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闇夜に舞う者は
考え事
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「それじゃ、みんな気を付けてね」
「おばさんも。……本当に、ありがとうございました」
僕がそう頭を下げると、とんでもないと言うようにおばさんは首を振る。そして、にっこりと微笑んだ。
「私もね、あなたたちが来てくれて嬉しかったの。もしまたクラーミルに来ることがあったらここへおいで。いつでも歓迎するから」
「うん! おばさんありがとー!」
「世話になったな」
そして、宿をあとにした僕らは、次はクラーミルのお城へ向かう。ロインとレイナさんにもここを出ることを伝えておかなくてはならない。
城へ訪ねると、二人はすぐに出てきてくれた。そして、僕らが揃っているのを見て、全て分かっているように笑う。
「これでしばらくお別れだね」
『寂しくなる』
「そうですね……でも、私たち、また来ますよ。ね、ウタさん?」
「そうだね。きっとまた来るよ。だからロイン、レイナさん、またね」
「うん、また。
山を足で越えるのは大変だろうから、そこまでは馬車を出すよ。向こうと連絡とろうとはしてみたんだけど、相変わらず連絡がつかなくてね」
「普段から連絡とれねーのか?」
「自由人……なんだよね、向こうの国王」
ちょっとだけ苦笑いを浮かべつつ、ロインはそういう。
「ま、悪い人じゃないから安心して。馬車はすぐに手配させるよ」
「ありがとう、助かるよ」
それから本当にすぐ、馬車が僕らのところにやってきた。僕らが乗り込むと、すぐに馬車は南に向かって走り出す。
そういえば、魔法が発達しているのだから、もっとこう、空飛ぶ電車ーみたいなもの、あってもいいと思うんだけどな。だって転生者だっているわけだし。
「……で?」
「え?」
「ウタさん、私たちに話すことあるって言ってましたよね?」
「あー……」
僕は馬車の前方にちらりと視線をやる。……意外と近いか。
「ドラくん、クラーミルとパレルの国境辺りって人通り多いのかな?」
「いや……あの辺りは魔物は少ないが道が険しいからな。ほとんどいないんじゃないか?」
「なら、馬車から降りてから話します。なるべく、僕らだけにしておきたいので」
アリアさんは僕と同じように前に目をやる。そこには、馬を操る御者が二人。二人の会話が聞こえるくらいには、近い場所にいる。
向こうのが聞こえると言うことはこちらからも聞こえると言うことだ。信用していない訳ではないが、知られると御者さんたちにも迷惑をかけるかもしれない。
「……そうだな。じゃ、私は少しゆっくりしてるかな」
……昨日の夜、あのあと、ドラくんと話し合ったのだ。そのことをみんなに話すべきかどうか。
『我は……正直、話したくはなかったのだ。ウタ殿にも』
『理由、聞いてもいい?』
『仕方がなかった。仕方がなかったとはいえ、我はたくさんの人を見殺しにした。殺した、加害者を味方していたのだ。
……お主らに、そういう目で、見られたくはなかった』
ドラくんは、そんならしくもない弱音をこぼしながら、視線を落とした。真っ黒い髪がその表情を書くし、どことなく、儚げに見えた。
『……大丈夫だよ』
僕はそんな、ドラくんの手をとる。黒い髪に対比するように白い手。白くて、透き通り、綺麗で。でも……大きくて強くて、頼れる手。…………ほんの少し震えていた手。
『みんなは、そんなこと思わないよ。だってみんなは、本当の、優しいドラくんを知っているから』
『……ウタ殿』
『ドラくんは、ニエルって人のことを黙っていたら、僕らに危険が迫るかもしれないって思って、話してくれたんでしょ? 自分がニエルのことをよく知っているからこそ、その注意を促そうって思ったんでしょ?』
ドラくんは、それには答えなかった。ただじっと下を見て、なにかを考え込んでいた。
『少なくとも僕は、今の話を聞いて、ドラくんに対する気持ちは一切変わっていないよ? ドラくんが、誰よりも優しくて、強くて、頼りになって……ちょっとのことで、僕らに振り回されちゃうような、そんな、優しいドラゴンだって、ずっと分かっていたから』
『…………』
『僕からだけじゃ、説得力が足りないんだ。僕だけじゃ……。信用されていないって思ってるんじゃないんだよ? ただ、証拠って言うか、確信がない。上っ面だけとはいえ、確信がない不確かなもので、みんなをもう、動かしたくないんだ』
……そうして、ドラくんがうなずき、今に至るわけである。馬車は順調に距離を重ね、クラーミルの南へ。少し入り組んだ森の入り口まで送ってくれた。
「ありがとうございました!」
「それでは、また」
僕の言葉ににこやかに返すと、御者さんたちは馬車ごと帰っていった。
「…………さて?」
「あぁ」
「森、いこっか」
「そこでドラくんに話してもらおうぜ。あと、ウタ兄にも」
「もちろんだよ」
その後、僕らは歩きながら、ドラくんの話を聞いていた。たまに、耳が痛くなるようなこともあったが、これも今後のためと、意を決して聞いた。ただ……話してくれた内容以外に、わかったことが一つ。
確かに、きつい内容も多かった。でも、その度に大丈夫かと確認をとってくる、口調は丸くゆっくりと話し、なるべく僕らが、具体的なイメージを持たないように伝える。
