264 / 387
届かない想いに身を寄せて
目覚めたのは
しおりを挟む
……目が、覚める。
一番最初に感じたのは、痛み。脳みそを締め付けられるような、キリキリとした、鋭くも鈍い痛み。
痛みに顔を歪めながらも、僕は、ほっとしていた。
痛みを感じる……生きている、と。
「っ……た…………」
目の前にあるのは、木製の天井。布団の上に寝かされているようで、ふわふわの毛布が心地いい。
まだ朦朧としたまま、そっと首を横に向けてみる。……隣には、同じように寝かされた仲間たちがいる。みんな意識こそ無いものの、その息は穏やかで、眠っているだけのことが分かる。
ほっとして息をつき、ずきずきと痛む頭を抱えながらなんとか起き上がり、辺りを見渡す。……どこかで、見たことあるような、ないような部屋……。前に来たことあったか?
と、僕か思考を巡らせていると、部屋の扉が静かに開いた。そして、そこから、僕らを助けてくれた張本人が顔を覗かせる。
「…………ウタくん」
本当に安心したようにそう呟いたテラーさんは、一つため息をつき、柔らかく微笑んだ。
「……おはよう」
「テラー……さん……」
「…………」
それからテラーさんは、無言で、しかし微笑みながら僕に近づき、僕の腕を自分の肩に回した。
「向こうにアイリーンいるから。ほら、せーの、」
「わっ……と……。ありがとうございます……」
「今更」
そしてそのまま、テラーさんが出てきた扉の方へ歩いていく。その扉の向こうには、思わず泣き出したくなるほど頼もしい女性たちがいた。
「ウタくん! ……よかった。アイリーンの回復魔法でこれだけ寝てるってかなりだったからね」
「ほんとにねー! あんまり心配かけちゃダメだっての」
「チョコいるー?」
「今回は、あげた方がいいかもね」
個性の、塊's……。
優しく微笑むその人たちの中心に、腕を組ながら座っている女性がいた。あれほど強く警告してくれたのに、僕らが従わなかった相手だ。
「ジュノンさん……」
ジュノンさんはなにも言わず、静かに座っていたが、やがて一つため息をつき椅子から立ち上がると、テラーさんに言った。
「……ここ、座らせてあげて。とりあえずおじやでも作ってくるよ」
「あの」
「あとできっちり、話聞いてもらうからね」
言葉のわりには柔らかい口調と態度。ジュノンさんは部屋から出て、台所があるであろう場所に歩いていく。
「……ジュノンさん」
「ま、ジュノンもあぁ言ってるし、とりあえず座りなよ」
「はいチョコレート!」
「……ありがとうございます」
なんだか……意外だった部分もある。ジュノンさんは、『知らないから』とはっきり言っていた。あのジュノンさんのことだから、そう言ったら絶対にそうしようとすると思っていたのに……。
「……言っとくけどね、」
テラーさんがどこかあきれたようにジュノンさんが出ていった方を見ながら呟く。
「……ジュノンほど、身内に弱くて、面倒見がいい人、そうそういないと思うよ?」
「なーんだかんだでね、完全に放り出すことが出来ないから、テラーに魔法使わせた訳じゃん?」
「そうだ……テラーさん、本当にありがとうございました。あの、あの魔法って一体……」
「ま、ジュノンが帰ってくるまで待とうよ」
ドロウさんがお茶を一口口に含んで、小さく呟いた。
「……状況は、かなり悪い方に変わってるんだから」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「はい、とりあえずこれ食べてね」
「あ、はい……」
ジュノンさんが持ってきてくれたおじや。ホカホカで湯気をたててて、お粥みたいなんだけど、出汁の匂いがして、大根だとか、ほうれん草だとか、お肉だとかがいっぱい入ってて、見るからに栄養がありそうだ。
れんげに少しすくい、ふぅふぅと息をかけて少し冷まし、口に含む。
「……あ、美味しい…………」
悪い言い方になるかもしれないが、普段のジュノンさんが纏う気配からは全く想像ができないほど、優しい味がした。濃くなく、薄くもなく、どこかホッとしてしまう味。思わず二口、三口と口をつけてしまう。
「うんうん、美味しそうに食べるねー」
「あの……本当に美味しいです」
「それはよかった」
じゃあ……と、ジュノンさんは僕のとなりに椅子を出してきて座り、今度こそといった感じで話を始める。
「……全くもう、予想していたなかで、いっちばん最悪のルートに進むって、なかなかのやり手だよね、君らも」
「……申し訳ないです」
「ま、いいけど。
とにかく今は最悪の状況。それが一体どういう状況下ってことを、ひたすら簡潔に伝えると……」
ジュノンさんは僕を真っ直ぐに見た。漆黒の瞳が、僕をゆっくりと捉え、その状況を語る。
「……もしこれ以上選択を間違えれば、マルティネスとクラーミルの戦争は避けられない」
「……え」
「どういうことか?
――Unfinishedは、レイナ・クラーミルとロイン・クラーミルを殺害した犯人として、クラーミル全体に指名手配されている。捕まったら、確実に死刑」
……なるほど、これは最悪だ。
一番最初に感じたのは、痛み。脳みそを締め付けられるような、キリキリとした、鋭くも鈍い痛み。
痛みに顔を歪めながらも、僕は、ほっとしていた。
痛みを感じる……生きている、と。
「っ……た…………」
目の前にあるのは、木製の天井。布団の上に寝かされているようで、ふわふわの毛布が心地いい。
まだ朦朧としたまま、そっと首を横に向けてみる。……隣には、同じように寝かされた仲間たちがいる。みんな意識こそ無いものの、その息は穏やかで、眠っているだけのことが分かる。
ほっとして息をつき、ずきずきと痛む頭を抱えながらなんとか起き上がり、辺りを見渡す。……どこかで、見たことあるような、ないような部屋……。前に来たことあったか?
と、僕か思考を巡らせていると、部屋の扉が静かに開いた。そして、そこから、僕らを助けてくれた張本人が顔を覗かせる。
「…………ウタくん」
本当に安心したようにそう呟いたテラーさんは、一つため息をつき、柔らかく微笑んだ。
「……おはよう」
「テラー……さん……」
「…………」
それからテラーさんは、無言で、しかし微笑みながら僕に近づき、僕の腕を自分の肩に回した。
「向こうにアイリーンいるから。ほら、せーの、」
「わっ……と……。ありがとうございます……」
「今更」
そしてそのまま、テラーさんが出てきた扉の方へ歩いていく。その扉の向こうには、思わず泣き出したくなるほど頼もしい女性たちがいた。
「ウタくん! ……よかった。アイリーンの回復魔法でこれだけ寝てるってかなりだったからね」
「ほんとにねー! あんまり心配かけちゃダメだっての」
「チョコいるー?」
「今回は、あげた方がいいかもね」
個性の、塊's……。
優しく微笑むその人たちの中心に、腕を組ながら座っている女性がいた。あれほど強く警告してくれたのに、僕らが従わなかった相手だ。
「ジュノンさん……」
ジュノンさんはなにも言わず、静かに座っていたが、やがて一つため息をつき椅子から立ち上がると、テラーさんに言った。
「……ここ、座らせてあげて。とりあえずおじやでも作ってくるよ」
「あの」
「あとできっちり、話聞いてもらうからね」
言葉のわりには柔らかい口調と態度。ジュノンさんは部屋から出て、台所があるであろう場所に歩いていく。
「……ジュノンさん」
「ま、ジュノンもあぁ言ってるし、とりあえず座りなよ」
「はいチョコレート!」
「……ありがとうございます」
なんだか……意外だった部分もある。ジュノンさんは、『知らないから』とはっきり言っていた。あのジュノンさんのことだから、そう言ったら絶対にそうしようとすると思っていたのに……。
「……言っとくけどね、」
テラーさんがどこかあきれたようにジュノンさんが出ていった方を見ながら呟く。
「……ジュノンほど、身内に弱くて、面倒見がいい人、そうそういないと思うよ?」
「なーんだかんだでね、完全に放り出すことが出来ないから、テラーに魔法使わせた訳じゃん?」
「そうだ……テラーさん、本当にありがとうございました。あの、あの魔法って一体……」
「ま、ジュノンが帰ってくるまで待とうよ」
ドロウさんがお茶を一口口に含んで、小さく呟いた。
「……状況は、かなり悪い方に変わってるんだから」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「はい、とりあえずこれ食べてね」
「あ、はい……」
ジュノンさんが持ってきてくれたおじや。ホカホカで湯気をたててて、お粥みたいなんだけど、出汁の匂いがして、大根だとか、ほうれん草だとか、お肉だとかがいっぱい入ってて、見るからに栄養がありそうだ。
れんげに少しすくい、ふぅふぅと息をかけて少し冷まし、口に含む。
「……あ、美味しい…………」
悪い言い方になるかもしれないが、普段のジュノンさんが纏う気配からは全く想像ができないほど、優しい味がした。濃くなく、薄くもなく、どこかホッとしてしまう味。思わず二口、三口と口をつけてしまう。
「うんうん、美味しそうに食べるねー」
「あの……本当に美味しいです」
「それはよかった」
じゃあ……と、ジュノンさんは僕のとなりに椅子を出してきて座り、今度こそといった感じで話を始める。
「……全くもう、予想していたなかで、いっちばん最悪のルートに進むって、なかなかのやり手だよね、君らも」
「……申し訳ないです」
「ま、いいけど。
とにかく今は最悪の状況。それが一体どういう状況下ってことを、ひたすら簡潔に伝えると……」
ジュノンさんは僕を真っ直ぐに見た。漆黒の瞳が、僕をゆっくりと捉え、その状況を語る。
「……もしこれ以上選択を間違えれば、マルティネスとクラーミルの戦争は避けられない」
「……え」
「どういうことか?
――Unfinishedは、レイナ・クラーミルとロイン・クラーミルを殺害した犯人として、クラーミル全体に指名手配されている。捕まったら、確実に死刑」
……なるほど、これは最悪だ。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。



この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる