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自分の声は聞こえますか?
諦めろ
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「さて――やるか」
彰人さんがそう呟いた瞬間だった。
「…………え」
僕らの体は、宙を舞った。あまりに一瞬のことで、何が起こったかわからないまま視線を彰人さんたちの方へと向ければ、既にそこには、光の槍が数本、迫っていた。
「しえる――」
「させるか」
僕とアリアさんがほぼ同時にシエルトを使おうとした。……が、それも読まれていたのかもしれない。僕らが呪文を唱えようとした瞬間に、エドさんが地面を蹴って僕らの前へと現れた。
「……すまない、ウタ、アリア様。――剣術の決意!」
「なっ……」
まともに声を出す暇さえもない。気がつけば僕らは、まっ逆さま。地面に勢いのままに叩きつけられていた。その衝撃からだろう一瞬、呼吸の仕方を忘れる。しかしその間も、相手は待ってくれない。
「おいらたちだって……おいらも頑張るから! バフは全員に付与! いくぞ、短期間ゴリラ!」
「ありがとうポロン……私もいきます。レインボー!」
二人が塊'sからもらったスキルを発動させる。それとほぼ同時に、サラさんが片手を前に突き出した。
「守護の力よ。我が力をもって、我が身我が友を守りたまえ!」
その詠唱の、ほんの数秒後、ポロンくんたちの攻撃は確実にサラさんたちに当たった。……当たったはずなのに。
「そんな……まさか、だって、このスキルは……!」
フローラが、愕然とした声をあげる。それもそのはずだった。サラさんたちには……一切のダメージも入っていないように見えたのだ。普通の属性魔法ならば、まだわかる。しかし、これは個性の塊'sから伝授された技だ。レベルで弱体化されているとはいえ、ここまで効かないというのはおかしな話だ。
「っ……」
僕は剣を抜き、近くにいたエマさんへと距離をつめて、それを振りかぶった。
「陰陽進退っ!」
エマさんは、それをじっと見ていた。そして、なにか小さく呟けば、手のひらを上に向け、呪文のようなものを詠唱する。……瞬間、僕はそれが『なに』なのかを察することができた。
『おいで、私の半身』
『それ』は、大きく、赤かった。力が強く、図体も大きく、とてもじゃないが、勝てる気がしなかった。
赤鬼……そう、エマさんは、そうだった。『疑心暗鬼』というスキルを持っているんだった。この鬼は、きっとその鬼なのだろう。
そんなことを考えながら、はじめてエマさんと出会ったときの会話を思い出していた。
『その反応はー、疑心暗鬼、鑑定したのかな?』
『しました! しましたけど!』
『大丈夫、大丈夫! 今のところ使ったことはないし、使う気もないから!』
『……本当、ですか?』
『そうよー。……多分きっともしかして』
『不確かだ!』
『まぁ、少なくともウタ君やアリアに使うつもりなんてこれっぽっちもないわよ。他の人には、そのときが来れば使うかもだけどね』
……使うつもりはなかったはずなのに、使っている。そこまでして、僕たちをこの先に行かせたくないのか……!
「……なぁ羽汰」
彰人さんに声をかけられる。無意識にそちらに目線を向け、じっと相手の目を見てみる。……前に話したときとなにも変わらない、優しくて、強くて、そして……今はなんとなく、悲しげにも見えた。
「羽汰……俺らは、できるだけ相手を傷つけないで終わりたいんだ。出来るだけお互い無傷で、無事に終わりたいんだ」
彰人さんは、パチンと指を鳴らす。その瞬間……僕らを取り囲むように、氷と炎の槍が現れた。それらは容赦なく、僕らに降り注ぐ。
「ガーディア!」
槍が届く寸前、ドラくんがガーディアを張り、なんとかそれらは防げた……と、思った。
「――違う!」
僕は咄嗟に、ドラくんたちに光魔法を放った。そうして僕からみんなが離れた瞬間、弾かれた槍が形を変える。
光の槍に変化したそれは、避けたり受け止めたりする暇もなく、僕に降り注いだ。
「シエルト! ……おい、どういうことだ、これは……」
「へへ、アリア様……俺は無力だったが、勤勉ではあったんだ。城にあった本は、全部読んだよ」
彰人さんが自嘲気味に微笑む。言いたいことはつまり……今まで使えなかっただけで、本当は、ほぼ全ての技を使える、ということだ。少なくとも、彼の知識の中にある技は、全て。
「案外やれば出来ちまうもんだな。これをもう少し早く解禁していれば、エヴァンは死ななかったのかなぁ……」
「……アキヒト」
「……アリア、あのね」
エマさんが微笑む。その微笑みが、あまりにも痛々しくて……目を背けたくなった。けれど、どうしても出来なかった。
「私たちは……ただの人間でしかない。持っている力も、有限なの。これを使い果たせばどうなるのかは、分かっている」
それでも、と、ぎゅっと手を握りしめたのが見えた。
「例えこの命がつきても、例えあなたに嫌われても、例えこの世界が滅びても……私たちは、あなたたちを守るためだけにここにいる」
「でも…………っ」
「……でも、どうだろうね。もしかしたら私は、自分の大切な親友と、自分の大切な弟が争うのを……見たくないだけなのかもしれない」
ずきりと、胸が痛んだ。エマさんが次に放った水魔法のせいでしっかりとは見えなかったけど、その目にあったのは、きっと……。
