300 / 387
闇夜に舞う者は
パレル
しおりを挟む
クラーミルの東。大陸の東南端に位置する国、パレル。そこはどうやら、いわゆる『ダンジョン』とかいうものが有名らしく、個性の塊'sはこのダンジョンを全制覇した際に、冒険者ランクがSになったと言っていた。
「パレルは行ったことないなぁ」
「ありゃ、アリアさんがないならみんなないかなぁ?」
「おいらないよ」
「私もないです」
「僕もー!」
「いいところですよ、街の人も陽気で明るくて。なんか肩の力ぬけちゃうくらい」
『みんな、いい人。ちょっと変な人多いけど』
「まぁ、ちょっと血の気は多いよね」
そんな、パレルのことを話しながら僕らは何をしているのかというと、ごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃになったクラーミルのお城のお片付けだ。あれだけのことがあったせいで、このままでは、二人はここで生活できないようになってしまった。
だから僕らは手伝いに来たのだが……。
「……思ったよりも、早く終わりそうですね」
「まぁ、有志の人がたくさん来てくれたからね。ありがたいことに」
『うれしい。マルティネスとクラーミルの仲がいい。嬉しい』
「……だな」
あの日以来、完全に……とはいかないけれど、マルティネスに対するクラーミルの偏見はかなり消えた。マルティネスのクラーミルに対するものは……僕らが帰れてないから、まだだけど。でもきっと、あの国の人たちなら、ちゃんと理解してくれるはずだ。
「…………はぁ」
「ん?」
僕はふと、僕らから少し離れたところで作業するドラくんが気になった。手はてきぱきと動かしつつも、どこか心ここにあらずって感じた。
「……ドラくん?」
「ん、どうしたウタ殿?」
「なにか、やなことでもあった?」
「嫌なこと……? パッとは思いつかないが、どうしてだ?」
「いや……ため息ついてたし、なんか考え込んでるように見えたし」
するとドラくんはちょっとだけ目を伏せて、呟いた。……いままでに、見たことがない表情だった。
「そうか……そんな風に見えたか」
「……なにか、聞いちゃいけないことだったかな?」
「いや……」
「…………」
どこか思い詰めたような顔。暗い、暗い表情。その金色の瞳に、今は輝きは見れない。
「……言わなくても良いけど、抱え込まないでね。そうじゃなきゃ、僕が先に心読んじゃうかも」
「ウタ殿……すまないな。そのうち、話す。大したことじゃない」
「そっか」
僕は、それ以上は聞くのをやめた。……誰にだって、聞かれたくないことの一つや二つ、あるに違いない。僕だって、未だにあのことをみんなに伝えられていない。アリアさんはそれに気づきつつも、待っていてくれている。
……大切なことほど、大切な人には話したくない。そんなヘタレな思考が、まだずっと頭の中に潜んでいるのだ。前に比べればヘタレは治った。……そんな気もしなくはないが、ここが解消されなければ、僕はずっとヘタレのままだ。ヘタレを、卒業出来てない。そんな僕が、ドラくんを急かすことなんて出来ない。
「まぁ、あれだよ。とりあえずパレルに行ったら、ダンジョンを一つ攻略してみるといいよ。国によっての規定は微妙に違うけど、今のUnfinishedなら初級ダンジョンくらい突破出来るんじゃないかな?」
ロインはそう言いながら瓦礫をどかし……気にしないふりをしながら、ブリスのものであろう血痕を、魔法で拭き取った。
ずきりと頭が痛み、そのときのことが思い出される。……あのときの、ディランさんの別人のような顔も。
「そうだな。とはいっても、私もダンジョンって、実は詳しくは知らないんだ」
「え、そうなのか? アリア姉知ってると思ってた」
「マルティネスにはダンジョンが無いからなぁ」
「そういえば、ありませんね。……ロインさん、レイナさん、ご存じのことありませんか?」
「うーん、そうだなぁ……」
『私たちも、見たことはあっても入ったことはない。だから、知識として知ってることだけ教える』
そう手話をすると、レイナさんはその場の瓦礫をどかして、ちょこんと座って説明を始めた。
『ダンジョンは、階数式になってる。初級のは大体5~10、中級で10~20、上級で20~50。伝説級とか言われるのはほんの少ししかないけど、100以上の階層があるって言われてる。とはいっても、突破したのは個性の塊'sしかいないから、個性の塊'sからの情報がないと分からないけど』
「それから、ダンジョンはちょっと特殊な魔法がかけられてるみたいなんだ。なんでも、普通は魔物から攻撃を受けたりしてHPが0になると死ぬけれど、ダンジョン内で出てくる魔物に攻撃されて、HPが0になっても死なないで、その代わり、気絶した状態で外に放り出されるんだって」
「へぇ……」
死なないのか……。それは、安全、なのかなぁ?
