、貴志を欲しがっていたのか、と。



「あっ、ぁあ、ソコッ、ぃ」

ガツガツと、飢えた獣のように、貴志の体を貪る。
背中から犯しながら、犬のような荒い息を吐いた。

「あっ、シュウ、しゅういち!」
「ハッ、たか、し」
「ぁアッ」

ぶるりと大きく震えて、貴志が既に透明に近くなった液体を先端から溢した。
既に幾たびも精を放ったはずの貴志の体は、けれどもまだこれからとばかりに蠢いて、俺を刺戟しようとする。

「お願いっ、もっと!」
「っ、あぁ、分かって、る!」 

あまりの快感に放出しそうになりながらも、必死に激しく腰を撃ち込んで、貴志を悦ばせる。
発情したオメガの満たされることのない飢えを、少しでも緩和させることが出来るように。

 「ねぇ!噛んでッ、お願い」

振り返った貴志が、眦から透明な涙を溢しながら嘆願した。

なんて無意味な願いだろうか。
ベータがオメガを噛んだところで、どうなるというのか。

けれど。

「おねがいッ、しゅういち、噛んでぇ!」

泣きながら、喘ぎの隙間から言葉を必死に絞り出すように、貴志が叫ぶ。

貴志に求められている。
そのことが、ひたすらに俺の中の熱を滾らせた。

虚無感と背徳感と征服欲と興奮と憐憫と、愛情。
そんな雑多な感情が一気に胸へ押し寄せ、完全に理性を手放した俺は、容赦なく貴志の項に噛み付いた。

 「っ、ぁあッ」

 ガブリと血の滲むほど強く項に歯を立てると、腕の中で貴志は感極まったような悲鳴を零した。
どくどくと脈打つ動脈の力強さに眩暈を起こしそうになりながら、獣のように何度も首筋に噛みつく。

 「ひぃ、あ、あぁ」

ぶるぶると体を震わせる貴志は、押し寄せて引くことのない絶頂の波の中で、意識を光に溶かしているようだった。

「たか、しっ」
「あっ、しゅういちィッ」

アルファよりは数段貧弱な己の欲望を打ち付けながら、俺はひたすら貴志を抱きしめた。

 「あ、もっと、噛んで!」
 「っふ、あぁ、分かってる」

 喘ぐような泣き声の懇願と、物足りないとでも言うように蠢く内腔に泣きたくなりながら、必死に貴志に食らいつく。
 項だけではなく、頸動脈を噛み切ろうとするように、側頸部にも、何度も噛み付いた。
アルファとオメガの交わりならば、必要なんてないのだろう場所にも。
 自分の痕を刻みつけようとでもするかのように。

「もっとッ、もっとして!」
「あぁっ、幾らでも、してやるさ」

俺でよければ、幾らでも与えてやる。

たとえ無意味な交わりなのだとしても。
たとえ俺では、本当の意味ではお前を満たせないのだとしても。
ほんの一時、お前の苦しみを誤魔化す役に立てるのならば、それで良い。

いつか、貴志には運命の相手がやってくる。
そうでなくても、きっと番のアルファが現れるのだろう。

けれど、それまでは。
俺に出来る精一杯で、俺がお前を守り、愛し、満たしたい。

いつか離れるその日まで。
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