「だから、諦めて……っ、諦めろ!」
彰人さんがそう呟いた瞬間だった。
「…………え」
僕らの体は、宙を舞った。あまりに一瞬のことで、何が起こったかわからないまま視線を彰人さんたちの方へと向ければ、既にそこには、光の槍が数本、迫っていた。
「しえる――」
「させるか」
僕とアリアさんがほぼ同時にシエルトを使おうとした。……が、それも読まれていたのかもしれない。僕らが呪文を唱えようとした瞬間に、エドさんが地面を蹴って僕らの前へと現れた。
「……すまない、ウタ、アリア様。――剣術の決意!」
「なっ……」
まともに声を出す暇さえもない。気がつけば僕らは、まっ逆さま。地面に勢いのままに叩きつけられていた。その衝撃からだろう一瞬、呼吸の仕方を忘れる。しかしその間も、相手は待ってくれない。
「おいらたちだって……おいらも頑張るから! バフは全員に付与! いくぞ、短期間ゴリラ!」
「ありがとうポロン……私もいきます。レインボー!」
二人が塊'sからもらったスキルを発動させる。それとほぼ同時に、サラさんが片手を前に突き出した。
「守護の力よ。我が力をもって、我が身我が友を守りたまえ!」
その詠唱の、ほんの数秒後、ポロンくんたちの攻撃は確実にサラさんたちに当たった。……当たったはずなのに。
「そんな……まさか、だって、このスキルは……!」
フローラが、愕然とした声をあげる。それもそのはずだった。サラさんたちには……一切のダメージも入っていないように見えたのだ。普通の属性魔法ならば、まだわかる。しかし、これは個性の塊'sから伝授された技だ。レベルで弱体化されているとはいえ、ここまで効かないというのはおかしな話だ。
「っ……」
僕は剣を抜き、近くにいたエマさんへと距離をつめて、それを振りかぶった。
「陰陽進退っ!」
エマさんは、それをじっと見ていた。そして、なにか小さく呟けば、手のひらを上に向け、呪文のようなものを詠唱する。……瞬間、僕はそれが『なに』なのかを察することができた。
『おいで、私の半身』
『それ』は、大きく、赤かった。力が強く、図体も大きく、とてもじゃないが、勝てる気がしなかった。
赤鬼……そう、エマさんは、そうだった。『疑心暗鬼』というスキルを持っているんだった。この鬼は、きっとその鬼なのだろう。
そんなことを考えながら、はじめてエマさんと出会ったときの会話を思い出していた。
『その反応はー、疑心暗鬼、鑑定したのかな?』
『しました! しましたけど!』
『大丈夫、大丈夫! 今のところ使ったことはないし、使う気もないから!』
『……本当、ですか?』
『そうよー。……多分きっともしかして』
『不確かだ!』
『まぁ、少なくともウタ君やアリアに使うつもりなんてこれっぽっちもないわよ。他の人には、そのときが来れば使うかもだけどね』
……使うつもりはなかったはずなのに、使っている。そこまでして、僕たちをこの先に行かせたくないのか……!
「……なぁ羽汰」
彰人さんに声をかけられる。無意識にそちらに目線を向け、じっと相手の目を見てみる。……前に話したときとなにも変わらない、優しくて、強くて、そして……今はなんとなく、悲しげにも見えた。
「羽汰……俺らは、できるだけ相手を傷つけないで終わりたいんだ。出来るだけお互い無傷で、無事に終わりたいんだ」
彰人さんは、パチンと指を鳴らす。その瞬間……僕らを取り囲むように、氷と炎の槍が現れた。それらは容赦なく、僕らに降り注ぐ。
「ガーディア!」
槍が届く寸前、ドラくんがガーディアを張り、なんとかそれらは防げた……と、思った。
「――違う!」
僕は咄嗟に、ドラくんたちに光魔法を放った。そうして僕からみんなが離れた瞬間、弾かれた槍が形を変える。
光の槍に変化したそれは、避けたり受け止めたりする暇もなく、僕に降り注いだ。
「シエルト! ……おい、どういうことだ、これは……」
「へへ、アリア様……俺は無力だったが、勤勉ではあったんだ。城にあった本は、全部読んだよ」
彰人さんが自嘲気味に微笑む。言いたいことはつまり……今まで使えなかっただけで、本当は、ほぼ全ての技を使える、ということだ。少なくとも、彼の知識の中にある技は、全て。
「案外やれば出来ちまうもんだな。これをもう少し早く解禁していれば、エヴァンは死ななかったのかなぁ……」
「……アキヒト」
「……アリア、あのね」
エマさんが微笑む。その微笑みが、あまりにも痛々しくて……目を背けたくなった。けれど、どうしても出来なかった。
「私たちは……ただの人間でしかない。持っている力も、有限なの。これを使い果たせばどうなるのかは、分かっている」
それでも、と、ぎゅっと手を握りしめたのが見えた。
「例えこの命がつきても、例えあなたに嫌われても、例えこの世界が滅びても……私たちは、あなたたちを守るためだけにここにいる」
「でも…………っ」
「……でも、どうだろうね。もしかしたら私は、自分の大切な親友と、自分の大切な弟が争うのを……見たくないだけなのかもしれない」
ずきりと、胸が痛んだ。エマさんが次に放った水魔法のせいでしっかりとは見えなかったけど、その目にあったのは、きっと……。
「だから、諦めて……っ、諦めろ!」
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