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届かない想いに身を寄せて

それくらいの

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 しばらく雲の上をふわふわと移動していると、個性の塊'sに大破された魔王城が見えてきた。屋根は外れてるし、壁だってほとんどボロボロだ。……なれたかと思ったけど、相変わらず個性の塊'sの力は恐ろしい。まぁ、おかげでたくさん助けられてるわけなんだけど。


「……で? どうやって降りるつもりなんだ?」

「ちょっと待ってくださいねー……(C3H6)n、ビニール袋! なるべく丈夫なのがいい!」

「……は?」


 僕の手に、大きなビニール袋が握られる。パラシュートに出来そうなほど大きなものだ。その中に、空気がたまる。こんなところで化学が役に立つとは。


「えーっと、アリアさん、このビニールの端っこ持っててくださいね」

「わ、分かったが、まさかお前」

「化学で出してるんで、大丈夫と思います……多分」

「きっと?」

「……も、もしかして」

「不確かというかなんというか、お前が一番ダメそうじゃないか! 顔真っ青だぞ?」

「い、いや……これ、つまりはスカイダイビングと同じことをやるってことですから……」

「訳分かんないぞ、というか、そんなに嫌なら提案するなよ……」

「が……んばり、ます」

「…………」

「よ、よーし、深呼吸して・」

「……ウタ、行くぞ!」


 アリアさんが片手にビニールを掴んだまま、もう片手で僕の手を掴む。……え、ちょ、待っ……!


「ま、待ってください! まだ、心の準備が」

「はい行くぞ! せーのっ!」

「まぁぁぁぁってぇぇぇーーー!」


 ……そこから先のことは、あまり覚えていない。気がついたら地面に無事に着地していた。し、心臓が痛い……ひぇ……。


「な、なななななんで急に……」

「……ぷっ、あっははは!」

「なんで笑うんですかぁ?!」

「いや……っはは! ビビってるお前、やっぱ面白いなーって思ってさ」

「遊ばないでくれます!?」

「……だってさ、」


 ふっと、一つ息を吐いて、アリアさんは僕を見る。


「……お前、あんまり弱いところ見せてくれなくなっちゃったからさ」

「……え?」

「前は少しのことでピーピーいってたのに、最近は……なんというか、強くなっちゃったからさ。つまんないというか、寂しいというか……あるんだよな」


 そういうアリアさんの横顔を眺めながら、僕はぼんやりと、初めてこの人に会ったときのことを思い出していた。
 ものすごい勢いで、なんの情報もなく転生させられて、おまけに家を燃やされて、逃げた先にはキマイラがいて、アリアさんが助けてくれて……。改めて考えてみても、都合のよすぎる出会いだなぁ、と。


「……ウタ」

「なんですか?」

「今……この際だから、一度聞いておきたいことがある。答えてくれなくても構わない」

「聞きたいこと……?」


 なんだろう。このタイミングで、この場所で、アリアさんが僕に聞くこと……それはきっと、他の人に聞かれたくないこと……もしくは、僕だけに言っておきたいこと。


「私はお前を信頼している。……お前はどうだ?」

「えっ。……僕も、信頼してますよ」


 どうしてそんなことを……当たり前じゃないか。アリアさんのことを疑うなんて、そんな馬鹿なことしない。


「ウタ……なにか隠してないか?」

「……隠す?」

「私たち相手だけじゃない。個性の塊's、ハンレルの先帝、レイナ、ロイン、そう、こっちに来てから出会ったすべての人に……隠していることは、ないか?」

「…………」


 答えられなかった。あまりにも唐突で、見事に図星だったから。
 まさかアリアさんに、こんな面と向かって言われるなんて思ってなかった。だって、最初から一緒にいるから。最初から一緒にいたら、逆に気づかなそうだと思っていたのだ。……その予想は、見事に外れたわけだけど。


「…………」

「……隠してること、あるっぽいな。話すつもりはなさそうだな……一応聞いておく、何を隠しているんだ?」

「……内緒、です」

「ん、知ってる。
 ……そんな暗い顔するなよ。な? 何も今すぐ問いただそうって訳じゃないんだ。ただ、それを言わないことで、お前が苦しむなら、今言ってほしいんだ」

「……僕が苦しむなら、ですか?」

「そうだ。私は……どうかな。相当なことがなければ、お前を嫌いになることはないさ。
 さすがに、向こうの世界では凶悪犯で、何十人も人を殺してて、のほほんと生きていた、なんて言わない限りはな」

「それは……ないですけど……」


 ……辛い。確かに、辛いのだ。
 言わないで、一人で抱えているのは、思っていたのの何倍も、何十倍も辛かった。たまに、皮膚をかきむしって、叫びたくなった。チラチラと過去が頭の中をうろついて、ふとした瞬間に背後から顔を覗き込んでくる。

 ……怖いのだ。とても。
 怖くて怖くて……でも、言うのはもっと怖くて。


「……言え、ないです」

「…………」

「僕には……『それだけの勇気』がありません」


 すると、アリアさんは小さく息を吐いて、少し笑った……気がした。


「……お前には『それくらいの勇気』、あると思うんだけどな」


 ほんの少し言い換えられただけで、なんだか心が軽くなった気がした。
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