……このドラゴンは、やはり、優しかった。
「おばさんも。……本当に、ありがとうございました」
僕がそう頭を下げると、とんでもないと言うようにおばさんは首を振る。そして、にっこりと微笑んだ。
「私もね、あなたたちが来てくれて嬉しかったの。もしまたクラーミルに来ることがあったらここへおいで。いつでも歓迎するから」
「うん! おばさんありがとー!」
「世話になったな」
そして、宿をあとにした僕らは、次はクラーミルのお城へ向かう。ロインとレイナさんにもここを出ることを伝えておかなくてはならない。
城へ訪ねると、二人はすぐに出てきてくれた。そして、僕らが揃っているのを見て、全て分かっているように笑う。
「これでしばらくお別れだね」
『寂しくなる』
「そうですね……でも、私たち、また来ますよ。ね、ウタさん?」
「そうだね。きっとまた来るよ。だからロイン、レイナさん、またね」
「うん、また。
山を足で越えるのは大変だろうから、そこまでは馬車を出すよ。向こうと連絡とろうとはしてみたんだけど、相変わらず連絡がつかなくてね」
「普段から連絡とれねーのか?」
「自由人……なんだよね、向こうの国王」
ちょっとだけ苦笑いを浮かべつつ、ロインはそういう。
「ま、悪い人じゃないから安心して。馬車はすぐに手配させるよ」
「ありがとう、助かるよ」
それから本当にすぐ、馬車が僕らのところにやってきた。僕らが乗り込むと、すぐに馬車は南に向かって走り出す。
そういえば、魔法が発達しているのだから、もっとこう、空飛ぶ電車ーみたいなもの、あってもいいと思うんだけどな。だって転生者だっているわけだし。
「……で?」
「え?」
「ウタさん、私たちに話すことあるって言ってましたよね?」
「あー……」
僕は馬車の前方にちらりと視線をやる。……意外と近いか。
「ドラくん、クラーミルとパレルの国境辺りって人通り多いのかな?」
「いや……あの辺りは魔物は少ないが道が険しいからな。ほとんどいないんじゃないか?」
「なら、馬車から降りてから話します。なるべく、僕らだけにしておきたいので」
アリアさんは僕と同じように前に目をやる。そこには、馬を操る御者が二人。二人の会話が聞こえるくらいには、近い場所にいる。
向こうのが聞こえると言うことはこちらからも聞こえると言うことだ。信用していない訳ではないが、知られると御者さんたちにも迷惑をかけるかもしれない。
「……そうだな。じゃ、私は少しゆっくりしてるかな」
……昨日の夜、あのあと、ドラくんと話し合ったのだ。そのことをみんなに話すべきかどうか。
『我は……正直、話したくはなかったのだ。ウタ殿にも』
『理由、聞いてもいい?』
『仕方がなかった。仕方がなかったとはいえ、我はたくさんの人を見殺しにした。殺した、加害者を味方していたのだ。
……お主らに、そういう目で、見られたくはなかった』
ドラくんは、そんならしくもない弱音をこぼしながら、視線を落とした。真っ黒い髪がその表情を書くし、どことなく、儚げに見えた。
『……大丈夫だよ』
僕はそんな、ドラくんの手をとる。黒い髪に対比するように白い手。白くて、透き通り、綺麗で。でも……大きくて強くて、頼れる手。…………ほんの少し震えていた手。
『みんなは、そんなこと思わないよ。だってみんなは、本当の、優しいドラくんを知っているから』
『……ウタ殿』
『ドラくんは、ニエルって人のことを黙っていたら、僕らに危険が迫るかもしれないって思って、話してくれたんでしょ? 自分がニエルのことをよく知っているからこそ、その注意を促そうって思ったんでしょ?』
ドラくんは、それには答えなかった。ただじっと下を見て、なにかを考え込んでいた。
『少なくとも僕は、今の話を聞いて、ドラくんに対する気持ちは一切変わっていないよ? ドラくんが、誰よりも優しくて、強くて、頼りになって……ちょっとのことで、僕らに振り回されちゃうような、そんな、優しいドラゴンだって、ずっと分かっていたから』
『…………』
『僕からだけじゃ、説得力が足りないんだ。僕だけじゃ……。信用されていないって思ってるんじゃないんだよ? ただ、証拠って言うか、確信がない。上っ面だけとはいえ、確信がない不確かなもので、みんなをもう、動かしたくないんだ』
……そうして、ドラくんがうなずき、今に至るわけである。馬車は順調に距離を重ね、クラーミルの南へ。少し入り組んだ森の入り口まで送ってくれた。
「ありがとうございました!」
「それでは、また」
僕の言葉ににこやかに返すと、御者さんたちは馬車ごと帰っていった。
「…………さて?」
「あぁ」
「森、いこっか」
「そこでドラくんに話してもらおうぜ。あと、ウタ兄にも」
「もちろんだよ」
その後、僕らは歩きながら、ドラくんの話を聞いていた。たまに、耳が痛くなるようなこともあったが、これも今後のためと、意を決して聞いた。ただ……話してくれた内容以外に、わかったことが一つ。
確かに、きつい内容も多かった。でも、その度に大丈夫かと確認をとってくる、口調は丸くゆっくりと話し、なるべく僕らが、具体的なイメージを持たないように伝える。
……このドラゴンは、やはり、優しかった。
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