上 下
361 / 387
自分の声は聞こえますか?

進みたい

しおりを挟む
 ――割れる。
 この空間が、割れていく。

 あぁ……私は、結局、誰も守ることができなかった。それどころか……守られてばかりのまま、なにも変わっていない。守られて、周りが傷ついていくのを、黙ってみているしかない。そんな存在だった。

 ……ウタくんは、すごく、強くなった。私なんかが、守らなくてもいいくらいに、強く。勝てないくらいに強く。
 あの日、転生してきたばかりで、レベル1で、あまりにも弱くて……守ろうと思った。アリアと同じように、守らなきゃいけないと思った。
 なぜかと今考えてみたら……ディランと似ていたからかもしれない。同じ『勇気』を操る存在。外見は似ていないけれど、中身がよく似ていた。優しすぎて、損しちゃうところとか。変なところ押しが弱くて、振り回されたりだとか。


(……信じて、大丈夫、かな? いなく、ならないかな)


 一番臆病なのは、私だ。頼りなくて弱くって、どうしようもないのは私だ。怖くてしかたがないのだ。これ以上、誰かを失いたくない。
 ウタくんがいくら言葉で伝えてきたって、私は、それを手放しに喜んで、信じることはできない。ディランはいなくなった。これは、紛れもない事実で、私にとっての大きなトラウマになった。

 ……それでも、この空間がこうして崩れ去っていくのは、私が、ウタくんの『生きて帰ってくる』という言葉を信じたからに違いない。
 ごめんなさい、みんな。でも……一度信じてしまったものを否定するって言うのは、そう簡単にできることじゃないの。だから……私は、Unfinishedを信じることにした。

 怒られたって構わない。私の、大切な人たちのためだから。
 そしてあわよくば……この『大切な人』たちが、私のもう一人の大切な人を、救ってくれますように。……そんな、淡い期待を胸に抱いて、私はこの空間を、打ち砕いた。


「エマさん……」

「…………ウタ、くん……」


 崩れる空間の中、ウタくんと眼があった。……苦しませてしまったかな。身内と戦わせて、傷つけて、操って……。
 そんな私に向かって、ウタくんはにこりと微笑んだ。


「僕らは、嘘はつきませんからね!」


 ……私は、微笑み返した。


「……分かってるわ」


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「シエルトっ!」

「アリア殿、フローラ、左右に避けろ!」

「わかりましたっ!」

「ありがとう……セイントエレキテルっ!」


 終わらない攻防。止まらない動き。これをいつまで続ければいいのか……。なんせ、ウタの一撃はどれも比べ物にならないほど重い。これを耐えるだけでも精一杯なのだ。
 シエルトを張って、回復して、避けて、魔法を放つ。……それさえも、簡単にできない。


(なんとか……ここを乗りきれれば、大丈夫なはずなんだ……! だから……耐えるぞ、ウタ。私は諦めないさ。お前が戻ってくるって、信じてるから)


 ……そのとき、エマがポツリと呟いたのが聞こえた。


「……みんな、ごめんね」

「……エマ?」


 突然のことで、みんな理解が追い付いていないようだった。……でも、私には分かる。エマが、何を謝ったのか。
 そして……小さく、微笑んだ。

 ――勝った。


「…………この勝負、私たちの勝ちだな」


 私が何気なく呟くと、隣からクスクスという笑い声が聞こえた。見れば、ポロんくんとフローラが、二人でなにやら笑いあっていた。


「やったな! おいらたち、もう大丈夫だ」

「ですね! 私、わかっちゃいましたもん! 流石ウタさんですね!」

「あーっ! 二人も気づいたんだね! へへん、ぼくも気づいちゃったんだー!」

「ウタ殿はそう簡単にとは思っていたが……予想通りだったな」


 ……なんだ、みんな気づいてるじゃないか。
 そうこうしている間に、ウタが魔法を放つ。協力な光魔法だ。シエルトなんかあっという間に貫通してしまうような……。
 しかしそれは、私たちに届く前に、弾け、消え去ってしまった。


「……まさか、本当なのか!?」


 アキヒトが驚いたような声をあげる。……それは、そうなのかもしれない。私たちが驚いていないだけだ。
 普通に考えたら、まず、不可能なことなのだから。限界を越えたウタが、さらにその上をいく、だなんて。そんなこと、ありえないはずだったのだ。


「――陰陽進退!」


 降り注ぐ斬擊。それは、エドたちに向けられたものだ。的確なコントロールをされたそれは、相手の武器を確実に落としていった。それくらい……ウタには、楽なことだろう。
 私たちの前に立ちふさがったのは、ウタだ。疑心暗鬼を振り払って、戻ってきたのだ……Unfinishedに。

 ……さすが私が信じた男だ。


「ウタ! 私たちなら大丈夫だ! 終わらせてくれ! 今すぐに!」


 急ぐのには理由がある。……先程から、アキヒトの様子がどことなくおかしい。スキルの副作用が出てきているのかもしれない。早く助けなければ……!
 ……そんな私の心を読み取ったのか、ウタは真剣な眼差しで手をかざした。


「ファイヤーウェーブ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...