チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
上 下
288 / 387
届かない想いに身を寄せて

ここまで強く

しおりを挟む
 魔力と言うのは、極端に強くなると目に見えるものだ。光となって、その体に収まりきらなかったものが、溢れ出す。しかし、本人には見えないものなのだ。
 ……当たり前か。でも、そう考えると、光そのものにとっての光は、自分よりも強い光になる。……本当に明るい光にとって、光という、明るいという概念はあるのだろうか? もしかしたら、永遠に暗いだけなのではないか……?

 ウタは……前、私が『勇気』の力を発揮したとき、私が輝いて見えたとか言っていた気がする。どこでだったかは忘れた。人づたいだったかもしれない。でも、確かに言っていた記憶がある。
 そしてそのとき、私は「本当にバカだな」と思ったのだ。
 お前が私を見てそう思うよりずっと早く、私はお前を見てそう思っていたのに、と。
 月が太陽より明るく輝くことはないのだ、と。

 ……そんな曖昧な感情を抱えながら私は剣を握り、そこに力を込めた。魔力が集まり、輝く。光の剣となったそれでレイナを飲み込んだ闇を切り開く。
 思ったよりもあっさりと口を開けたそれの中は、ぐるぐると何かが渦巻き、私という新たな餌をとらえたように見えた。


「……残念だったな、私はお前の餌じゃない。喰われて、呑み込まれる気はない」


 後ろから止める声が聞こえる。……ロインか、ドラくんか。ウタではない。ウタは、私が闇に呑まれないであろうことを一番よくわかってる。止めるわけないのだ。
 私は、口を開けたレイナの闇に飛び込んだ。


 …………。
 ……暗い。とても暗い。そして、寒い。

 レイナはどこにいるんだ。こんなに暗い中だというのに、辺りは不自然に明るく、視界はハッキリとしていた。
 私は辺りを見渡して、自分の持つ剣を見て、ハッとした。

 私が、私の魔力が、この世界の光になっているのか。

 すぅ、と、息を飲み込む。じっと耳を澄ませた。――誰かのすすり泣く声が聞こえる。そちらへ、ゆっくりと歩みを進めた。


『うっ……ひぐっ、えぅ…………』

「…………」


 泣いていたのは、小さな小さな女の子だった。綺麗な白銀の髪はボサボサで、だけど、そんなこと気にもしていない様子で、ひたすら泣いていた。
 私は……その子の前にしゃがみこむと、そっと頭を撫でる。驚いたようにその子は顔をあげ、それでもなお、瞳からは涙をポロポロとこぼしていた。


「……大丈夫か?」

『…………ぁう……』


 困ったように眉を歪め、また泣き出した。それで、確信した。


「レイナ、なんだな……」


 小さく、幼いときの……記憶なのか、それとも、闇の中でそういう姿に変わってしまったのか。どちらにせよ、彼女はレイナだった。それは分かった。
 だけど――――。


『……あぅ……っ……ぐすっ…………』


 そこから先……何も聞こえず、話すことも出来ない、泣いてばかりいる彼女に対して、どうしたらいいのか……分からなかった。
 意思疏通が出来ないのだ。……当たり前のことかもしれない。それでも、目の前に泣いている友人がいるというのに、何もせずに見ているだけというのは……酷く、歯がゆいことだった。

 ……待て。
 どうして、何も出来ないと思っている?
 私は……何も出来ないのか? 本当にそうか?

 いや違う。思い出せ。私は、このレイナと同じ状況に陥ったことはなかったか? 耳こそ聞こえてはいたが、声を発せず、全てを拒絶して、一人泣き続けたことはなかったか?
 その時、羽汰は、私に手を伸ばすことを諦めたか? 諦めてないだろう。


「レイナ……」


 だけど、明確にどうしたらいいのかは分からなかったから、小さな小さな体を、ぎゅっと抱き締めた。それ以上に何ができるのか分からなかったから、ただ、抱き締めた。


「大丈夫……大丈夫だ。私はお前が大切なんだ。レイナが大切なんだ。だから、いなくならないでほしい。クラーミルの国民にとっても、お前は大切な存在なんだ。
 ……頼む、その想いを聞かせてくれ」


 抱き締める腕に力を込める。壊さないように、でも強く、抱き締めた。
 その声が聞きたい。呪詛でもいい。死んでしまえとか、邪魔だとか、お節介とか……そんな、汚い言葉でも良い。ただ、その本音が聞きたい。出来ることならそれを、受け止めたい。


『こわいよ』

「――――」


 息を飲んだ。聞こえた。声が……レイナの声が。驚いて腕の中の小さなレイナを見るが、相変わらず泣いているだけだった。


『こわいよ……何も聞こえないの。聞こえるって、なに……? 自分の声も聞こえないの。
 みんなが指差すから……。私は変なんだって、おかしい子だって言われるから……悲しいの』


 鳴き声とは別に、聞こえてくる声。震えて、今にも消えてしまいそうなか細い声。

 そうかこれが……羽汰が聞いている声なんだな。私の声も、こうやって聞こえていたのか。なるほどな……。


(羽汰、お前は……ここまで。ここまで強く、私の声を聞こうとしていてくれたんだな。だから…………)

「レイナ……お前は、変なんかじゃない。すごく強いんだ。耳が聞こえなくても、生きることを諦めなかったんだ。どんなに陰口を叩かれても、後ろ指を指されても、生きることを望んだんだ。女王として、国の頂点に立ったんだ」


 いつのまにか、腕の中のレイナは、見慣れた姿に変わっていた。それでも泣き続けながら、こんな言葉を呟いた。呟いたのか、頭に響いただけなのかは実際には分からない。でも、聞こえた。


『私なんか、生まれなきゃよかった』


 その言葉を聞いたとたん、私の中に別の感情が、新たに生まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...