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闇夜に舞う者は
ダンジョン
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「はっ! ……と」
ころん、と、銀貨が落ちる。僕はそれをそっと拾い上げた。……慣れてしまったなぁ、これに。
「……ほんと、ウタ、まともに戦えるようになるまで長かったな。最初はとてもとても……」
「ひどかったよね」
「……酷かった」
「そうなんだ? 俺この間会ったばっかりだからな~」
「私と会ったときは、もうそうでもなかったですけど……」
「フローラのときもかなりだよ、見せてないだけでさ」
「酷いって、どう酷かったんだ?」
「魔物一匹倒す度に……」
「泣いてた。号泣だ」
「号泣……それは、すごい、な」
「ウタ兄、リードが引いてるぞ」
「見ればわかるよ、悲しいことに……」
まぁ、自分で言うのもあれだが、あの当時は、戦えていたとはとても言えない。……僕の中で、マルティネスでの一件が、変わる決め手となっているのは間違いなかった。
そして僕らは今、リードくんも含め、ダンジョンにやって来ている。理由は二つ。まずは、A級にあがるため。これは当初から目的だった。A級にならなければ、海を渡り、漆黒へ向かうことは出来ない。
そしてもう一つは、リードくんの居場所を見つけることだ。ダンジョンにはたくさんの冒険者がくる。そのなかで、リードくんを受け入れてくれそうな人を探す。……ダンジョンを攻略して、これから本当の魔王を倒そうとしているのに、リードくんを連れていくわけにはいかないのだ。
「……でも、やっぱり、国王の話は気になる部分が多かったな」
アリアさんの呟きに、僕はうなずいた。……なんといっても、奇妙な点が多かったのだ。
目が覚めた国王は、まず僕らにお礼を言った。
「いやぁ、本当に助かった。ありがとう」
「いえ、こちらとしても、お役に立てたのなら光栄です」
「アリア姫、嫌な想いをさせて悪かったな。前、マルティネスでなにかとあったそうだが……大丈夫かい?」
「……おかげさまで」
「……ところで」
と、僕が切り出そうとすると、国王はそれを片手で制した。
「分かってる。……『力』のことだろう? 俺を操っていた」
「……はい。なにか、心当たりはありますか?」
「それが全く無くてな……。あの力は、俺に、問いかけてきたんだ。『死にたいか?』とな」
「……え?」
「もちろん俺は、死にたくないと答えた。そうしたら、力に取り込まれた。……全く分からないんだよ、『力』がなんなのか」
「……死にたくないときに、生まれる気持ち、な…………」
死にたくないと答えたら、取り込まれた。つまり力は、その気持ちにつけこんだ……? 『生きようとする気持ち』が、自己防衛の勇気なのか?
……確かにそう考えれば辻褄が合うかもしれない。でも、女王や姫が無事だったことへの説明が出来ない。自己防衛が『生きようとする気持ち』だとして、自己犠牲はその逆……つまり、『死のうとする気持ち』になってしまう。
それはそれで……僕とディランさんだけに限定して考えれば正しいのだけど、女王は、少なくとも死にたいなんて考えている様子がなかった。姫もそうだ。……真面目に分からなくなってきたぞ、これは。
「……女王陛下や、姫の方が、強く持っている気持ち……か」
「…………その瞬間のことかも、しれないな」
ふと、アリアさんが言った。
「瞬間って……アリア姉、大体の人、『死にたいかー?』って聞かれたら、『死にたくない』『生きたい』って答えるんじゃねーか?」
「……逆に、どんな状況ならそれ以外の答えを出すでしょうか?」
「どんな…………」
死にたいと思う瞬間。……そんなの、ほとんどない。しかも、それが爆発的に大きくなって、生きたいと思う気持ちを越える瞬間…………。
「…………」
「……なんか、思いついただろ、お前」
「……違います」
「嘘が下手だな。……話してくれないのか」
「……まだ、確証がないです」
「確証がないことでも……今まで、たくさん話してきたのにな」
「…………」
ポロンくんたちは、そんな僕らの様子に触れない。……気づいて、気になっているはずなのに、決して触れない。それは……きっと、アリアさんと僕を、信用してくれているから。突然死のうなんてしないと、分かっているから。
……でも僕は、その信頼こそが、痛くて辛い。
(……そろそろ……みんなに、伝えてもいいかな。あのこと……)
僕が隠しているのは、ここに来る前のこと。ここに来てからのことは、隠す意味がない。
来る前のことは……誰一人にも、話したことがない。でも、みんなおそらく、僕がなにかを隠している、ということには気がついているのだろう。だからこそたまに……とても心配そうな顔をする。
「…………伝えなきゃ」
ぽつり、と呟いた。が、いつ、とまでは宣言できなかった。とりあえず……このダンジョンを、クランを、攻略するまでは……攻略して、A級にあがったら、その話をしよう。
…………そうすれば、みんなが、僕のことを見放さないと言う自信がつきそうだから。
