308 / 387
闇夜に舞う者は
わかんない
しおりを挟む
「ねね、フローラって、どこ生まれなの?」
「わ、私は……マルティネスのサワナルっていうところで」
「マルティネス!? すっごいや。そんな遠くから来たの!? 俺らの住んでるパレルは東の端っこの方にあるけど、マルティネスは真反対だよな!」
「う、うん……」
「リード……たまには休む時間をくれてやれ。フローラは、そこまで話が得意な方じゃないんだ」
「えー、でも俺、もっと話したい」
「でもってなぁ……」
リードくんがそう、ほぼ一方的にフローラに話しかけるのを、ポロンくんは終始むすーっとした顔で見つめる。リードくんを睨み付けるようにじーっと。
「…………んだよ、おいらの方が、もっと前から……」
「ポロンくん……?」
「あっ、いや、なんでもないやい!」
ぷいっと顔を背けたポロンくんだったが、
「で、なんでフローラはこの人たちと一緒に旅をしてるの? 家族は?」
そんなリードくんの言葉を聞いて、はっとして振り向いた。……さすがに、その質問は止めようかと思った。フローラにとって『家族』は、いい思い出が一つもない、ただの地獄だったのだ。思い出したくない記憶の一つのはずだ。
「そ、それは…………えっと」
「あ、もしかして家出? 俺と一緒? マジかー! それスッゴク嬉しいなー。好きになった人が、自分と同じ行動をとってたーなんて!」
「いや、そうじゃなくて」
「あれ、違うの?」
「…………」
「……リードくん、その話はもうやめよう」
見ていられなくて僕が声をかけると、なんの悪気も無いような目でリードくんは告げる。
「なんで? 好きな人のこと知ろうとするのの、何がいけないんだよ」
「なんでって……」
「……いいかお主、人には話したくないことの一つや二つ」
「俺無いもん。隠し事してる方がしんどいからさ。フローラもしんどいんじゃないの?」
「いや! ……私は、隠してる訳じゃ」
不意にフローラが目を伏せる。と同時に、前髪を留めていた髪飾りがキラリと光った。
「ん? なにそれ!」
「え……」
「え、ねぇこれ見せて! すっごく綺麗!」
「あ、待って!」
フローラの制止も聞かずに、リードくんはフローラの髪飾りをその髪から外し、手に取る。……アリアさんが、フローラにあげた髪飾りだ。留められていた前髪がパラリと落ちて、その瞳を隠した。
「ねぇやめて。それは返して!」
「返すよ。ちょっと見てるだけ」
「お願いだからそれは持っていかないで! ねぇ、家族のことも話すから、それは」
「だから盗らないってば。心配性だなぁ」
そういう問題じゃない。僕がそう言おうと思った瞬間、
「――リヴィー」
「え、な、なに!?」
リードくんの体に、植物の蔦が巻き付く。それはその体をゆっくりと持ち上げ、キリキリと締め付ける。操っているのは、ポロンくんだ。
「ポロン……?!」
「さっきから聞いてたらよ……お前、フローラの気持ち全っ全考えてねーな!」
「いたっ……な、なんのこと……?」
「とりあえずそれ、返せよ。ただの髪留めじゃねーんだよ!」
「っう……」
思わず、といった感じでリードくんが髪止めを手放す。それをポロンくんは下でキャッチすると、リードくんを睨み付けた。
「相当幸せな環境で育ったんだろうな、お前みたいなやつ。人の心がわからない、人を考えて行動しない、お前みたいなやつはな!」
「ポロンくん、もう下ろしてあげて!」
「そうだ、こんなことしたって解決にはならない。分かってるだろ? リードだって、悪気があった訳じゃ」
「ウタ兄もアリア姉も、どうしてそんな冷静でいられるんだよ! おいらは我慢なんないやい! 人の心に土足で踏み込んで、そのまま踏み散らかして!」
ポロンくんはさらに強くリードくんの体を締め付ける。……さすがに、よくないな。
「アリアさん、あっちを」
「分かった」
「ドラくんはこっちね」
「あぁ」
僕はアイテムボックスから剣を取り出すと、リードくんを締め付けていた蔦を斬る。上空で支えを失ったリードくんの体はアリアさんが受け止め、また魔法を唱えそうになったポロンくんは、ドラくんが押さえた。
「ポロン……」
「…………フローラ、おいら分かんないよ。どうしてそこまでされて平気なのか、分かんないよ……。フローラの方が辛いはずなのにさ、どうしておいらの方がこんなに……」
「…………」
「なぁ、俺、何が悪かったんだよ。盗ったわけじゃないしさ? 酷いこと言ったわけでもないよ?」
アリアさんは、ここまで来ても変わらないリードくんの態度にうんざりしたようにため息をつき、半ば無理矢理、僕らから少し離れたところにつれて行った。
「……ポロン」
「…………フローラ、へんなことして、ごめん。……これ、傷、ついてない?」
ポロンくんが白い花の髪止めを差し出すと、フローラはそれを受け取り、少し手の中で見つめ、髪につけ直した。
「大丈夫、ありがとう。
でも……他の人を傷つけるようなこと、もうしちゃダメだよ?」
「うん……ウタ兄も、ドラくんも、あとスラちゃんも、ごめん」
「我は構わん」
「ぼくも許すよ。……ウタは?」
「僕はそもそも、怒ってないよ」
僕は、このときのポロンくんの行動を『すごいな』と思ってみていた。
「やり方は間違っていたけど、仲間を助けようとしたんだもんね」
そう言って、彼の頭を撫でた。
「わ、私は……マルティネスのサワナルっていうところで」
「マルティネス!? すっごいや。そんな遠くから来たの!? 俺らの住んでるパレルは東の端っこの方にあるけど、マルティネスは真反対だよな!」
「う、うん……」
「リード……たまには休む時間をくれてやれ。フローラは、そこまで話が得意な方じゃないんだ」
