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闇夜に舞う者は
パレル
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クラーミルの東。大陸の東南端に位置する国、パレル。そこはどうやら、いわゆる『ダンジョン』とかいうものが有名らしく、個性の塊'sはこのダンジョンを全制覇した際に、冒険者ランクがSになったと言っていた。
「パレルは行ったことないなぁ」
「ありゃ、アリアさんがないならみんなないかなぁ?」
「おいらないよ」
「私もないです」
「僕もー!」
「いいところですよ、街の人も陽気で明るくて。なんか肩の力ぬけちゃうくらい」
『みんな、いい人。ちょっと変な人多いけど』
「まぁ、ちょっと血の気は多いよね」
そんな、パレルのことを話しながら僕らは何をしているのかというと、ごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃになったクラーミルのお城のお片付けだ。あれだけのことがあったせいで、このままでは、二人はここで生活できないようになってしまった。
だから僕らは手伝いに来たのだが……。
「……思ったよりも、早く終わりそうですね」
「まぁ、有志の人がたくさん来てくれたからね。ありがたいことに」
『うれしい。マルティネスとクラーミルの仲がいい。嬉しい』
「……だな」
あの日以来、完全に……とはいかないけれど、マルティネスに対するクラーミルの偏見はかなり消えた。マルティネスのクラーミルに対するものは……僕らが帰れてないから、まだだけど。でもきっと、あの国の人たちなら、ちゃんと理解してくれるはずだ。
「…………はぁ」
「ん?」
僕はふと、僕らから少し離れたところで作業するドラくんが気になった。手はてきぱきと動かしつつも、どこか心ここにあらずって感じた。
「……ドラくん?」
「ん、どうしたウタ殿?」
「なにか、やなことでもあった?」
「嫌なこと……? パッとは思いつかないが、どうしてだ?」
「いや……ため息ついてたし、なんか考え込んでるように見えたし」
するとドラくんはちょっとだけ目を伏せて、呟いた。……いままでに、見たことがない表情だった。
「そうか……そんな風に見えたか」
「……なにか、聞いちゃいけないことだったかな?」
「いや……」
「…………」
どこか思い詰めたような顔。暗い、暗い表情。その金色の瞳に、今は輝きは見れない。
「……言わなくても良いけど、抱え込まないでね。そうじゃなきゃ、僕が先に心読んじゃうかも」
「ウタ殿……すまないな。そのうち、話す。大したことじゃない」
「そっか」
僕は、それ以上は聞くのをやめた。……誰にだって、聞かれたくないことの一つや二つ、あるに違いない。僕だって、未だにあのことをみんなに伝えられていない。アリアさんはそれに気づきつつも、待っていてくれている。
……大切なことほど、大切な人には話したくない。そんなヘタレな思考が、まだずっと頭の中に潜んでいるのだ。前に比べればヘタレは治った。……そんな気もしなくはないが、ここが解消されなければ、僕はずっとヘタレのままだ。ヘタレを、卒業出来てない。そんな僕が、ドラくんを急かすことなんて出来ない。
「まぁ、あれだよ。とりあえずパレルに行ったら、ダンジョンを一つ攻略してみるといいよ。国によっての規定は微妙に違うけど、今のUnfinishedなら初級ダンジョンくらい突破出来るんじゃないかな?」
ロインはそう言いながら瓦礫をどかし……気にしないふりをしながら、ブリスのものであろう血痕を、魔法で拭き取った。
ずきりと頭が痛み、そのときのことが思い出される。……あのときの、ディランさんの別人のような顔も。
「そうだな。とはいっても、私もダンジョンって、実は詳しくは知らないんだ」
「え、そうなのか? アリア姉知ってると思ってた」
「マルティネスにはダンジョンが無いからなぁ」
「そういえば、ありませんね。……ロインさん、レイナさん、ご存じのことありませんか?」
「うーん、そうだなぁ……」
『私たちも、見たことはあっても入ったことはない。だから、知識として知ってることだけ教える』
そう手話をすると、レイナさんはその場の瓦礫をどかして、ちょこんと座って説明を始めた。
『ダンジョンは、階数式になってる。初級のは大体5~10、中級で10~20、上級で20~50。伝説級とか言われるのはほんの少ししかないけど、100以上の階層があるって言われてる。とはいっても、突破したのは個性の塊'sしかいないから、個性の塊'sからの情報がないと分からないけど』
「それから、ダンジョンはちょっと特殊な魔法がかけられてるみたいなんだ。なんでも、普通は魔物から攻撃を受けたりしてHPが0になると死ぬけれど、ダンジョン内で出てくる魔物に攻撃されて、HPが0になっても死なないで、その代わり、気絶した状態で外に放り出されるんだって」
「へぇ……」
死なないのか……。それは、安全、なのかなぁ?