「で、ダンジョン攻略ボーナスで、なにか良いことがあるらしいよ?」
「いいこと?」
「いいこと」
『ダンジョンやパーティーによっても違うらしいけど、とにかく良いことがあるんだって』
「前は金貨が降ってきた、とかあったよね」
ダンジョンってもしかして宝の山?! ……個性の塊'sが攻略したって言うそのダンジョン、なにがもらえたんだろう、気になりすぎる…………。
「ダンジョンすげーなー! 金貨降ってくるんだ!」
「ぼくも金貨ほしい!」
「ポロンもスラちゃんも、金貨降ってきたら何買うの?」
「みんなでご飯食べる!」
「おいらは使わない! ウタ兄たちといられればとりあえずそれでいいや」
……Unfinishedは、落ち着くな。
「パレルは行ったことないなぁ」
「ありゃ、アリアさんがないならみんなないかなぁ?」
「おいらないよ」
「私もないです」
「僕もー!」
「いいところですよ、街の人も陽気で明るくて。なんか肩の力ぬけちゃうくらい」
『みんな、いい人。ちょっと変な人多いけど』
「まぁ、ちょっと血の気は多いよね」
そんな、パレルのことを話しながら僕らは何をしているのかというと、ごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃになったクラーミルのお城のお片付けだ。あれだけのことがあったせいで、このままでは、二人はここで生活できないようになってしまった。
だから僕らは手伝いに来たのだが……。
「……思ったよりも、早く終わりそうですね」
「まぁ、有志の人がたくさん来てくれたからね。ありがたいことに」
『うれしい。マルティネスとクラーミルの仲がいい。嬉しい』
「……だな」
あの日以来、完全に……とはいかないけれど、マルティネスに対するクラーミルの偏見はかなり消えた。マルティネスのクラーミルに対するものは……僕らが帰れてないから、まだだけど。でもきっと、あの国の人たちなら、ちゃんと理解してくれるはずだ。
「…………はぁ」
「ん?」
僕はふと、僕らから少し離れたところで作業するドラくんが気になった。手はてきぱきと動かしつつも、どこか心ここにあらずって感じた。
「……ドラくん?」
「ん、どうしたウタ殿?」
「なにか、やなことでもあった?」
「嫌なこと……? パッとは思いつかないが、どうしてだ?」
「いや……ため息ついてたし、なんか考え込んでるように見えたし」
するとドラくんはちょっとだけ目を伏せて、呟いた。……いままでに、見たことがない表情だった。
「そうか……そんな風に見えたか」
「……なにか、聞いちゃいけないことだったかな?」
「いや……」
「…………」
どこか思い詰めたような顔。暗い、暗い表情。その金色の瞳に、今は輝きは見れない。
「……言わなくても良いけど、抱え込まないでね。そうじゃなきゃ、僕が先に心読んじゃうかも」
「ウタ殿……すまないな。そのうち、話す。大したことじゃない」
「そっか」
僕は、それ以上は聞くのをやめた。……誰にだって、聞かれたくないことの一つや二つ、あるに違いない。僕だって、未だにあのことをみんなに伝えられていない。アリアさんはそれに気づきつつも、待っていてくれている。
……大切なことほど、大切な人には話したくない。そんなヘタレな思考が、まだずっと頭の中に潜んでいるのだ。前に比べればヘタレは治った。……そんな気もしなくはないが、ここが解消されなければ、僕はずっとヘタレのままだ。ヘタレを、卒業出来てない。そんな僕が、ドラくんを急かすことなんて出来ない。
「まぁ、あれだよ。とりあえずパレルに行ったら、ダンジョンを一つ攻略してみるといいよ。国によっての規定は微妙に違うけど、今のUnfinishedなら初級ダンジョンくらい突破出来るんじゃないかな?」
ロインはそう言いながら瓦礫をどかし……気にしないふりをしながら、ブリスのものであろう血痕を、魔法で拭き取った。
ずきりと頭が痛み、そのときのことが思い出される。……あのときの、ディランさんの別人のような顔も。
「そうだな。とはいっても、私もダンジョンって、実は詳しくは知らないんだ」
「え、そうなのか? アリア姉知ってると思ってた」
「マルティネスにはダンジョンが無いからなぁ」
「そういえば、ありませんね。……ロインさん、レイナさん、ご存じのことありませんか?」
「うーん、そうだなぁ……」
『私たちも、見たことはあっても入ったことはない。だから、知識として知ってることだけ教える』
そう手話をすると、レイナさんはその場の瓦礫をどかして、ちょこんと座って説明を始めた。
『ダンジョンは、階数式になってる。初級のは大体5~10、中級で10~20、上級で20~50。伝説級とか言われるのはほんの少ししかないけど、100以上の階層があるって言われてる。とはいっても、突破したのは個性の塊'sしかいないから、個性の塊'sからの情報がないと分からないけど』
「それから、ダンジョンはちょっと特殊な魔法がかけられてるみたいなんだ。なんでも、普通は魔物から攻撃を受けたりしてHPが0になると死ぬけれど、ダンジョン内で出てくる魔物に攻撃されて、HPが0になっても死なないで、その代わり、気絶した状態で外に放り出されるんだって」
「へぇ……」
死なないのか……。それは、安全、なのかなぁ?
「で、ダンジョン攻略ボーナスで、なにか良いことがあるらしいよ?」
「いいこと?」
「いいこと」
『ダンジョンやパーティーによっても違うらしいけど、とにかく良いことがあるんだって』
「前は金貨が降ってきた、とかあったよね」
ダンジョンってもしかして宝の山?! ……個性の塊'sが攻略したって言うそのダンジョン、なにがもらえたんだろう、気になりすぎる…………。
「ダンジョンすげーなー! 金貨降ってくるんだ!」
「ぼくも金貨ほしい!」
「ポロンもスラちゃんも、金貨降ってきたら何買うの?」
「みんなでご飯食べる!」
「おいらは使わない! ウタ兄たちといられればとりあえずそれでいいや」
……Unfinishedは、落ち着くな。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる