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届かない想いに身を寄せて

こっちへ

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「ウターっ!」

「うわっ?!」


 僕らが下に降りると、スラちゃんが駆け寄ってきて、その勢いのまま抱きついた。


「えへへー、会いたかったー!」

「……うん、元気そうでよかったよ。もう大丈夫?」

「うん! 全然へいき!」


 にこっと笑ったその顔にホッとしていると、後ろでテラーさんが咳払いした。見れば、自分の手首をちょいちょいと指差しながら苦く笑っている。


「時間、無いんだけど? これだけの魔物を結界内に入れちゃったわけだし、もう、すぐに騒ぎになるよ。そしたらさっさと逃げないと」

「あ、そっか」


 言っている間にも、街の方からはたくさんの人が集まってくる。そして、僕らを視界に留めると、分かりやすい敵意を向けてきた。


「うっわぁ……」

「というかテラー、あれ……あの人数から逃げるって、かなりじゃないか?」

「昨日50人くらいを撒いておいて何言ってるのさ」

「そんなにいたんですか!?」

「いたいたー。……ま、今日のは10倍くらいはいるけどね」

「ヤバイじゃないか!」


 ふと、テラーさんが微笑んだ。……その微笑みを、僕は、見たことがあった。懐かしさの欠片に、確かな恐怖を覚えるその笑顔……。メヌマニエを倒したとき、あの男たちを追い込んだ、その時の表情に酷似していた。


「……なんのために私がいると思ってるの? あれくらい、その気になれば一瞬だよ?」

「殺すなよ!?」

「殺さないよー! ……多分きっともしかして」

「不確か!」

「大丈夫大丈夫。……逃げるよ、こっちへ」


 テラーさんが地面を蹴る。それを合図にしたように、ワイバーンたちが急降下し、一匹につき一人、僕らを背中に乗せて舞い上がった。


「うっわ?!」

「な、な……すごいな!」

「もー、ウタ! しっかりバランスとってよ!」


 一方でテラーさんは『飛行』でも使っているのか、一人空中に立っていた。


「ほら早く! こっちこっちー!」

「ま、待ってくださいよ!」

「よし、行くぞウタ!」


 僕らが遺跡の上を通り抜ける。それを確認したテラーさんは、ほんの少しだけ視線を後ろに向けた。


「……たまには、本気を出しますかね」


 そして、高く右手をあげ、静かに詠唱する。


「……天雷」


 瞬間、目の前が真っ白になった。と思ったら、耳を切り裂くような轟音。ワイバーンたちも驚いて声をあげた。


「な、なにが……っ?!」

「……嘘、だろ……? マジか……」


 それ以上の声を失った。背後を見れば嫌でも分かる、巨大なクレーター。
 ……そう、クレーターだ。地面が大きくえぐれている。ゆうに直径10mは越えるであろう穴が、クレーターが、一瞬にして完成した。

 ……かと思えば、怪我人はいないようで。みんな、地面に突然現れた巨大な凹みに足をとられ、スピードを落としながらも、僕らをしっかりと視界に捉えて追ってくる。
 ワイバーンも落ち着きを取り戻し、飛び始める。僕は恐る恐るといった感じでテラーさんに目をやった。

 一切笑っていない瞳。それを閉じ、もう一度開くと、いつものどこか抜けたような表情でテラーさんが笑う。


「いやー、楽しいね!」

「楽しいねーでやっていいことといけないことがあると思うんです!」

「だってほら、怪我してないし? ちゃんとシエルトも張ったしー」

「いやいやいや、そういう問題じゃない。よくシエルトで耐えられたな!?」

「自分の魔法を自分で受けるんなら相殺でしょ」

「クラーミルの地形、変わってるけど……いいの?」

「大丈夫大丈夫ー、水がたまって池にでもなるでしょ」

「全然大丈夫じゃない!」

「池が出来るならぼくはそれでも良いかなー」

「スラちゃーん、よくないぞー」


 ほとぼりが覚めたら元に戻すから、と、これまたとんでもないことを呟きながらテラーさんは、街の反対側へと僕らを誘導する。


「ほーらこっちー」

「う……というか、あの魔法……あんな破壊力……ジャッジメント級じゃないですか」

「天雷? あれね、熟練度7以上の光魔法と熟練度8以上の雷魔法の合わせ技ね。ジャッジメントのが強いぞー。だって、ほら、ただただクレーター作っただけじゃん?」

「だけって」

「塊'sならみんな使えるし。対象は一人だからさ。今回は葉っぱ見つけたからそれを対象にしたんだけど」


 ……葉っぱ一枚が、こんなことになるのか…………。やっぱり、個性の塊'sは恐ろしい。と同時に、心強い。

 僕は……ジュノンさんに教えてもらった魔法を、ぼんやりと思い出していた。
 あの魔法……個性の塊'sがいれば、使うことはないだろう。アイリーンさんのチョコレート、テラーさんの回復薬。ヒーラーじゃないにしても、おさくさん、ドロウさん、ジュノンさんの回復魔法だって強力だ。首が繋がっていれば、助かるだろう。実際、魔王戦の時も、遺跡に閉じ込められたときも、助けてくれた。

 ……それでも、僕に魔法を教えた。いつか使うときが来るから、と。
 例えばそれは、個性の塊'sが敵になったとき。個性の塊'sを上回る敵が現れたとき。

 ……あとは、


「とりあえず、森の上飛んでいくから、ちゃんとついてきてねー」

「あぁ。……ウタ?」

「…………」

「ウタ」

「えっあ……なんですか?」

「こんなところでぼんやりするな、死ぬぞ?」

「すみません」


 …………。
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