「で、ダンジョン攻略ボーナスで、なにか良いことがあるらしいよ?」
「いいこと?」
「いいこと」
『ダンジョンやパーティーによっても違うらしいけど、とにかく良いことがあるんだって』
「前は金貨が降ってきた、とかあったよね」
ダンジョンってもしかして宝の山?! ……個性の塊'sが攻略したって言うそのダンジョン、なにがもらえたんだろう、気になりすぎる…………。
「ダンジョンすげーなー! 金貨降ってくるんだ!」
「ぼくも金貨ほしい!」
「ポロンもスラちゃんも、金貨降ってきたら何買うの?」
「みんなでご飯食べる!」
「おいらは使わない! ウタ兄たちといられればとりあえずそれでいいや」
……Unfinishedは、落ち着くな。
「パレルは行ったことないなぁ」
「ありゃ、アリアさんがないならみんなないかなぁ?」
「おいらないよ」
「私もないです」
「僕もー!」
「いいところですよ、街の人も陽気で明るくて。なんか肩の力ぬけちゃうくらい」
『みんな、いい人。ちょっと変な人多いけど』
「まぁ、ちょっと血の気は多いよね」
そんな、パレルのことを話しながら僕らは何をしているのかというと、ごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃになったクラーミルのお城のお片付けだ。あれだけのことがあったせいで、このままでは、二人はここで生活できないようになってしまった。
だから僕らは手伝いに来たのだが……。
「……思ったよりも、早く終わりそうですね」
「まぁ、有志の人がたくさん来てくれたからね。ありがたいことに」
『うれしい。マルティネスとクラーミルの仲がいい。嬉しい』
「……だな」
あの日以来、完全に……とはいかないけれど、マルティネスに対するクラーミルの偏見はかなり消えた。マルティネスのクラーミルに対するものは……僕らが帰れてないから、まだだけど。でもきっと、あの国の人たちなら、ちゃんと理解してくれるはずだ。
「…………はぁ」
「ん?」
僕はふと、僕らから少し離れたところで作業するドラくんが気になった。手はてきぱきと動かしつつも、どこか心ここにあらずって感じた。
「……ドラくん?」
「ん、どうしたウタ殿?」
「なにか、やなことでもあった?」
「嫌なこと……? パッとは思いつかないが、どうしてだ?」
「いや……ため息ついてたし、なんか考え込んでるように見えたし」
するとドラくんはちょっとだけ目を伏せて、呟いた。……いままでに、見たことがない表情だった。
「そうか……そんな風に見えたか」
「……なにか、聞いちゃいけないことだったかな?」
「いや……」
「…………」
どこか思い詰めたような顔。暗い、暗い表情。その金色の瞳に、今は輝きは見れない。
「……言わなくても良いけど、抱え込まないでね。そうじゃなきゃ、僕が先に心読んじゃうかも」
「ウタ殿……すまないな。そのうち、話す。大したことじゃない」
「そっか」
僕は、それ以上は聞くのをやめた。……誰にだって、聞かれたくないことの一つや二つ、あるに違いない。僕だって、未だにあのことをみんなに伝えられていない。アリアさんはそれに気づきつつも、待っていてくれている。
……大切なことほど、大切な人には話したくない。そんなヘタレな思考が、まだずっと頭の中に潜んでいるのだ。前に比べればヘタレは治った。……そんな気もしなくはないが、ここが解消されなければ、僕はずっとヘタレのままだ。ヘタレを、卒業出来てない。そんな僕が、ドラくんを急かすことなんて出来ない。
「まぁ、あれだよ。とりあえずパレルに行ったら、ダンジョンを一つ攻略してみるといいよ。国によっての規定は微妙に違うけど、今のUnfinishedなら初級ダンジョンくらい突破出来るんじゃないかな?」
ロインはそう言いながら瓦礫をどかし……気にしないふりをしながら、ブリスのものであろう血痕を、魔法で拭き取った。
ずきりと頭が痛み、そのときのことが思い出される。……あのときの、ディランさんの別人のような顔も。
「そうだな。とはいっても、私もダンジョンって、実は詳しくは知らないんだ」
「え、そうなのか? アリア姉知ってると思ってた」
「マルティネスにはダンジョンが無いからなぁ」
「そういえば、ありませんね。……ロインさん、レイナさん、ご存じのことありませんか?」
「うーん、そうだなぁ……」
『私たちも、見たことはあっても入ったことはない。だから、知識として知ってることだけ教える』
そう手話をすると、レイナさんはその場の瓦礫をどかして、ちょこんと座って説明を始めた。
『ダンジョンは、階数式になってる。初級のは大体5~10、中級で10~20、上級で20~50。伝説級とか言われるのはほんの少ししかないけど、100以上の階層があるって言われてる。とはいっても、突破したのは個性の塊'sしかいないから、個性の塊'sからの情報がないと分からないけど』
「それから、ダンジョンはちょっと特殊な魔法がかけられてるみたいなんだ。なんでも、普通は魔物から攻撃を受けたりしてHPが0になると死ぬけれど、ダンジョン内で出てくる魔物に攻撃されて、HPが0になっても死なないで、その代わり、気絶した状態で外に放り出されるんだって」
「へぇ……」
死なないのか……。それは、安全、なのかなぁ?
「で、ダンジョン攻略ボーナスで、なにか良いことがあるらしいよ?」
「いいこと?」
「いいこと」
『ダンジョンやパーティーによっても違うらしいけど、とにかく良いことがあるんだって』
「前は金貨が降ってきた、とかあったよね」
ダンジョンってもしかして宝の山?! ……個性の塊'sが攻略したって言うそのダンジョン、なにがもらえたんだろう、気になりすぎる…………。
「ダンジョンすげーなー! 金貨降ってくるんだ!」
「ぼくも金貨ほしい!」
「ポロンもスラちゃんも、金貨降ってきたら何買うの?」
「みんなでご飯食べる!」
「おいらは使わない! ウタ兄たちといられればとりあえずそれでいいや」
……Unfinishedは、落ち着くな。
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