341 / 387
自分の声は聞こえますか?
決別
しおりを挟む
「…………あったかくない手だな」
『……え』
おいらは、父さんの手を握った手に、力を込めた。
「短期間ゴリラ!」
『な……ポロン!』
父さんの体が吹き飛ばされると同時に、おいらはその手を離す。そして、しっかりと地面を踏みしめて、彼を見た。
……おいらの知っているぬくもりは、これじゃない。
「おいお前! ……おいらがお前なんかの思い通りになると思ってたら、大間違いだい! おいらには、仲間がいるからな!」
『は……はは、俺は、お前の家族だぞ? 仲間よりもずっと深く、お前のことをしっている。なぁ、俺と一緒に行こう?』
「いやだい」
おいらは再び伸ばされた手をリヴィーで捕らえた。
「……おいらの知ってるぬくもりは、そんなんじゃないんだい」
『父さん』の眼が赤く光ったのが見えた。……やっぱり、あいつは父さんじゃない。ただの魔物だ。ただの魔物なら…………倒すことも、簡単なはず。
「おいらの知ってるぬくもりはっ……!
おいらの道を、塞いだりなんてしない! おいらの意思で動かせてくれるんだい!」
短剣を抜いて、父さんに斬りかかった。それを父さんは、同じように短剣で受け止めた。
『ポロン……外に行ったって、良いことなんて何もない。苦しかったろう? 痛かったろう? 自分を犠牲にすることばかり学んで、他のことはさっぱりだ。そんなんでいいのか?』
「それでもおいらには、居場所が出来た」
短剣を押し切る。そして、その勢いのまま振りかぶった。
「おいらは、『存在』を手に入れたんだい! ここにいたら、絶対に手に入らなかったものだ……っ、だから!」
短剣を、振り下ろした。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……それでも私は、死にたくない」
握りしめた刃の先は、お父さんとお母さんに向けた。これも裏切りだと、悪いことだと言われるのなら、私は悪にでもなんにでもなる。
『フローラ……! 二度も俺らを裏切るのか!』
「いいえ! ……これは、裏切りじゃない。これは、私の願い……。私が! ……自分で選べる、最善の願い」
『願い……? あなたになにかを望む権利があるとでも思ってるの?』
ない……と、思ってた。けど、違う。
私にはその権利がある。助けてって、声をあげる権利がある。この……トラウマになった過去を打ち砕く、権利がある。
「……お母さんお父さん、ごめんなさい。でも、あなたたちは違いますよね」
『なにを』
私は、ナイフを握りしめた。
「あなたたちは、私の過去を具現化した魔物……。分かりますよ、だって、どんなに酷いことされても、私の両親ですから」
笑って、過去を切り裂いた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
自分を捨てれば、みんなが助かる? 自分を捨てれば、幸せになれる?
「そんなわけないよ」
『……なんだと?』
「だって、もしそうなら、ウタたちがあんなに必死にぼくを止めるはずないもん!」
ぼくは、初めて……初めて、本気で目の前の相手と戦おうと、手のひらに力を込めた。
「……アイス!」
小さな氷の粒は、目の前の敵に飛んでいく。それを軽く避けると、男性はクスクスとぼくのことを笑っていた。
『そんな攻撃で俺に勝てると?』
「……思ってるよ」
『はっ、馬鹿を言うな。あのときの、お前は素晴らしかった……。すべてを破壊する化け物……! あの姿こそ、スライムであるお前の最大の可能性だというのに……』
「ぼくはあんな化け物になんかなりたくないよ!
……ぼくは、スライムのままだって幸せだったんだ。だって、ウタたちがいたから。ウタたちは、ぼくのことをぎゅってしてくれて、優しく笑いかけてくれて、とってもとっても……あったかいんだ」
ぼくは、もう一度その人をしっかりと見た。
「ひとりぼっちの強さなんか……いらない!」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……すまぬ、ウタ殿」
我は降り注ぐ光の槍を、すべて闇の槍で打ち消した。そして、目の前のウタ殿とニエルを交互に見据える。
「……我は、足手まといかもしれない。ただの足枷であるかもしれない。使い捨ての駒なのかもしれない。
……それでも、我は、彼らを守り抜くことを願い、誓ったのだ。お主らに曲げられる筋合いはない」
『……そっか、ドラくんは、僕らのことどうでもいいんだね』
「それは違う」
我は、姿をドラゴンに変える。そして、炎を吐きながら降下した。……どうでもいいだなんて、そんなこと、思うはずがないだろう。
「お主たちのために、我がいない方がいいとしても……戦力的に、その方が有利だとしても……! ……ウタ殿は、我を助けに来たのだ」
もうどうなっても構わない。彼らを救えるなら、この身が永遠に崩れ去り、消えてしまっても構わない……。本気でそう願っていたのに、彼はやってきた。
「我の存在が足かせだろうが、我の力が足りなかろうが……! 我が共にいて生き甲斐を感じるのは、ウタ殿のそばにいるときだ。一番生きていると感じるのは自分自身だ」
我は、もう一度、生きる意味を見つけた。人のために生きる意味。
それが……我の、存在意義。
『……え』
おいらは、父さんの手を握った手に、力を込めた。
「短期間ゴリラ!」
『な……ポロン!』
父さんの体が吹き飛ばされると同時に、おいらはその手を離す。そして、しっかりと地面を踏みしめて、彼を見た。
……おいらの知っているぬくもりは、これじゃない。
「おいお前! ……おいらがお前なんかの思い通りになると思ってたら、大間違いだい! おいらには、仲間がいるからな!」
『は……はは、俺は、お前の家族だぞ? 仲間よりもずっと深く、お前のことをしっている。なぁ、俺と一緒に行こう?』
「いやだい」
おいらは再び伸ばされた手をリヴィーで捕らえた。
「……おいらの知ってるぬくもりは、そんなんじゃないんだい」
『父さん』の眼が赤く光ったのが見えた。……やっぱり、あいつは父さんじゃない。ただの魔物だ。ただの魔物なら…………倒すことも、簡単なはず。
「おいらの知ってるぬくもりはっ……!
