チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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闇夜に舞う者は

なんとかなるでしょ

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 炎の槍がニエルに届く……かと思った瞬間、


「シエルト」


 そのニエルの前に、バリアが張られた。ハッとして見渡すと、ニエルの後ろから、見覚えのある女性が出てきた。


「私が手を貸すのは……久しぶり、かな?」

「ドロウさん……?!」

「ドロウ……?」


 振り向いたニエルに、ドロウさんは鋭い視線を向ける。一瞬だけ怯んだように見えたニエルに、ドロウさんは手をつき出すと、何かを握りしめるような動作をした。


「……強奪」


 瞬間、光輝く何かが、ニエルの中から飛び出していくのが見えた。それを見たニエルは、とたんに焦り出す。


「まて……お前、なぜ『それ』が出来る!? それが出来るのは、俺よりレベルが上のやつだけ……。レベルが100になった俺から、それを奪えるのは」

「だから……私、今レベル1000だから。ウタくんも、知らなかっただけで使えるはずだよ?」

「……はぁ? あんなへなちょこが使えるような呪文じゃ」

「これだけ打ち合ってたら分かってると思ってた。ウタくん……今、レベル2800だよ?」

「……は」


 そしてドロウさんは、そっと僕らに近づき、僕の足元の刺を消す。思わずよろめいた僕をドラくんが後ろから支えてくれる。


「……無茶苦茶だな、お主」

「……まぁ、ドラくんの主人だからね」


 ドロウさんは、握っていた手を開く。そこには、輝く何かが、まだ、残っていた。


「これ、何か分かるよね、ドラくん?」

「…………」

「……あぁ。我の、加護だ」

「今の所有権は私。……解消したい?」

「…………あぁ」

「ん、いいよ」

「ま、待て!」


 ニエルの抵抗もむなしく、契約は、あっさりと解消された。ガクリとうなだれるニエルに向かって、ドロウさんは冷たく言い放つ。


「使役ってのはさ、スキルの仕組みの都合で、どうしても上下関係っていうのが生まれる訳だけど、上に立ってるからって、何をしても良い訳じゃない。体を殺してないからって、心を殺して良い訳ない。
 ……残念だけど、もうこれから先、何も使役することは出来ないよ。あなたには」

「っ……黙れ!」


 叫びながら剣を振るうが、その程度の攻撃、個性の塊'sに当たる訳がない。さらりと避け、ドロウさんはこちらに少しだけ微笑みかける。


「加護がなくなれば……なんとかなるでしょ。ニエルは、そんなに強くないからね。Unfinishedなら、勝てる」

「……ありがとうございました、ドロウさん」

「まぁ私ドラゴン大好きだし。……ダンジョン、行くんでしょ?」

「はい!」


 そして、ドロウさんはそのままその場を去った。ニエルは……ひたすらに、地面を殴り付ける。


「くそが……俺が、弱い? そんなはず……そんなはずない!」


 そして、剣を振りかぶり、僕らに襲いかかってくる。……でも僕らは、もう何も怖くない。


「ドラくん!」

「あぁ!」


 ドラくんは一瞬で元の姿に戻り、僕を乗せて舞い上がった。闇夜の中、月明かりに照らされたそのドラゴンの横顔は……とても、綺麗だった。


「飛んだからってなんだ……! バーニングエレキテル!」


 雷が頭上で轟く。……が、


「シエルト!」


 すでにアリアさんたちの姿を捉えていた僕らには、何も怖くはなかった。


「は……シエルト? どこから……まぁいい。ダークネスランス!」

「ドラくん!」

「任せろ我が主君。……ガーディア!」


 あまりにもあっけなく防がれたその槍を呆然と見据えるニエルの背後に、炎で出来たドラゴンが迫る。


「なんだ……なんだこれは!? お前ら! いったいどんな魔法を使った!」

「……ウタ兄たちじゃねーよ、ばーか」

「俺らが協力しただけだもんな!」


 ……恐らく、『窃盗』の効果だろう。ニエルには見えていなかったが、僕らには、その炎のドラゴンの上に乗る、ポロンくんたちの姿がしっかりと見えていた。そこにはリードくんもいる。
 僕とドラくんを除いて、炎魔法を使えるのは、彼だけだ。きっとこのドラゴンは、ポロンくんが蔦で形作ったものにリードくんが火をつけた。……そういうものだろう。


「対象が多い……なら、支離滅裂!」


 無数の小さな刃が、一斉に僕らを狙う。……が、それも、僕らの前ではほぼ無意味だった。


「私の力、私にしか出来ないこと。……最善の判断、させていただきます」


 刃は、全て光の槍によって打ち落とされる。フローラが『転』を発動させ、そういう行動に出た……そう気づくのは簡単だった。


「ウタ殿」


 ドラくんの金色の瞳が、僕を見据える。……何が言いたいのかは、それだけでよく伝わってきた。


「僕は行けるよ。……今すぐにでも!」

「よし、なら行くぞ。遠慮は無しだ」

「うん!」


 そしてドラくんは、ニエルに向かって急降下する。僕は聖剣を、しっかりと握りしめて前を見据えた。


「ダークドラゴン……俺から逃げるのか? また逃げるのか?」

「…………」

「……ドラくんは逃げてるんじゃないですよ」


 僕は、ゆっくりと剣を振りかぶる。


「ドラくんは……自分の過去を、乗り越えようとしてるんです! それを止めるのは僕が……主人である僕が、絶対に許さない!」


 そして、ニエルに向かって振り下ろした。
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