「えー、でも俺、もっと話したい」
「でもってなぁ……」
リードくんがそう、ほぼ一方的にフローラに話しかけるのを、ポロンくんは終始むすーっとした顔で見つめる。リードくんを睨み付けるようにじーっと。
「…………んだよ、おいらの方が、もっと前から……」
「ポロンくん……?」
「あっ、いや、なんでもないやい!」
ぷいっと顔を背けたポロンくんだったが、
「で、なんでフローラはこの人たちと一緒に旅をしてるの? 家族は?」
そんなリードくんの言葉を聞いて、はっとして振り向いた。……さすがに、その質問は止めようかと思った。フローラにとって『家族』は、いい思い出が一つもない、ただの地獄だったのだ。思い出したくない記憶の一つのはずだ。
「そ、それは…………えっと」
「あ、もしかして家出? 俺と一緒? マジかー! それスッゴク嬉しいなー。好きになった人が、自分と同じ行動をとってたーなんて!」
「いや、そうじゃなくて」
「あれ、違うの?」
「…………」
「……リードくん、その話はもうやめよう」
見ていられなくて僕が声をかけると、なんの悪気も無いような目でリードくんは告げる。
「なんで? 好きな人のこと知ろうとするのの、何がいけないんだよ」
「なんでって……」
「……いいかお主、人には話したくないことの一つや二つ」
「俺無いもん。隠し事してる方がしんどいからさ。フローラもしんどいんじゃないの?」
「いや! ……私は、隠してる訳じゃ」
不意にフローラが目を伏せる。と同時に、前髪を留めていた髪飾りがキラリと光った。
「ん? なにそれ!」
「え……」
「え、ねぇこれ見せて! すっごく綺麗!」
「あ、待って!」
フローラの制止も聞かずに、リードくんはフローラの髪飾りをその髪から外し、手に取る。……アリアさんが、フローラにあげた髪飾りだ。留められていた前髪がパラリと落ちて、その瞳を隠した。
「ねぇやめて。それは返して!」
「返すよ。ちょっと見てるだけ」
「お願いだからそれは持っていかないで! ねぇ、家族のことも話すから、それは」
「だから盗らないってば。心配性だなぁ」
そういう問題じゃない。僕がそう言おうと思った瞬間、
「――リヴィー」
「え、な、なに!?」
リードくんの体に、植物の蔦が巻き付く。それはその体をゆっくりと持ち上げ、キリキリと締め付ける。操っているのは、ポロンくんだ。
「ポロン……?!」
「さっきから聞いてたらよ……お前、フローラの気持ち全っ全考えてねーな!」
「いたっ……な、なんのこと……?」
「とりあえずそれ、返せよ。ただの髪留めじゃねーんだよ!」
「っう……」
思わず、といった感じでリードくんが髪止めを手放す。それをポロンくんは下でキャッチすると、リードくんを睨み付けた。
「相当幸せな環境で育ったんだろうな、お前みたいなやつ。人の心がわからない、人を考えて行動しない、お前みたいなやつはな!」
「ポロンくん、もう下ろしてあげて!」
「そうだ、こんなことしたって解決にはならない。分かってるだろ? リードだって、悪気があった訳じゃ」
「ウタ兄もアリア姉も、どうしてそんな冷静でいられるんだよ! おいらは我慢なんないやい! 人の心に土足で踏み込んで、そのまま踏み散らかして!」
ポロンくんはさらに強くリードくんの体を締め付ける。……さすがに、よくないな。
「アリアさん、あっちを」
「分かった」
「ドラくんはこっちね」
「あぁ」
僕はアイテムボックスから剣を取り出すと、リードくんを締め付けていた蔦を斬る。上空で支えを失ったリードくんの体はアリアさんが受け止め、また魔法を唱えそうになったポロンくんは、ドラくんが押さえた。
「ポロン……」
「…………フローラ、おいら分かんないよ。どうしてそこまでされて平気なのか、分かんないよ……。フローラの方が辛いはずなのにさ、どうしておいらの方がこんなに……」
「…………」
「なぁ、俺、何が悪かったんだよ。盗ったわけじゃないしさ? 酷いこと言ったわけでもないよ?」
アリアさんは、ここまで来ても変わらないリードくんの態度にうんざりしたようにため息をつき、半ば無理矢理、僕らから少し離れたところにつれて行った。
「……ポロン」
「…………フローラ、へんなことして、ごめん。……これ、傷、ついてない?」
ポロンくんが白い花の髪止めを差し出すと、フローラはそれを受け取り、少し手の中で見つめ、髪につけ直した。
「大丈夫、ありがとう。
でも……他の人を傷つけるようなこと、もうしちゃダメだよ?」
「うん……ウタ兄も、ドラくんも、あとスラちゃんも、ごめん」
「我は構わん」
「ぼくも許すよ。……ウタは?」
「僕はそもそも、怒ってないよ」
僕は、このときのポロンくんの行動を『すごいな』と思ってみていた。
「やり方は間違っていたけど、仲間を助けようとしたんだもんね」
そう言って、彼の頭を撫でた。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。


ギャルゲーの悪役子息に転生しましたが、主人公の邪魔をする気はないです。 それよりも領地に引きこもってのんびり魔道具開発を行いたいです。
みゅう
ファンタジー
ギャルゲーオタクな友達がはまってたゲームの極悪非道な悪役子息に転生した主人公 宮野涼。
転生した涼は主人公(ヒーロー)をいじめれるようなメンタルなどない。
焦った涼が見つけた趣味は魔道具開発?!
これは超マイペースな涼が最高級の暮らしを送るため魔道具開発にいそしむ話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる