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信じるべきは君か悪魔か
危険な勇気
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ゴーレムの腕はすぐさま修復する。やはり、eを消さない限りは、よみがえるような造りになっているらしい。だからこそ厄介なのだ。
「ウタ殿ダメだ! 今『力』を使っては……負担が大きすぎる!」
ドラくんが必死に止める声が聞こえる。しかし僕は、それを無視した。
どうでもよかったのだ、自分のことなど。どうでもよかった。怪我をしようが、倒れようが、死のうが、どうでもよかった。だから、感情に任せて飛び出していったのだ。
体の不調で、ステータスに補正はあるのだろうか? そんな不安から、一応確認する。
名前 ウタ
種族 人間
年齢 17
職業 冒険者
レベル 2400
HP 3600000
MP 1920000
スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度50)・光魔法(熟練度35)・炎魔法(熟練度30)・氷魔法(熟練度20)・水魔法(熟練度20)・風魔法(熟練度15)・土魔法(熟練度50)・回復魔法(熟練度20)・使役(超上級)・ドラゴン召喚
ユニークスキル 女神の加護・勇気・陰陽進退
称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡・B級冒険者・Unfinished
……うん、特に補正はなさそうだ。異変はない。100倍になってること以外は。
自分はどうなってもいい。でもみんなを守りたい。……これは、自己犠牲なのだろうか。僕はそうは思わない。これは…………ただの、自分勝手な勇気だ。ただの自己満足にすぎない。
「ストリーム!」
「ダメだよウタっ! 戻ってきて……!」
風魔法で宙に浮き、今にも泣き出しそうなスラちゃんの声。僕はそれも無視して、聖剣を振りかぶる。
ゴーレム自身もそうだと分かっているのか、胸の辺りだけは決して隙を見せず、僕に襲いかかってくる。どうも歩入り込みづらい。
それに加えて……『emeth』の文字は、きっとそもそもは指で書いたような貧相なものだったのだろう。しかし今、ゴーレムは巨大化し、ほぼ岩だ。その文字もガチガチだ。
どうやって文字を消す? 他を削っても結局再生する。一瞬で削り取ってeを消すか……。とにかく、完璧に倒さないといけないのだ。
「フラッシュランス!」
僕が放った光の槍は、真っ直ぐとゴーレムの胸に飛んでいく。防ごうとしたのか、ゴーレムは胸の前に腕を持ってくる。その腕を貫通し、槍は胸に到達した。
しかし、そう簡単にはいかないようだ。槍は突き刺さりはしたが、eを少し掠めただけ。すぐに再生してしまう。しかし、そこで僕は気づいたのだ。
(腕の時の方が……再生が遅い?)
腕を切り落としたとき。つまり、より大きな怪我を負わせたとき、その再生スピードは目に見えるほどに遅くなる。
それならば、腕や足を切り落としたあとなら、隙が出来るんじゃ……。そう思った僕は、再び剣を握りしめ、飛び出そうとした。
その僕の腕を、
「――ダメだ」
アリアさんが、しっかりと捕らえた。
「……え」
「ウタ、冷静になれ。よく考えろ。その『勇気』は本当に勇気なのか?」
僕が力を込めようが、アリアさんはその手を離さない。離さないまま、僕の目をじっと見つめる。……あまりに澄んだ、赤い瞳で。
「……どう、いう…………」
「気づかなかっただろう、私が後ろにいるのに」
……確かに、気づいていなかった。しかし、それとこれと、なんの関係があるというのだろう。分からない。
「ポロンの声も、フローラの声も、聞こえなかっただろう?」
「…………」
「ドラくんの声も、スラちゃんの声も……聞こえてなかっただろう?」
「……それは」
「それがどういうことか分かるか? 私が声が出せなくてもその声が聞こえていたお前が、仲間の声を、気配を、全く感じ取れないって……どういうことか、分かるか?」
