313 / 387
闇夜に舞う者は
行ってくる
しおりを挟む
その後、一言も言葉を発することのなくなったリードくんをつれ、僕らは宿を探していた。そして、ギルドの近く、少し古ぼけた宿に部屋を借りるころには、すでに日が落ちていた。
「仕方ない、今日は休むか」
「ですね。……7人部屋なんて、あるんですね」
部屋の中にはベッドが七つ。片側に四つと反対側に三つだ。四つの方には男性陣、三つの方には女性陣が寝ると言うことで意見が一致した。よかった。
「聞いた感じ、ここだけしかないみたいだがな。運が良かったってことだ」
「……ま、作戦会議でもしようぜー」
ポロンくんはそう言いながらベッドに座る。僕らも同じように座り、必然的に円を描くような形になる。
「……で、どうする? 国王が宛になんないんじゃ、ニエルを追う手がかりの一つもない」
「……それどころじゃありませんよ。国王がもし、本当に操られてて、勇者と関わりのあるもう一つの勇気を本気で封じに来るなら……ここにいることも、ギルドに入ることも出来ませんよ?」
「どう動こうか……」
それを聞いていたリードくんがおずおずと手をあげる。
「な、なぁ……?」
「ん、どうした?」
「……俺、ここにいていいのか? なんか、大事な話してるっぽいし……。それに、宿のお金だって持ってねーよ? それに勇者とか……何者だよ、お前ら」
僕らはちょっと顔を見合わせ、そして、今さらだよと笑った。
「今さらだって」
「で、でもよ」
「勝手につるんできて、勝手についてきたのはお前だ。今さら気を使ってどうする?」
「だって……」
「…………それに、な? フローラ」
ポロンくんが苦く笑いフローラに目をやると、フローラはうなずき、少し寂しげな笑みをリードくんに向けた。
「……環境とか状況とかは違うけど、私たちも、なんとなく気持ち、分かるから」
「…………え?」
「リード、キルナンスって知ってる?」
「おう、少し前に話題になってたから……」
「おいら、そこで盗賊やってたんだ。生まれたときから盗賊、生きるためになんでも盗んで、自分に嘘ついて過ごしてた。……で、ウタ兄とアリア姉に助けられたんだ」
それにリードくんは驚いたような目を向け、「フローラも……?」と恐る恐るそちらに目を向ける。フローラは笑いながら首を振り、答える。
「私はなにもしてなかった。させてもらえなかった。家に半分閉じ込められててね。……痛かった。心も、体も。
それを、ウタさんとアリアさんとポロンに助けてもらって、この髪止めは、そのときアリアさんに貰ったものなの。……宝物で、お守りみたいなものなの」
「えっ……え、じゃあ、家族……って、もしかして、その髪止め…………」
少しの沈黙の後、リードはハッとしたようにベッドから飛び降りてフローラにかけより、その手を握りしめた。
「ごめん!」
「リードくん」
「本当にごめん。俺、自分がこんな状況にならなきゃ、フローラの気持ち、全然分かんなかった。……俺、今誰かに家族のこと話そうとしても……上手く話せないよ。
フローラも、こんな気持ちだったんだろ?」
「…………」
「それに、そんな大事な髪止めとったりして……本当に、ごめん。こんなんだから……自分がそうならないと分からないようなやつだから、俺、簡単に利用されたんだな、きっと」
そしてリードくんはフローラから手を離し、今度はポロンくんの方へかけより、手をとった。
「ポロンもごめん! 俺、間違ったことしか言ってなかった。変なことしか言ってなかった。ポロンが正しかった。……ごめん」
「……ん、もういいよ、おいらは」
……にしても、だ。
本当にどうしよう。ニエルのへの手がかりがまるっきり消えてしまった。あるとすれば、僕が聞いた『声』のみ。
「……ニエルのことに関しては仕方ないですね。明日、また街に出て聞き込みしましょう。それでダメ元でギルドに行って、ダンジョンに入れないかどうか。
運よくニエルに見つからなければ、殺されることもありませんから」
「……そうだな。そうしようか」
……本当に運よく、だけれども。
「…………」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「ねぇ、どこ行くの?」
夜中、また彼は、彼女に声をかけられた。その口調は普段に比べやや強く、目は鋭くも感じた。
「……スラちゃん……と我が呼ぶのは、やはり若干違和感があるか?」
「そんなこと今はどうでも良いよ。……どこ行くの? こんな真夜中に。ウタたちが起きないこと確認した上で」
彼の想いは、決まっている。それを分かった上で、彼女は彼を止めに入ったのだ。彼もまた、それを分かった上で笑う。
「……なに、昔の縁を絶ち切りにいくだけだ」
「本当に絶ち切るの……? ドラくんが弱いとは言わないよ? 強いよ? でも……ニエルって人は、きっと、もっと強いよ?」
「分かっている。だが、大丈夫だ」
「…………」
「……きっと、街へ出ても情報はないだろう。昔の住み処へ行ってみようと思う。あるいは、そこに」
「それってどこ?」
「教えると思うか?」
彼が部屋の扉に手をかけると、彼女は小さな声で、しかしはっきりと告げた。
「ウタは……ドラくんを探すよ。それで、見つけて、連れ戻すよ。……なんとしてでも」
「…………なぜ断言できる?」
「本当は分かってるくせに、素直じゃないなぁ。ドラくんもそう思ってるんでしょ?
――ぼくとドラくんは、ウタにとって、ただの使い魔の域を越えてるんだよ。仲間なんだよ」
彼は、聞こえないふりをした。
「……行ってくる」
「仕方ない、今日は休むか」
「ですね。……7人部屋なんて、あるんですね」
部屋の中にはベッドが七つ。片側に四つと反対側に三つだ。四つの方には男性陣、三つの方には女性陣が寝ると言うことで意見が一致した。よかった。
「聞いた感じ、ここだけしかないみたいだがな。運が良かったってことだ」
「……ま、作戦会議でもしようぜー」
ポロンくんはそう言いながらベッドに座る。僕らも同じように座り、必然的に円を描くような形になる。
「……で、どうする? 国王が宛になんないんじゃ、ニエルを追う手がかりの一つもない」
「……それどころじゃありませんよ。国王がもし、本当に操られてて、勇者と関わりのあるもう一つの勇気を本気で封じに来るなら……ここにいることも、ギルドに入ることも出来ませんよ?」
「どう動こうか……」
それを聞いていたリードくんがおずおずと手をあげる。
「な、なぁ……?」
「ん、どうした?」
「……俺、ここにいていいのか? なんか、大事な話してるっぽいし……。それに、宿のお金だって持ってねーよ? それに勇者とか……何者だよ、お前ら」
僕らはちょっと顔を見合わせ、そして、今さらだよと笑った。
「今さらだって」
「で、でもよ」
「勝手につるんできて、勝手についてきたのはお前だ。今さら気を使ってどうする?」
「だって……」
「…………それに、な? フローラ」
ポロンくんが苦く笑いフローラに目をやると、フローラはうなずき、少し寂しげな笑みをリードくんに向けた。
「……環境とか状況とかは違うけど、私たちも、なんとなく気持ち、分かるから」
「…………え?」
「リード、キルナンスって知ってる?」
「おう、少し前に話題になってたから……」
「おいら、そこで盗賊やってたんだ。生まれたときから盗賊、生きるためになんでも盗んで、自分に嘘ついて過ごしてた。……で、ウタ兄とアリア姉に助けられたんだ」
それにリードくんは驚いたような目を向け、「フローラも……?」と恐る恐るそちらに目を向ける。フローラは笑いながら首を振り、答える。
「私はなにもしてなかった。させてもらえなかった。家に半分閉じ込められててね。……痛かった。心も、体も。
それを、ウタさんとアリアさんとポロンに助けてもらって、この髪止めは、そのときアリアさんに貰ったものなの。……宝物で、お守りみたいなものなの」
「えっ……え、じゃあ、家族……って、もしかして、その髪止め…………」
少しの沈黙の後、リードはハッとしたようにベッドから飛び降りてフローラにかけより、その手を握りしめた。
「ごめん!」
「リードくん」
「本当にごめん。俺、自分がこんな状況にならなきゃ、フローラの気持ち、全然分かんなかった。……俺、今誰かに家族のこと話そうとしても……上手く話せないよ。
フローラも、こんな気持ちだったんだろ?」
「…………」
「それに、そんな大事な髪止めとったりして……本当に、ごめん。こんなんだから……自分がそうならないと分からないようなやつだから、俺、簡単に利用されたんだな、きっと」
そしてリードくんはフローラから手を離し、今度はポロンくんの方へかけより、手をとった。
「ポロンもごめん! 俺、間違ったことしか言ってなかった。変なことしか言ってなかった。ポロンが正しかった。……ごめん」
「……ん、もういいよ、おいらは」
……にしても、だ。
本当にどうしよう。ニエルのへの手がかりがまるっきり消えてしまった。あるとすれば、僕が聞いた『声』のみ。
「……ニエルのことに関しては仕方ないですね。明日、また街に出て聞き込みしましょう。それでダメ元でギルドに行って、ダンジョンに入れないかどうか。
運よくニエルに見つからなければ、殺されることもありませんから」
「……そうだな。そうしようか」
……本当に運よく、だけれども。
「…………」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「ねぇ、どこ行くの?」
夜中、また彼は、彼女に声をかけられた。その口調は普段に比べやや強く、目は鋭くも感じた。
「……スラちゃん……と我が呼ぶのは、やはり若干違和感があるか?」
「そんなこと今はどうでも良いよ。……どこ行くの? こんな真夜中に。ウタたちが起きないこと確認した上で」
彼の想いは、決まっている。それを分かった上で、彼女は彼を止めに入ったのだ。彼もまた、それを分かった上で笑う。
「……なに、昔の縁を絶ち切りにいくだけだ」
「本当に絶ち切るの……? ドラくんが弱いとは言わないよ? 強いよ? でも……ニエルって人は、きっと、もっと強いよ?」
「分かっている。だが、大丈夫だ」
「…………」
「……きっと、街へ出ても情報はないだろう。昔の住み処へ行ってみようと思う。あるいは、そこに」
「それってどこ?」
「教えると思うか?」
彼が部屋の扉に手をかけると、彼女は小さな声で、しかしはっきりと告げた。
「ウタは……ドラくんを探すよ。それで、見つけて、連れ戻すよ。……なんとしてでも」
「…………なぜ断言できる?」
「本当は分かってるくせに、素直じゃないなぁ。ドラくんもそう思ってるんでしょ?
――ぼくとドラくんは、ウタにとって、ただの使い魔の域を越えてるんだよ。仲間なんだよ」
彼は、聞こえないふりをした。
「……行ってくる」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました
上野佐栁
ファンタジー
前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる