294 / 387
届かない想いに身を寄せて
止めないで
しおりを挟む
「さっき落ちた拍子で『勇気』は切れてる。無茶しないでね」
攻撃対象は、僕から、テラーさんへと変わる。黒い剣をガーディアで受け止めながら、テラーさんはディランさんを僕から遠ざける。
……個性の塊'sのガーディアは、強力だ。魔王の攻撃を易々と受け止めてしまうくらいには、強いのだ。しかし、テラーさんは一撃受けるごとにガーディアを張り直す。それは石橋を叩いているからじゃない。……実際、ガーディア一枚で一撃しか防げていないのだ。
そんな馬鹿な。あの様子……三時のおやつも使っているはず。それなのに、なんで。
ふと、ほんの少しだけガーディアのタイミングが遅れる。それを見逃さず、ディランさんは剣を振り上げる。
「――おさく!」
瞬間、テラーさんが叫ぶ。とたんにディランさんの背後にはおさくさんが現れ、その手にはいつもの刀が握られていた。
「侍の心得」
ディランさんを背後から7発の強力な斬擊が襲う。それらは全て命中し、それによって隙が出来たのをいいことに、テラーさんも右手を前につき出す。
「光宿りし絶望を此方に」
突き出された右手から閃光のような……いや、闇のような、そんな、訳の分からない魔法が放たれる。ディランさんの体を貫通したそれは、反対側にあった城の壁を『消す』
……僕は、ふと思った。テラーさんとおさくさん……二人はもしかして、本気でディランさんを殺そうとしているのではないか。
……生まれたのは強い抵抗心だった。僕はディランさんの方へ駆けていこうとした。しかし、何かに足、体を捕らえられ転び、前に進むことが出来ない。ハッとそちらに目をやれば、植物の蔦が、僕の体に巻き付いていた。プランツファクトリー。そんなスキルを、テラーさんは持っていたはずだ。
「……おさく」
「これはヤバイですねー、奥さん」
「そうですねー、ふざけないとやってられないですね」
そんな言葉を交わす二人。二人の視線の先には……。
「――メリーバッドエンド」
ほぼ無傷で立つ、ディランさんの姿があった。
彼から、黒い霧が発生する。それらは意思を持ち、一つ一つの形になって、おさくさんとテラーさんに襲いかかる。
「……うちらじゃきついね」
「だね……」
『それ』の攻撃が届くかどうかの時、おさくさんとテラーさんは足を強く踏み込み、そこから消えた。かと思えば、上から別の声が振ってくる。
「ドラゴン召喚!」
その声と同時に現れるのは三体のドラゴン。それは黒い影をどんどん消し去っていく。そして、それに被さるようにもう一つの声。
「ジャッジメントー!」
空に現れる巨大な魔方陣。そこから放たれる閃光。……アイリーンさんのジャッジメントと、ドロウさんが使役するドラゴンたちによって、黒い影は消滅した。
「ウタくーん! チョコあげとくね」
「アイリーンさん……この、状況って……」
「説明してる暇は、今はない……かな。ただ一つ私たちから言えるのは、」
ドロウさんはしっかりと僕を見て、言った。
「私たちのこと、止めないで」
ディランさんが再び剣を抜き、こちらへ勢いよく向かってくる。それを、アイリーンさんとドロウさんは防がない。受け止めもしないし避けもしない。その代わりに、
「……おっと、強い強い。いいねぇ、この手応え。さすが『自己防衛の勇気』ってとこかな」
ジュノンさんは、ディランさんと僕らの間に入り込み、静かに微笑みながらその剣を受け、押し返す。押し返した勢いのまま、飛び出し、剣を振りかぶる。振りかぶったそれは、瞬時に大鎌へと姿を変えた。
「――侵略す」
ディランさんの体が、中を舞う。その体が地につく前に、ジュノンさんは再び鎌を振る。
「運命だから? 不可能だって? ……そんなの誰が決めたって言うのさ。ほんと――どうでもいいし」
血飛沫が舞う。はじめて、ディランさんにダメージが入った。
……違う。目に見えていなかっただけで、あの体には個性の塊'sからの攻撃による傷が、確かに残っていた。それに気づいたのは、僕だけだ。なぜなら僕の頭には、
『苦しい……痛い……死にたく、ない』
僕の耳には確実に、痛みに、苦しみに、たった一人で耐えるディランさんの声が聞こえていた。
一瞬、また空間に違和感を感じた。と思ったら、ディランさんはジュノンさんの背後をとり、剣を振り上げていた。
「……カプリチオ」
それも全て分かっていると言うように、ジュノンさんはディランさんに魔法を放つ。……確実にダメージを与えていく。
「ダークネスランス」
もしも……このまま、言われるがままに眺めていたとして、個性の塊'sは……ディランさんをどうするだろうか。
僕の視界の端に、ドラくんたちを介抱しつつ、城の崩れた壁から僕らを心配そうに見下ろしているアリアさんの姿が見えた。
ディランさんの足がもつれ、倒れる。その隙を決して見逃さず、ジュノンさんは、巨大な魔方陣を形成する。僕はそれを知っている。あれは……魔王を、倒したときに放った……。
僕はとっさに、自分に巻き付いていた蔦を焼き払い、走り出した。ディランさんとジュノンさんの間。止める周りの声を全て掻き消して、ディランさんの前の立ちふさがった。
ジュノンさんは攻撃の手を止めようとしない。僕は……ディランさんを守るため、呪文を唱える。
「シエルト!」
攻撃対象は、僕から、テラーさんへと変わる。黒い剣をガーディアで受け止めながら、テラーさんはディランさんを僕から遠ざける。
……個性の塊'sのガーディアは、強力だ。魔王の攻撃を易々と受け止めてしまうくらいには、強いのだ。しかし、テラーさんは一撃受けるごとにガーディアを張り直す。それは石橋を叩いているからじゃない。……実際、ガーディア一枚で一撃しか防げていないのだ。
そんな馬鹿な。あの様子……三時のおやつも使っているはず。それなのに、なんで。
ふと、ほんの少しだけガーディアのタイミングが遅れる。それを見逃さず、ディランさんは剣を振り上げる。
「――おさく!」
瞬間、テラーさんが叫ぶ。とたんにディランさんの背後にはおさくさんが現れ、その手にはいつもの刀が握られていた。
「侍の心得」
