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自分の声は聞こえますか?

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 ダンジョンをどんどん進み、僕らはようやく、最深部へとやってきた。ようやく……というのは、敵が強かった訳じゃない。むしろ普通に外にいる敵の方がずっと強くて、厄介だ。数も少なく、ひたすらにダンジョンが広いと言うそれだけだった。


「…………やっとか」

「もうおいら疲れたぁ……」

「あと少しだよ、ポロン」

「……それにしても、リードくんを引き取ってくれそうなパーティー、ありませんね」

「そうだな……そもそもパーティーの数が少ないと言うのもあるが」


 敵が弱すぎるせいなのか、それともマップが広すぎるせいなのか。一番低いレベルのダンジョンであるにも関わらず、冒険者の数は驚くほどに少なかった。
 会ったのはたったの7組。でもどこも手は足りてるって言ってリードくんを受け入れてはくれなかった。……まぁ、確かにそうそう受け入れてくれるとは思っていなかったけど……そもそも母数が少ないんじゃ、見つかるものも見つからない。
 まぁ、この調子なら最後の敵も大したことはないはずだ。サクッと倒して外に出て、リードくんの引き取り手を探そう。

 ……と、思っていたのだが。


「……ここだけ様子が変だな」


 アリアさんがそう呟き、立ち止まる。目の前には大きな扉があった。明らかにこの先はボスがいますよーって感じの扉だ。そして、今までほとんど冒険者を見かけなかったのに、ここには何十人という冒険者がいて、そのほとんどがボロボロの状態だった。
 僕が一歩踏み出す前に、フローラが駆け出し、その一人……パッと見で、一番怪我が酷い男の人のところへと駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

「ぁ……え、子供?」

「ヒル、この子と知り合いなの?」

「いや……」

「あ、ご、ごめんなさい……! あまりにも酷い怪我だったから、つい……」

「フローラ……」


 僕がフローラを追ってその人の近くに行くと、隣にいた女性が僕を見た。淡い空色の髪に、紫色のメッシュを持った、綺麗な人だ。男性のほうは、同じような空色の髪に、緑色のメッシュ。……兄弟なのかな、って感じだ。


「えっと……この子のパーティーの?」

「あ、柳原羽汰っていいます」

「ウタさん! この人……」

「分かってる……けど僕じゃあ…………」

「……私がやるか?」

「アリアさん……お願いします」

「ん。……ケアル」


 アリアさんの回復魔法の熟練度は4。ゆっくりではあるが、着実に怪我を治していく。


「フローラぁ、心配なのは分かるけどよ、突っ走りすぎだよ」

「ご、ごめんポロン。……ウタさんもアリアさんも、すみません……」

「うぅん。……えっと、ヒルさんと……?」

「ソフィアです。……ありがとうございます、えっと、アリア、さん? ヒルを助けくれてありがとうございます」

「いや、大丈夫だ。……結構良くなかったかな?」

「おかげさまで、どうも」


 ヒルさんは立ち上がり、にこりと微笑んだ。こう並んでみると、二人は少し似ているようにも見える。やっぱり兄弟なのか。


「ねーねー! 二人は、兄弟?」


 スラちゃんが話しかけると、ソフィアさんはにこりと微笑み、スラちゃんに視線を合わせる。


「そう、私が妹で、ヒルが兄。兄妹で冒険者してるの」

「兄妹で冒険者か……。にしても、我から見て、二人はそこまでレベルが低いようにも見えない。30はあるだろう? ここの敵にそこまで手こずるようにも思えないが……」

「へぇ……凄いなぁ。人じゃないんだね、君たち」


 ヒルさんはドラくんとスラちゃんを見ると、そうやって笑う。……ドラくんたちが人じゃないと見抜いた人は、初めてだった。


「お前の方がすごいな。分かるのか?」

「僕は召喚師ですから。分かります」

「私は魔法使いで……なに、この子たち人じゃないの?」

「うん! ぼくはスライムなんだぁ! ドラくんは、ドラゴンだよ!」

「……あの」

「名前については気にしないでやってくれよ」

「ドラくんとスラちゃん……ですよ」

「……あ、はは」

「……私たちやっぱりセンスないのか?」

「アリアさん、今さらです」

「……で? 我の質問に答えてはくれるのか?」

「あぁ……そうだったね」


 思い出したようにヒルさんが呟き、苦く笑った。それを見て、ソフィアさんも困ったように微笑む。……よくよく見れば、ソフィアさんはほとんど怪我をしていない。ボロボロだったのは、ヒルさんだけだ。


「物理的な強さじゃないんだよね、ここのボスは。だからここでリタイアする冒険者がすごく多い」

「……物理的な強さじゃない……っていうと?」

「内面的な強さ……つまり、精神に働きかけてくる敵なんです」

「…………つまり?」

「幻覚や幻聴、あるいは精神を操ったり……そういうことか」

「……メヌマニエみたい…………」


 アリアさんはフローラの頭を軽く撫でると、真剣な眼差しでソフィアさんたちを見た。


「それで……お礼に、って言ったらズルいかもしれないが、その敵、どんなやつなのか教えてくれないか? 私たちはどうしてもそいつを倒さなきゃいけないんだ」


 アリアさんがそういうと、二人は顔を見合わせた。


「――過去に、働きかけてくる敵です」


 ……息が詰まる気がした。それと同時に、何かを察した。
 あぁ、そうか……。きっと、A級になる必要なんかないんだ。個性の塊'sは、ジュノンさんは、この敵を僕に倒させたいんだな……。
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