そんなことを思う僕を、アリアさんがいつもの真っ直ぐな目で見ていたことは……僕は知らなかった。
ころん、と、銀貨が落ちる。僕はそれをそっと拾い上げた。……慣れてしまったなぁ、これに。
「……ほんと、ウタ、まともに戦えるようになるまで長かったな。最初はとてもとても……」
「ひどかったよね」
「……酷かった」
「そうなんだ? 俺この間会ったばっかりだからな~」
「私と会ったときは、もうそうでもなかったですけど……」
「フローラのときもかなりだよ、見せてないだけでさ」
「酷いって、どう酷かったんだ?」
「魔物一匹倒す度に……」
「泣いてた。号泣だ」
「号泣……それは、すごい、な」
「ウタ兄、リードが引いてるぞ」
「見ればわかるよ、悲しいことに……」
まぁ、自分で言うのもあれだが、あの当時は、戦えていたとはとても言えない。……僕の中で、マルティネスでの一件が、変わる決め手となっているのは間違いなかった。
そして僕らは今、リードくんも含め、ダンジョンにやって来ている。理由は二つ。まずは、A級にあがるため。これは当初から目的だった。A級にならなければ、海を渡り、漆黒へ向かうことは出来ない。
そしてもう一つは、リードくんの居場所を見つけることだ。ダンジョンにはたくさんの冒険者がくる。そのなかで、リードくんを受け入れてくれそうな人を探す。……ダンジョンを攻略して、これから本当の魔王を倒そうとしているのに、リードくんを連れていくわけにはいかないのだ。
「……でも、やっぱり、国王の話は気になる部分が多かったな」
アリアさんの呟きに、僕はうなずいた。……なんといっても、奇妙な点が多かったのだ。
目が覚めた国王は、まず僕らにお礼を言った。
「いやぁ、本当に助かった。ありがとう」
「いえ、こちらとしても、お役に立てたのなら光栄です」
「アリア姫、嫌な想いをさせて悪かったな。前、マルティネスでなにかとあったそうだが……大丈夫かい?」
「……おかげさまで」
「……ところで」
と、僕が切り出そうとすると、国王はそれを片手で制した。
「分かってる。……『力』のことだろう? 俺を操っていた」
「……はい。なにか、心当たりはありますか?」
「それが全く無くてな……。あの力は、俺に、問いかけてきたんだ。『死にたいか?』とな」
「……え?」
「もちろん俺は、死にたくないと答えた。そうしたら、力に取り込まれた。……全く分からないんだよ、『力』がなんなのか」
「……死にたくないときに、生まれる気持ち、な…………」
死にたくないと答えたら、取り込まれた。つまり力は、その気持ちにつけこんだ……? 『生きようとする気持ち』が、自己防衛の勇気なのか?
……確かにそう考えれば辻褄が合うかもしれない。でも、女王や姫が無事だったことへの説明が出来ない。自己防衛が『生きようとする気持ち』だとして、自己犠牲はその逆……つまり、『死のうとする気持ち』になってしまう。
それはそれで……僕とディランさんだけに限定して考えれば正しいのだけど、女王は、少なくとも死にたいなんて考えている様子がなかった。姫もそうだ。……真面目に分からなくなってきたぞ、これは。
「……女王陛下や、姫の方が、強く持っている気持ち……か」
「…………その瞬間のことかも、しれないな」
ふと、アリアさんが言った。
「瞬間って……アリア姉、大体の人、『死にたいかー?』って聞かれたら、『死にたくない』『生きたい』って答えるんじゃねーか?」
「……逆に、どんな状況ならそれ以外の答えを出すでしょうか?」
「どんな…………」
死にたいと思う瞬間。……そんなの、ほとんどない。しかも、それが爆発的に大きくなって、生きたいと思う気持ちを越える瞬間…………。
「…………」
「……なんか、思いついただろ、お前」
「……違います」
「嘘が下手だな。……話してくれないのか」
「……まだ、確証がないです」
「確証がないことでも……今まで、たくさん話してきたのにな」
「…………」
ポロンくんたちは、そんな僕らの様子に触れない。……気づいて、気になっているはずなのに、決して触れない。それは……きっと、アリアさんと僕を、信用してくれているから。突然死のうなんてしないと、分かっているから。
……でも僕は、その信頼こそが、痛くて辛い。
(……そろそろ……みんなに、伝えてもいいかな。あのこと……)
僕が隠しているのは、ここに来る前のこと。ここに来てからのことは、隠す意味がない。
来る前のことは……誰一人にも、話したことがない。でも、みんなおそらく、僕がなにかを隠している、ということには気がついているのだろう。だからこそたまに……とても心配そうな顔をする。
「…………伝えなきゃ」
ぽつり、と呟いた。が、いつ、とまでは宣言できなかった。とりあえず……このダンジョンを、クランを、攻略するまでは……攻略して、A級にあがったら、その話をしよう。
…………そうすれば、みんなが、僕のことを見放さないと言う自信がつきそうだから。
そんなことを思う僕を、アリアさんがいつもの真っ直ぐな目で見ていたことは……僕は知らなかった。
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