上 下
334 / 387
自分の声は聞こえますか?

頑張るよ

しおりを挟む
「そういえばその子は……パーティーの子じゃないんですか?」


 そう疑問を口にするソフィアさんの視線の先にいたのは、リードくんだった。リードくんは突然声をかけられ一瞬ピクリと体を震わせた。


「え、あ、俺は……」

「こいつはリードって言うんだ。訳あって、一時的に預かってる」

「預かってるっていうと、他のパーティーに?」

「いや…………」


 アリアさんが、リードくんに視線を向ける。『話してもいいか?』と、尋ねているようだった。
 それを、リードくんも感じ取ったのか、小さくうなずく。僕はうなだれるリードくんの隣にたち、そっと肩を寄せた。


「……リードはな、ちょっと前に捨てられたんだ。両親に。で、たまたま私たちと会った。そのまま成り行きで一緒にいるんだ」

「そうなんですか……。これからは、アリアさんたちのパーティーに?」

「いや……我らは、ここを出たらある場所に向かわなくてはいけない。そこに、こやつを連れていくわけにはいかない」

「だから、居場所探しも含めて、ここに」

「…………ソフィア」


 ソフィアさんとヒルさんは少しなにかをこそこそと話したのちに、優しく微笑んだ。そして、スッと視線をあげ、ヒルさんが言う。


「彼……僕らが引き取りますよ」

「……え」

「皆さんがどこに行こうとしてるかは分かりませんけど、きっと、それが危険だからリードくんを置いていこうとしてるんですよね?」

「まぁ、そうだな」

「……安全ではない、ですよね」

「皆さんが優しいのは、私たちがよく分かってるんで、そのパーティーと行動している彼が、悪い子な訳ないですもんね」


 ソフィアさんはにこりと微笑み、リードくんの前にしゃがみこむ。
 ……僕らとしても、ソフィアさんとヒルさんに引き取ってもらえるのなら安心だし、とてもありがたい。この二人が優しいことも、何となく分かった。……声を聞かずとも。


「……どうする、ウタ?」

「僕はお願いしたいです。リードくんも、二人に預けるなら安心だし。リードくんが良ければ」

「……俺…………」


 ……リードくんは、どこか不安げだった。当たり前かもしれない。だって、信頼していた両親に『捨てられる』という裏切りを受けたのだ。不安になるのは仕方ないことだろう。


「……僕たち、君と一緒に冒険者、やりたいんだ」

「……俺、でも、何にも出来ないし……足手まといになる。だから」

「そんなことないよ」

「だって……!」


 そこで、言葉が詰まる。それが事実であり受け入れていたとしても、『捨てられた』と自ら口にするのは抵抗があるだろう。……当たり前のことだ。
 それを感じ取ったのか、ヒルさんはリードくんの頭にそっと手をのせる。


「じゃあそうだな……ここのボス、倒せたら、僕らと一緒に来てよ。それならいいでしょ?」

「でも俺……勝てねぇよ」

「勝てるよ」


 過去に働きかけてくる敵ならば、過去を乗り越えているはずのリードくんに倒せないはずがない。ヒルさんは、きっとそう思ったのだ。実際僕もそう思う。あの恐怖を乗り越えて、ポロンくんと炎の龍を産み出せるほどに強い彼のことだ。きっと大丈夫。
 ……大丈夫じゃないのは、僕の方だ。


「……大丈夫だよ、リードくん。僕らも一緒に行くから」

「…………」

「……それとも、僕らが嫌、なのかな」

「違うっ! そうじゃなくて…………」

「じゃあ、私たちと来てくれないかな?」

「…………」


 それでもまだ考え込み答えを返せないリードくんを見かねて、フローラがその手を伸ばした。


「……ねぇ」


 そして、その手でリードくんの手を握る。酷く優しく、そっと。


「……リードなら、大丈夫だよ」

「……フローラ、でも、俺……」

「ここから逃げないで、ちゃんと勝って、出て、もっと強くなって、私たちに会いに来てよ。また声かけてくれたら……ちょっと、嬉しいから」

「…………」


 その様子を見ていたポロンくんがそっと僕の隣に来て、服の裾を握りしめた。……その横顔は、ちょっとだけ大人だった。


「…………」


 僕は黙って、その頭を撫でた。かぁっと、ポロンくんの顔が赤くなるのが分かった。


「…………気づいてたのかよ、ウタ兄」

「なんとなーく、ね」

「……ずるい」

「ごめん」

「…………」

「……強くなったね、ポロンくんも」

「……おいらだって、ずっとおんなじじゃないんだい。おいらだって、長い時間はかかったけど、ちゃんと成長しているんだい」


 だから、お前とは違う。
 ……そんなこと、ポロンくんは口にしていないけど、僕にはそう聞こえた気がした。
 みんな、僕とは違う。辛い現実から逃げて、目を背け続けてきた僕とは違うんた。何一つ成長していない僕に比べてみんなは……ずっともがいて、ずっと苦しんで、乗り越えてきたんだ。
 僕なんかと……全然違う。僕がリーダーなんかしちゃいけない。


「……そっか、それなら俺、頑張ってみるよ」


 そんな僕のすぐ近くで、また一人、勇気を出して、一歩踏み出した。


「俺! 頑張って魔物倒して、ソフィアとヒルの仲間になる!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

皇女殿下は婚約破棄をお望みです!

ひよこ1号
ファンタジー
突然の王子からの破棄!と見せかけて、全て皇女様の掌の上でございます。 怒涛の婚約破棄&ざまぁの前に始まる、皇女殿下の回想の物語。 家族に溺愛され、努力も怠らない皇女の、ほのぼの有、涙有りの冒険?譚 生真面目な侍女の公爵令嬢、異世界転生した双子の伯爵令嬢など、脇役も愛してもらえたら嬉しいです。 ※長編が終わったら書き始める予定です(すみません)

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...