チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
上 下
380 / 387
それは一輪の花のように

しおりを挟む
「…………なん、で?」


 ディランさんが絶望に満ちた顔で僕を見た。……僕が振り上げた剣が、ディランさんを貫くことはなかった。
 僕の剣が貫いたのは……僕自身だ。


「――羽汰っ!?」


 アリアさんが僕を見て叫び、一瞬ディランさんをみてから、僕に駆け寄る。


「何やってるんだ! バカなのか!? なんでっ……なんでまた、ここじゃ! まともに回復魔法使えるかも分からないんだぞ!?」

「あ、はは……大丈夫ですよ……。ちゃんと、加減……しましたから」

「は、春の」

「フローラ、ダメだよ。ここで春の息吹は使っちゃダメだ……。対象が『全員』なんだから、フローラは、ダメージを受けちゃう……」

「でもっ……」


 フローラを止めれば、僕は、ディランさんの方を見た。そして、あの巾着袋を取りだした。
 中の花はほんの少しも萎れておらず、綺麗だ。……きっと、ディランさんか、なにか魔法でもかけていたのだろう。淡くキラキラと、この暗い空間で輝いていた。


「……ディランさん、どうか、戻ってきてください。世界が滅びる心配なんて、しなくていいんですよ。だって……僕はここで死にます。『ディラン・キャンベルを救う』という一つの使命を全うして、ここで、死にます」

「そん……な…………、羽汰、君は、僕がどんな状態なのか、分かってないのか……? こうして話すだけで精一杯なんだ。今にも心が崩れ落ちそうで……怖くて、苦しくて、たまらないんだ。いつ大切な人を……アリアを、手にかけてしまうかもしれない恐怖、君にならわかるだろう……? 羽汰…………」


 大切な人を傷つける恐怖。そしてそのまま失ってしまうかもしれないという恐怖。それは僕が、痛いほどにわかっていた。
 痛いほどにわかっていたからこそ……僕は、その花を差し出したのだ。小さく儚く、強い花を。


「ディランさん……まだ、この花を好きだと、綺麗だと思う心があるなら…………それは、まだディランさんが、『ディラン・キャンベル』として存在している証拠なんですよ」


 苦しみながら手渡してくれたこの『おまもり』の強さを、美しさを、ディランさんはきちんと分かっているはずだ。そしてそのおまもりを作り、与えた『神』が、何を一番にのぞんでいたのかも、ディランさんにはよくわかっていただろう。


「大丈夫、僕がいなくったって、アリアさんは大丈夫です。だって、ディランさんがいる。Unfinishedのみんなもいる。ディランさんは絶対に、自分を取り戻せる……その、『自己防衛』の勇気から解放されて、もとの優しいディランさんになれる」

「そんな確証なんかどこもないっ……! 今ここで、僕のことを殺してくれれば、みんな、確実に助かる! なのに……どうしてそんな、不確定な事実に頼るんだよ!」


 思ったよりも傷が痛む。傷口を軽く手で押さえながら呻き、僕はディランさんに微笑んだ。……優しい人だ。こんな状態になっても、アリアさんや僕らのことを考えてくれている。


「大丈夫、ディランさんなら……っ」


 痛みに、思わず体を震わせた。体勢を崩す僕に、ポロンくんが駆け寄り、手のひらを向けた。


「ヒール……! ウタ兄…………、おいらは、嫌だからな! そんなの絶対、いや、だからな…………」

「……ポロンくん……」

「おいらはっ、世界が助かっても、ウタ兄がいないなんて絶対嫌だからな!」


 ふと、別の手が僕に触れる。そちらを見れば、スラちゃんが青い瞳でじっと僕を見つめていた。


「ヒールっ!」

「…………」

「ぼくはね、ウタ……ウタがいなきゃ、ダメなんだよ……」

「ヒール」

「ドラくん……」

「我も、お主以外に遣えることはない。一生な」


 そして、フローラも僕の手を握る。


「ヒール……ウタさん、嫌です。私は諦めません。絶対に、ウタさんを助けますから……!」

「…………なぁ、ディラン」


 ポツリとアリアさんは呟けば、僕に手のひらを向ける。そして一言「ケアル」と詠唱する。


「これをみて、何も思わないような……ディランじゃないだろう?」

「…………」

「ディラン……」


 僕の傷は、いっこうに塞がらない。それどころか、どんどん酷くなっていく。それは回復魔法のせいではなく、単純に、この空間に僕が蝕まれているだけだ。


「ディランさん……大丈夫、自信を持ってください。僕はもう、ここでいなくなってしまうけど……でも…………」

「…………」


 ふと、ディランさんが黙りこんだ。そして、ゆっくりと立ち上がれば、よろよろと僕らの方に歩みよってくる。一瞬警戒した様子を見せたみんなだったが、アリアさんの反応を見て、敵意はないと判断したのか、じっとその姿を見守っている。


「……羽汰、君は本当に、バカだよ。僕なんかのことを信じて、本当にそれが正しいと思ってるの……? 個性の塊'sにも、言われたんでしょ? ちゃんと考えて行動しろって」

「……うん、言われた……」


 ディランさんは呆れたような顔をして、僕に近づけば、手のひらをこちらへと向けた。


「……僕だって、君に死んでほしくないよ、羽汰。生きてほしい」


 そういえば、「ケアル」と一言呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...