おいらの道を、塞いだりなんてしない! おいらの意思で動かせてくれるんだい!」
短剣を抜いて、父さんに斬りかかった。それを父さんは、同じように短剣で受け止めた。
『ポロン……外に行ったって、良いことなんて何もない。苦しかったろう? 痛かったろう? 自分を犠牲にすることばかり学んで、他のことはさっぱりだ。そんなんでいいのか?』
「それでもおいらには、居場所が出来た」
短剣を押し切る。そして、その勢いのまま振りかぶった。
「おいらは、『存在』を手に入れたんだい! ここにいたら、絶対に手に入らなかったものだ……っ、だから!」
短剣を、振り下ろした。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……それでも私は、死にたくない」
握りしめた刃の先は、お父さんとお母さんに向けた。これも裏切りだと、悪いことだと言われるのなら、私は悪にでもなんにでもなる。
『フローラ……! 二度も俺らを裏切るのか!』
「いいえ! ……これは、裏切りじゃない。これは、私の願い……。私が! ……自分で選べる、最善の願い」
『願い……? あなたになにかを望む権利があるとでも思ってるの?』
ない……と、思ってた。けど、違う。
私にはその権利がある。助けてって、声をあげる権利がある。この……トラウマになった過去を打ち砕く、権利がある。
「……お母さんお父さん、ごめんなさい。でも、あなたたちは違いますよね」
『なにを』
私は、ナイフを握りしめた。
「あなたたちは、私の過去を具現化した魔物……。分かりますよ、だって、どんなに酷いことされても、私の両親ですから」
笑って、過去を切り裂いた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
自分を捨てれば、みんなが助かる? 自分を捨てれば、幸せになれる?
「そんなわけないよ」
『……なんだと?』
「だって、もしそうなら、ウタたちがあんなに必死にぼくを止めるはずないもん!」
ぼくは、初めて……初めて、本気で目の前の相手と戦おうと、手のひらに力を込めた。
「……アイス!」
小さな氷の粒は、目の前の敵に飛んでいく。それを軽く避けると、男性はクスクスとぼくのことを笑っていた。
『そんな攻撃で俺に勝てると?』
「……思ってるよ」
『はっ、馬鹿を言うな。あのときの、お前は素晴らしかった……。すべてを破壊する化け物……! あの姿こそ、スライムであるお前の最大の可能性だというのに……』
「ぼくはあんな化け物になんかなりたくないよ!
……ぼくは、スライムのままだって幸せだったんだ。だって、ウタたちがいたから。ウタたちは、ぼくのことをぎゅってしてくれて、優しく笑いかけてくれて、とってもとっても……あったかいんだ」
ぼくは、もう一度その人をしっかりと見た。
「ひとりぼっちの強さなんか……いらない!」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……すまぬ、ウタ殿」
我は降り注ぐ光の槍を、すべて闇の槍で打ち消した。そして、目の前のウタ殿とニエルを交互に見据える。
「……我は、足手まといかもしれない。ただの足枷であるかもしれない。使い捨ての駒なのかもしれない。
……それでも、我は、彼らを守り抜くことを願い、誓ったのだ。お主らに曲げられる筋合いはない」
『……そっか、ドラくんは、僕らのことどうでもいいんだね』
「それは違う」
我は、姿をドラゴンに変える。そして、炎を吐きながら降下した。……どうでもいいだなんて、そんなこと、思うはずがないだろう。
「お主たちのために、我がいない方がいいとしても……戦力的に、その方が有利だとしても……! ……ウタ殿は、我を助けに来たのだ」
もうどうなっても構わない。彼らを救えるなら、この身が永遠に崩れ去り、消えてしまっても構わない……。本気でそう願っていたのに、彼はやってきた。
「我の存在が足かせだろうが、我の力が足りなかろうが……! 我が共にいて生き甲斐を感じるのは、ウタ殿のそばにいるときだ。一番生きていると感じるのは自分自身だ」
我は、もう一度、生きる意味を見つけた。人のために生きる意味。
それが……我の、存在意義。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる