上 下
377 / 387
それは一輪の花のように

遅いよ

しおりを挟む
「…………っくそ!」


 きりがねぇや!
 おいらたちは、ずっとずっと、アリア姉とウタ兄を待ち続けていた。でも、いつまで経っても、二人は帰ってこない。
 何日経っただろう。二人は帰ってこない。

 おいらたちは……おいらたちの限界は、もうすぐそこに来ていた。

 テラーも含め、個性の塊'sはまだ戦ってる。やっぱり強いや。それは、ずっと分かってたことだけどさ? こうやって見せつけられると……やっぱしんどいや。


「フローラっ……!」


 フローラの『春の息吹』はHPやMPを回復させるスキル。……つまり今、ディランや魔王の力の前で、そのスキルを使うのは、かなりやばい。けれどフローラは、それを使った。思わずって感じで。
 なんでかって言ったら、おいらが怪我したからだ。ついさっきまで、足がボロボロで動かなかった。そしたら、フローラがスキルを使ったんだ。

 正直おいらたちは、ダメージを受けるかもしれないと思った。でも受けなかった。ちゃんと回復したんだ。代わりに、フローラはその場に倒れて動かない。死んだ……わけじゃ、ない。生きてる。おいらには分かる。でもどうしようもできない。フローラのHPはもう少ない。
 回復させてやりたいけど、フローラの『春の息吹』だからおいらたちがダメージを受けなかったのか、他人に向けて放った魔法だから大丈夫だったのか。それがわからない今、下手に魔法をかけるわけにもいかなくて、おいらはフローラを、とりあえずあの洞窟に担いでいくことにした。


「っ……ドラくん! スラちゃん! ちょっと頼んだぞ!」


 おいらはそう一言叫べば、『窃盗』を発動させ、フローラを連れていった。
 ……洞窟に入っても、外の激しい攻防の音は止まない。おいらはフローラをそっと寝かせ、頬を撫でた。


「……ごめん、フローラ。守らせちゃってさ」


 それから、その奥で寝ている、アリア姉とウタ兄に視線をやる。……ピクリとも動かず、その場に横たわっているその姿はまるで……まる、で…………。


「……ぁ、ちが…………」


 思わず、顔を伏せた。違う違う、二人は、ウタ兄もアリア姉も、まだ……いや、絶対、死んでなんかない。死んでなんかないんだ……あのときみたいに、おいらが置いていかれることは……ない、はず、なんだ……。


「ウタ兄っ……アリア、姉……っ……うっ、うぅ…………っ」


 ぼろぼろと溢れ始めてしまったら、もう、その涙を止めることは出来なくて……。


「…………ポロン?」

「……フロー、ラ……っ、おいらっ……!」

「……大丈夫、きっとね、アリアさんもウタさんも、帰ってくるから。大丈夫だよ」


 フローラはそう言って笑っているけど、でも……その顔はあまりにも悲しそうで、不安げだった。……おいらに誤魔化しが利くなんて思ってないはずなのに。ましてや、自分に対してなんて。


「おいらだって……! 信じて、ない、訳じゃないんだい……ただ……ただ、寂しくて…………おいら、不安で……っ……」

「そんなの、私だって…………」


 フローラは言葉をつまらせる。わかってる、おいらだって、分かってるんだ。フローラだって、大丈夫な訳ではないのだ。そんなこと分かってるけど……フローラに頼らずにはいられなかった。


「フローラ……! 頼むから、フローラはずっと、おいらの隣にいてくれよ。おいら、絶対守るからさ! 絶対大事にするから、だから、ずっとおいらと一緒にいてくれよ」

「う、うん……もちろん、いいけど……ね、ポロン?」


 なんだか歯切れの悪いフローラを見れば、ほんの少しだけ頬を赤くして、おいらを見上げていた。


「今の言い方、なんか……」

「……なんか?」

「……プロポーズみたい」

「えっ?!」

「なーんてね。……大丈夫、いこう?」

「ふ、フローラ!?」


 ……フローラ、なんかアリア姉に似てきた気がする。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 それからまた、時間が経った。まだ二人は、帰ってこない。


「……ポロンくん」


 ふと、ジュノンが声をかけてくる。……嫌な予感がして、そちらを向くことができなかった。


「今日中に帰ってこなかったら、これ以上待つことはできない。だから、可能性を込めて、最後の手に出る」

「最後の手……? なんだよ、それ」


 ジュノンは刺すような視線を、おいらに向けた。その眼は……否定の言葉を、否定していた。


「これでも私たち、ディラン・キャンベルって男を助けようとしてたわけよ。……でも、ここももう限界に近い。今日中に帰ってこなかったら、私たちはディランを殺す。それから魔王を」

「ま、待ってくれよ! 第一、なんでそれをおいらに言うんだよ」

「だってほら、ウタくんもアリアさんもいないじゃん? だったらポロンくんに言うしかなくない?」

「でっ、でも、殺すって……」

「……本気だよ?」

「っ…………」


 それから、時間が経つのは早かった。日が昇って、落ちて、そして……夜になる。
 ジュノンたちの眼に、殺意の色が宿る。
 もし戻ってきて、ディランが死んでるのをアリア姉たちが見たら?

 そんなことを思った瞬間だった。
 ふと目の前に迫る、闇に、おいらは気づいていなかった。


「ぁ……」


 そして


「セイントエレキテルっ!」

「…………! ……ははっ」


 遅いよ、ウタ兄。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑
恋愛
婚約者に大事にされていなかったので記憶喪失のフリをしたら、婚約者がヘタレて溺愛され始めた話です。 2/27 完結

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...