ディランさんを背後から7発の強力な斬擊が襲う。それらは全て命中し、それによって隙が出来たのをいいことに、テラーさんも右手を前につき出す。
「光宿りし絶望を此方に」
突き出された右手から閃光のような……いや、闇のような、そんな、訳の分からない魔法が放たれる。ディランさんの体を貫通したそれは、反対側にあった城の壁を『消す』
……僕は、ふと思った。テラーさんとおさくさん……二人はもしかして、本気でディランさんを殺そうとしているのではないか。
……生まれたのは強い抵抗心だった。僕はディランさんの方へ駆けていこうとした。しかし、何かに足、体を捕らえられ転び、前に進むことが出来ない。ハッとそちらに目をやれば、植物の蔦が、僕の体に巻き付いていた。プランツファクトリー。そんなスキルを、テラーさんは持っていたはずだ。
「……おさく」
「これはヤバイですねー、奥さん」
「そうですねー、ふざけないとやってられないですね」
そんな言葉を交わす二人。二人の視線の先には……。
「――メリーバッドエンド」
ほぼ無傷で立つ、ディランさんの姿があった。
彼から、黒い霧が発生する。それらは意思を持ち、一つ一つの形になって、おさくさんとテラーさんに襲いかかる。
「……うちらじゃきついね」
「だね……」
『それ』の攻撃が届くかどうかの時、おさくさんとテラーさんは足を強く踏み込み、そこから消えた。かと思えば、上から別の声が振ってくる。
「ドラゴン召喚!」
その声と同時に現れるのは三体のドラゴン。それは黒い影をどんどん消し去っていく。そして、それに被さるようにもう一つの声。
「ジャッジメントー!」
空に現れる巨大な魔方陣。そこから放たれる閃光。……アイリーンさんのジャッジメントと、ドロウさんが使役するドラゴンたちによって、黒い影は消滅した。
「ウタくーん! チョコあげとくね」
「アイリーンさん……この、状況って……」
「説明してる暇は、今はない……かな。ただ一つ私たちから言えるのは、」
ドロウさんはしっかりと僕を見て、言った。
「私たちのこと、止めないで」
ディランさんが再び剣を抜き、こちらへ勢いよく向かってくる。それを、アイリーンさんとドロウさんは防がない。受け止めもしないし避けもしない。その代わりに、
「……おっと、強い強い。いいねぇ、この手応え。さすが『自己防衛の勇気』ってとこかな」
ジュノンさんは、ディランさんと僕らの間に入り込み、静かに微笑みながらその剣を受け、押し返す。押し返した勢いのまま、飛び出し、剣を振りかぶる。振りかぶったそれは、瞬時に大鎌へと姿を変えた。
「――侵略す」
ディランさんの体が、中を舞う。その体が地につく前に、ジュノンさんは再び鎌を振る。
「運命だから? 不可能だって? ……そんなの誰が決めたって言うのさ。ほんと――どうでもいいし」
血飛沫が舞う。はじめて、ディランさんにダメージが入った。
……違う。目に見えていなかっただけで、あの体には個性の塊'sからの攻撃による傷が、確かに残っていた。それに気づいたのは、僕だけだ。なぜなら僕の頭には、
『苦しい……痛い……死にたく、ない』
僕の耳には確実に、痛みに、苦しみに、たった一人で耐えるディランさんの声が聞こえていた。
一瞬、また空間に違和感を感じた。と思ったら、ディランさんはジュノンさんの背後をとり、剣を振り上げていた。
「……カプリチオ」
それも全て分かっていると言うように、ジュノンさんはディランさんに魔法を放つ。……確実にダメージを与えていく。
「ダークネスランス」
もしも……このまま、言われるがままに眺めていたとして、個性の塊'sは……ディランさんをどうするだろうか。
僕の視界の端に、ドラくんたちを介抱しつつ、城の崩れた壁から僕らを心配そうに見下ろしているアリアさんの姿が見えた。
ディランさんの足がもつれ、倒れる。その隙を決して見逃さず、ジュノンさんは、巨大な魔方陣を形成する。僕はそれを知っている。あれは……魔王を、倒したときに放った……。
僕はとっさに、自分に巻き付いていた蔦を焼き払い、走り出した。ディランさんとジュノンさんの間。止める周りの声を全て掻き消して、ディランさんの前の立ちふさがった。
ジュノンさんは攻撃の手を止めようとしない。僕は……ディランさんを守るため、呪文を唱える。
「シエルト!」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~
SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。
物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。
4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。
そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。
現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。
異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。
けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて……
お読みいただきありがとうございます。
のんびり不定期更新です。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
皇女殿下は婚約破棄をお望みです!
ひよこ1号
ファンタジー
突然の王子からの破棄!と見せかけて、全て皇女様の掌の上でございます。
怒涛の婚約破棄&ざまぁの前に始まる、皇女殿下の回想の物語。
家族に溺愛され、努力も怠らない皇女の、ほのぼの有、涙有りの冒険?譚
生真面目な侍女の公爵令嬢、異世界転生した双子の伯爵令嬢など、脇役も愛してもらえたら嬉しいです。
※長編が終わったら書き始める予定です(すみません)
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる