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信じるべきは君か悪魔か

ピンチ

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 僕が振り下ろした剣を、悪魔は真っ黒い剣で受け止める。
 ……強い。感覚でわかる。お互いにせめぎあう中、僕はダメもとで鑑定する。



名前 ブリス

種族 悪魔

年齢 322

職業 ――

レベル 571

HP 34500

MP 20600

スキル アイテムボックス・偽装・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度10)・炎魔法(熟練度9)・土魔法(熟練度7)・闇魔法(熟練度10)

ユニークスキル 空虚・漆黒

称号 炎と漆黒の悪魔・愉快犯



 鑑定できた……ということは、今僕は、勇気を……。
 感情に流され過ぎるな。でも、『勇気』は発動させたままにしろ。難しくはないはず。だって、今まで僕はそれが出来ていたのだから。……なんで難しくなっている?

 戦いに慣れた?

 首を振る、目の前に集中しよう。


「へぇー……聖剣か。まぁ確かに『悪』魔である俺を殺すには丁度いい武器だってことだな。
 それを普通の人間が、そうやすやすと手に入れられるとは思えないが……どこかのお節介にもらったのか?」

「……答える義理は無いです」

「はっ……ま、いいけどな。お前らはここで俺が殺すから」

「何が目的なんですか……? 僕らを、レイナさんとロインを騙していたのは!」

「なーに、簡単なことさ」


 悪魔は僕の剣を押し返し、黒炎の槍を飛ばしてくる。僕はそれを避け、光の槍を打ち返す。
 ……僕はいいけれど、他のみんなを巻き込むわけにはいかない。ちらりと後ろを見ると、ポロンくんとフローラは言った通りゴーレムを倒していた。アリアさんはドラくんの治療をして、ロインをレイナさんが支えていた。


「俺がわざわざこんなところに潜り込んであいつらを陥れたのは、マルティネスとクラーミルが、再び仲良くなっちゃ困るからだ」

「どうしてですか……なんで!」

「理由は単純さ。何十年か前の戦争……あれを起こしたのは、俺だからさ」


 ……エヴァンさんが、必要なかったと言っていたと言う、マルティネスとクラーミルの戦争。まさに地獄絵図。誰もが正気を失い、お互いを殺すことしか考えていなかった、その戦争。
 ブリスさんは……悪魔は、それを起こしたのは自分だと言った。確かに、悪魔が関わっているのはドラくんも予測していた。でも……本当に?


「……まぁ、いいさ。お前がどう感じたところで、俺には一切合切関係ないことだ」

「ウタ兄! こっちは大丈夫だぞ!」


 ゴーレムが崩れる音がする。二人がうまくやってくれたようだ。それに安心した瞬間、黒い剣が僕に迫る。間一髪でそれを避けるが、髪の先を切られる。黒い髪が、舞う。


「っ……とにかく! 僕はみんなを無事にここから出さないと」

「それは出来ねーよ」

「出来ないわけ――」


 文字通りに、足元が崩れる。足場にしていた土魔法で作った階段が、サラサラと静かに音を立てて崩れ落ちる。僕はそれに引きずられるようにして足から、頭へ。真っ逆さまに地面へと落ちる。
 一瞬、意識が飛びかけた。恐怖からじゃない。とてつもない勢いで力が抜け落ちて、一瞬、意識を保っているのさえ難しいくらいに頭が真っ白になってしまった。

 体に強い衝撃がくる……かと思ったが、感じたのは、思っていたよりもずっと優しいあたたかさだった。


「ウ……タ……!」

「……レイナ、さん……?! ごめっ……さい…………」


 レイナさんは全身をつかって僕が地面に頭から落ちるのを防いだ。おかげで僕はレイナさんの上に乗っかっている形だ。誰であろうと女性の上に乗っているというのは気が引ける。すぐに退こうとした。

 ……でも、まるで体が動かない。精一杯力を入れて、指をほんの少し動かせるだけだ。腕を動かすなんて無理だ。本当に動けないのだ。
 レイナさんは僕の下から這い出て、そっと床に寝かせる形にすると、簡単に手話をする。


『謝らなくていい。謝るのは、死ぬときだってアリアも言った』

「ウタっ……! 大丈夫か!? 怪我は」


 僕は力なく首を振る。少し気を抜けば、今にも意識を手放してしまいそうなほどに力が入らない。


「はっ……だから言っただろう? 無理だってさ」

「お前、ウタに何をしたんだ!」

「何ってほどなにかしてないよ。ただ、自分のスキルをちょっと使っただけさ。
 安心しな。死にはしないさ。……今は、な」


 悪魔は不敵な笑みを浮かべながら、背後に炎を放つ。メラメラと燃え上がる炎は、ほんの数秒でこの狭い空間に広がり、僕らを包み込む。
 熱い……。悪魔は、僕らを嘲笑うように見下しながら、遺跡の出口へと向かう。


「そうだなぁ……このまま焼け死んでもらおうかな」

「待て! お前、一体何をするつもりなんだ!」

「ロイン様ぁ……!
 ――そんなの、あなたが知るようなことじゃないんですよ?」


 入り口が、土魔法で閉じられる。僕の体は相変わらず動かない。ドラくんの意識はない。


「……ウタっ…………」

「スラちゃ……」

「ぼく……なんか、変だよ…………。怖い……目の前、チカチカして……」


 瞬間、スラちゃんも気を失う。まだ動けたのか、僕は片肘をついてスラちゃんの体を受け止める。が、それ以上は持たずにスラちゃんを抱える形で倒れ込む。


「……これは、」


 ピンチってやつだな。
 そう、アリアさんが呟いた。
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