チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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自分の声は聞こえますか?

柳原羽汰《1》

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 僕が彼と出会ったのは、もうずっとずっと前のこと。まだ幼稚園に通っていたときの話だ。
 その頃から、僕はヘタレだった。誰にも話しかけられないで、顔も特別よくないし、運動だって人並みだ。当然、友達は一人もいなかった。
 だから一人で遊んでいた。例えば、砂場とかで。砂場なら目立たないし、一人でいてもそんなに違和感はない。孤独に耐えるように、無意識に、そこを選んでいた。実際砂遊びは嫌いじゃなかったし、楽しめてはいたと思う。だけど……やっぱり少し、寂しかった。

 そんな僕が、妙な勇気を出したときがあった。公園の隅に設置されていたジャングルジム……。それに、どうしても上ってみたかったのだ。一度だけてっぺんに上りたくて……上ってみたのだ、一人で。そのジャングルジムに。
 みんなが帰ったあと、夕方ごろ。たまたまその日はお迎えが遅かったのだ。ジャングルジムは、いつもより空いていた。
 両手で、鉄の棒をぎゅっと握りしめて、一段。一番上まで行くには、三段上らなくてはいけない。しかし、その一段を上ったとき、ふと僕は思ったのだ。
 なんだ、上れるじゃん。と。
 そして僕はまた上った。そしてもう一段も。……一番上までこれたのだ。嬉しくて後ろを振り向いたら……その当時の僕が怖がるには、十分すぎる高さがあった。足がすくんで、動けなくなったのだ。かといって、手を離せば落ちてしまう。

 誰かを呼ぼうとした。近くに、先生がいた。しかし……声がでなかった。恐怖に震えて、ろくな言葉も発っせなくなっていた。子供だった僕は、パニックだった。助けを求めなくてはいけない。体力だって、すぐに限界が来る。落ちるかもしれないという恐怖が襲った。誰かが気づいてくれるのを、待った……。


「……おまえ、なにしてんの?」


 不意に、声がかけられた。そっと目をやると、そこには、『彼』がたっていた。不思議そうな顔をしながら、僕を見上げていた。


「なにずっとプルプルしてんだよ。疲れたなら降りてこいよ」

「……お……」

「お?」

「おりら……れなくて……。だ、だれか……せんせい……」


 誰かを呼んできてもらって、下ろしてもらおうと思った。そしてそのことを、一生懸命伝えようとした。
 が、彼がとったのは、全く違う行動だった。彼は僕の下に回り込むと、大きく手を広げた。


「……えっと、せんせいを……」

「落ちてもおれが受けとめるからだいじょうぶ! ゆっくりやってみろよ!」

「え、で、で、でも……」

「ほら右足から! ゆっくり下に下ろして!」

「うぅ……」


 正直、怖くて仕方なかったし、さっさと先生を呼んで助けてほしかった。でも……そうはしてくれなさそうだったから、ゆっくりと足を下に下ろした。怖くて怖くて、足の先がカタカタと震えた。


「そうそう、ゆっくり! それをあと二回やればいいからさ!」


 言われるがままに、そろそろと足を下へと下ろす。手を一つ下の段へ。そしてそれをもう一回、もう一回と繰り返す。
 ……やがて、片足が地面についた。そのまま、もう片方の足も。高いところから落ちるかもしれないという恐怖から解放された僕は、全身の緊張が抜け、その場にへたりこんだ。それを彼は、心配そうに覗きこむ。


「だ、大丈夫かよ?」

「こ……わ、かったぁ…………」

「そんなにぃ? 大して高くないぞ! ヘタレだなぁ」

「ぅ……」

「…………あー、わりぃわりぃ! 高い! これめちゃくちゃ高くてこわい!」


 へらへらと笑う彼を見上げつつ、僕はため息をついた。
 なんだこいつ。
 最初はそんな印象だったと思う。


「でもほら、一人でおりてこれたじゃん!」

「……早くおろしてほしかったよ……」

「へへっ、いい経験!」

「…………」

「……お前いっつも一人だよな? だれかとあそばないの?」

「友達とか……いないし……」

「そうなの?」

「そうなの」


 へーと、大して興味がなさそうに呟いた彼は、飄々とこんなことを言った。


「じゃ、友達んなるか」

「……え?」

「はーい決定! おれ、池部充希。お前は?」

「え、えっと……」

「なーまーえーっ!」

「や……柳原、羽汰……」

「羽汰な! わかった! これでおれたち友達だぜ!」


 ……あまりにも強引なやり方で、僕らは『友達』になった。こういうのって、案外次の日には忘れられてたりして、また一人でいることになる……。僕はそう思っていた。
 その日はお迎えが来るまで遊んで、また明日と言って別れた。


「あの子、お友だち? 充希くんって」


 お母さんのその言葉に、僕は「うん……」と、それとなく曖昧な答えを返した。次の日になるまで、友達なのかどうかは分からない……そう思っていたから。
 次の日幼稚園にいけば、充希は他の子と遊んでいた。ほらやっぱり……そう思う僕に、充希は大きく手を振った。


「羽汰ー! こっち来いよー!」

「……いいの?」

「いいって! 友達だろ? 一緒に遊ぼうぜ!」


 ……充希が僕の友達から親友に変わるのに、たいした時間はかからなかった。僕らは同じ小学校、中学校、高校へと進んでいった。その間、友達だと確信してから、僕は一度も充希を疑わなかった。
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