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それは一輪の花のように
現実
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「……いよいよだな」
アリアさんが呟く。僕らは船の一番前、狭い操縦室に、全員で集まっていた。それぞれがこれまで、船のなかでなにをしていたのか、僕は知らない。けれどそれでいいと思っている。Unfinishedは……お互いを常に見ていなければならないような、危なっかしい関係でない。
「これ、このまま進んだら、あの中に吸い込まれる感じに、入れるんでしょうか?」
「分からない。だが、そうなることを信じて進むしかないだろうな」
「大丈夫っ! ぼくら一人じゃないもん! ね!」
「そうだよ、おいらたちは大丈夫だからなっ!」
僕はそんな声を聞きながら、目の前をじっと見据えた。真っ黒に開いた絶望への入り口。こんなところに向かうだなんて、あのときの僕らは、思いもしなかっただろう。
ただ平和に過ごして、ディランさんを見つけて、帰ってきて……そんなことを、思っていただろう。
「…………」
「……リーダー」
僕は、ゆっくりと目を閉じ、開いた。
「……行くよ、みんな!」
ぼくらの乗った船は、船ごと、黒々としたそれに吸い込まれていった。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
――ここは、なんだろう。
思わずそう考えた。考えて、僕の陳腐な思考が産み出した答えは一つ。
地獄。
そういうに等しい状況が、そこに広がっていた。崩れた丘が、町が、城が、山……が……? もはやそれが、なんだったのかすら分からない。
瓦礫と呼ぶべきか、クスラップと呼ぶべきか……何かの残骸がそこらじゅうに転がっていた。
「これが……漆黒……?」
呟いた瞬間のことだった。
「伏せろっ!」
聞き覚えのある声がした。と思ったら、目の前に氷の槍が迫っていた。とっさに身を捻り、それを避けた……と思ったら、その先は炎の海だった。避けることもできない……!
「ウォーターボール!」
丸い水の球におおわれれば、なんとかそれを回避する。しかしその先にはまた『何か』がある。
「グォォォォォォッ!」
「……ドラゴン……!?」
無論、ドラくんではないドラゴンだ。それは、僕が体制を整えるより早く、僕に迫ってくる。そして、大きな身体をくねらせ、僕を地面に叩きつけようとする。
「しえる」
「シエルトっ!」
僕がシエルトを唱えるよりも前に、誰かがシエルトを唱え、僕の身体を引きずっていく。そして、瓦礫の影になっているところへと連れてこられた。
「ウタくんっ……!」
「え……あ、ど、ドロウさん……!?」
そこにいたのは、個性の塊'sの一人、ドロウさんだった。
「ウタくんがここにいるってことは、他のメンバーと一緒に……?」
「は、はいっ! ……あの、ジュノンさんたちは!? Unfinishedの、他のメンバーはどこに!? ここは、なんなんですかっ?!」
「落ち着いて。ここは漆黒。入ったら壊すまでは『基本的に』出られない場所。入るときに歪みが生じるから、一緒に入った人間が、同じ場所にいられるとは限らない。……私も、結構な時間戦ってるけど、まだ誰も見つけられなくて」
「まだ、誰も……ですか? でも、個性の塊'sがここに入ったのって、逆算したら、一週間以上は……」
僕のその言葉を聞けば、ドロウさんは酷く疲れたような、どこか焦点の合わない目で笑った。
「…………一週間、か。頑張ったなぁ」
「ど、ドロウさん?」
「行くよ、みんなを探さなきゃ」
「…………」
違和感を感じた僕は、悪いとは思いつつ、ドロウさんの『心』を聞いてみることにした。
『もう疲れたなぁ……楽になりたい』
「…………え」
遠回しに、どういう意味なのか。それはすぐにわかる。しかし、同様が隠せなかった。個性の塊'sは、一人でも十分に強い。それなのに、ここまで精神的に追い詰められるなんていうこと、あり得るのだろうか?
「……そういえばウタくん」
「あ、は、はい」
突然声をかけられ、ぎこちない返事をする。そんな僕にドロウさんはにこりと微笑みかける。そしてその背後には……たくさんのドラゴンが、目を光らせ、僕を見下ろしていた。
「死んでもらうよ?」
「なっ……なにを」
「やれ」
ドロウさんが指示をすれば、ドラゴンたちは一斉に僕を狙って飛びかかってくる。一種の恐ろしささえ感じつつ、僕はとっさにそこからに逃げた。
違う、違ったのだ。
あれは、『ドロウさん』ではなかったのだ。ならばなんなのだ? 僕を殺そうとしている? この空間の主……?
「ハク、ナイル……やって」
……違う。
あれは、間違いなく『ドロウさん』だ。あの能力は、間違いなく『個性の塊's』だ。他に類を見ないような、類いまれな存在。まさしくそれは個性の塊'sであるはずなのに……激しすぎる違和感がぬぐいきれない。
(ドロウさんが、僕を狙うはずがない。僕に嘘をつくはずがない。……だとしたら、なぜ、僕は嘘をつかれ、欺かれた?)
答えは一つだろう。
目の前にいるドロウさんは、ドロウさんだけれども、ドロウさんではない。
操られているか、もしくは……何かを失っている。
これが……漆黒の現実なのだ。
アリアさんが呟く。僕らは船の一番前、狭い操縦室に、全員で集まっていた。それぞれがこれまで、船のなかでなにをしていたのか、僕は知らない。けれどそれでいいと思っている。Unfinishedは……お互いを常に見ていなければならないような、危なっかしい関係でない。
「これ、このまま進んだら、あの中に吸い込まれる感じに、入れるんでしょうか?」
「分からない。だが、そうなることを信じて進むしかないだろうな」
「大丈夫っ! ぼくら一人じゃないもん! ね!」
「そうだよ、おいらたちは大丈夫だからなっ!」
僕はそんな声を聞きながら、目の前をじっと見据えた。真っ黒に開いた絶望への入り口。こんなところに向かうだなんて、あのときの僕らは、思いもしなかっただろう。
ただ平和に過ごして、ディランさんを見つけて、帰ってきて……そんなことを、思っていただろう。
「…………」
「……リーダー」
僕は、ゆっくりと目を閉じ、開いた。
「……行くよ、みんな!」
ぼくらの乗った船は、船ごと、黒々としたそれに吸い込まれていった。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
――ここは、なんだろう。
思わずそう考えた。考えて、僕の陳腐な思考が産み出した答えは一つ。
地獄。
そういうに等しい状況が、そこに広がっていた。崩れた丘が、町が、城が、山……が……? もはやそれが、なんだったのかすら分からない。
瓦礫と呼ぶべきか、クスラップと呼ぶべきか……何かの残骸がそこらじゅうに転がっていた。
「これが……漆黒……?」
呟いた瞬間のことだった。
「伏せろっ!」
聞き覚えのある声がした。と思ったら、目の前に氷の槍が迫っていた。とっさに身を捻り、それを避けた……と思ったら、その先は炎の海だった。避けることもできない……!
「ウォーターボール!」
丸い水の球におおわれれば、なんとかそれを回避する。しかしその先にはまた『何か』がある。
「グォォォォォォッ!」
「……ドラゴン……!?」
無論、ドラくんではないドラゴンだ。それは、僕が体制を整えるより早く、僕に迫ってくる。そして、大きな身体をくねらせ、僕を地面に叩きつけようとする。
「しえる」
「シエルトっ!」
僕がシエルトを唱えるよりも前に、誰かがシエルトを唱え、僕の身体を引きずっていく。そして、瓦礫の影になっているところへと連れてこられた。
「ウタくんっ……!」
「え……あ、ど、ドロウさん……!?」
そこにいたのは、個性の塊'sの一人、ドロウさんだった。
「ウタくんがここにいるってことは、他のメンバーと一緒に……?」
「は、はいっ! ……あの、ジュノンさんたちは!? Unfinishedの、他のメンバーはどこに!? ここは、なんなんですかっ?!」
「落ち着いて。ここは漆黒。入ったら壊すまでは『基本的に』出られない場所。入るときに歪みが生じるから、一緒に入った人間が、同じ場所にいられるとは限らない。……私も、結構な時間戦ってるけど、まだ誰も見つけられなくて」
「まだ、誰も……ですか? でも、個性の塊'sがここに入ったのって、逆算したら、一週間以上は……」
僕のその言葉を聞けば、ドロウさんは酷く疲れたような、どこか焦点の合わない目で笑った。
「…………一週間、か。頑張ったなぁ」
「ど、ドロウさん?」
「行くよ、みんなを探さなきゃ」
「…………」
違和感を感じた僕は、悪いとは思いつつ、ドロウさんの『心』を聞いてみることにした。
『もう疲れたなぁ……楽になりたい』
「…………え」
遠回しに、どういう意味なのか。それはすぐにわかる。しかし、同様が隠せなかった。個性の塊'sは、一人でも十分に強い。それなのに、ここまで精神的に追い詰められるなんていうこと、あり得るのだろうか?
「……そういえばウタくん」
「あ、は、はい」
突然声をかけられ、ぎこちない返事をする。そんな僕にドロウさんはにこりと微笑みかける。そしてその背後には……たくさんのドラゴンが、目を光らせ、僕を見下ろしていた。
「死んでもらうよ?」
「なっ……なにを」
「やれ」
ドロウさんが指示をすれば、ドラゴンたちは一斉に僕を狙って飛びかかってくる。一種の恐ろしささえ感じつつ、僕はとっさにそこからに逃げた。
違う、違ったのだ。
あれは、『ドロウさん』ではなかったのだ。ならばなんなのだ? 僕を殺そうとしている? この空間の主……?
「ハク、ナイル……やって」
……違う。
あれは、間違いなく『ドロウさん』だ。あの能力は、間違いなく『個性の塊's』だ。他に類を見ないような、類いまれな存在。まさしくそれは個性の塊'sであるはずなのに……激しすぎる違和感がぬぐいきれない。
(ドロウさんが、僕を狙うはずがない。僕に嘘をつくはずがない。……だとしたら、なぜ、僕は嘘をつかれ、欺かれた?)
答えは一つだろう。
目の前にいるドロウさんは、ドロウさんだけれども、ドロウさんではない。
操られているか、もしくは……何かを失っている。
これが……漆黒の現実なのだ。
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