それは、つまり……周りが、全く見えなくなっていて、目の前のそれにしか、反応できなくなっていて……それで……。
ゴーレムが僕に襲いかかる。隣でアリアさんは、手のひらを真っ直ぐに突きだした。
「シエルト」
その時のシエルトは……あのときよりも、ずっと強く、輝いていた。
「……いいか、ウタ。今お前が使っている『勇気』は、ひどく危険な『勇気』だ。
一歩間違えれば、自分も仲間も傷つけ貶めるような、そんな『勇気』だ」
その時アリアさんは……僕よりも、何倍も、大きな『勇気』を手にしていた。僕よりも……ずっと大きな、『勇気』を。
「いいかウタ。覚えておけ。
……それは、本来持ってはいけない感情だ。持ったとしても、振り回されてはいけない感情だ。流されてはいけない感情だ。人としていきるためには……その感情の『声』を聞いてはいけない。無視して、グッとこらえるんだ」
体から、力が抜けていく。……本当に、消耗が激しかったんだ。そう気づくと同時に、後ろで支えてくれる、仲間のぬくもりにも、やっと気がついた。
「……ドラくん……」
「……本当に、お主は…………」
ゴーレムの近くに、姿を消したポロンくんが見えた。レイナさんの近くに、その人を守るように立つスラちゃんとフローラが見えた。
ポロンくんは、窃盗を使ったまま、土魔法を使い、eの文字を埋める。とたんに、ゴーレムの体は崩れ落ちる。アリアさんはそれから僕らを守るようにシエルトを張りながら、僕に言う。
「お前のその感情は、勇気じゃない。
――殺意だ」
「ウタ殿ダメだ! 今『力』を使っては……負担が大きすぎる!」
ドラくんが必死に止める声が聞こえる。しかし僕は、それを無視した。
どうでもよかったのだ、自分のことなど。どうでもよかった。怪我をしようが、倒れようが、死のうが、どうでもよかった。だから、感情に任せて飛び出していったのだ。
体の不調で、ステータスに補正はあるのだろうか? そんな不安から、一応確認する。
名前 ウタ
種族 人間
年齢 17
職業 冒険者
レベル 2400
HP 3600000
MP 1920000
スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度50)・光魔法(熟練度35)・炎魔法(熟練度30)・氷魔法(熟練度20)・水魔法(熟練度20)・風魔法(熟練度15)・土魔法(熟練度50)・回復魔法(熟練度20)・使役(超上級)・ドラゴン召喚
ユニークスキル 女神の加護・勇気・陰陽進退
称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡・B級冒険者・Unfinished
……うん、特に補正はなさそうだ。異変はない。100倍になってること以外は。
自分はどうなってもいい。でもみんなを守りたい。……これは、自己犠牲なのだろうか。僕はそうは思わない。これは…………ただの、自分勝手な勇気だ。ただの自己満足にすぎない。
「ストリーム!」
「ダメだよウタっ! 戻ってきて……!」
風魔法で宙に浮き、今にも泣き出しそうなスラちゃんの声。僕はそれも無視して、聖剣を振りかぶる。
ゴーレム自身もそうだと分かっているのか、胸の辺りだけは決して隙を見せず、僕に襲いかかってくる。どうも歩入り込みづらい。
それに加えて……『emeth』の文字は、きっとそもそもは指で書いたような貧相なものだったのだろう。しかし今、ゴーレムは巨大化し、ほぼ岩だ。その文字もガチガチだ。
どうやって文字を消す? 他を削っても結局再生する。一瞬で削り取ってeを消すか……。とにかく、完璧に倒さないといけないのだ。
「フラッシュランス!」
僕が放った光の槍は、真っ直ぐとゴーレムの胸に飛んでいく。防ごうとしたのか、ゴーレムは胸の前に腕を持ってくる。その腕を貫通し、槍は胸に到達した。
しかし、そう簡単にはいかないようだ。槍は突き刺さりはしたが、eを少し掠めただけ。すぐに再生してしまう。しかし、そこで僕は気づいたのだ。
(腕の時の方が……再生が遅い?)
腕を切り落としたとき。つまり、より大きな怪我を負わせたとき、その再生スピードは目に見えるほどに遅くなる。
それならば、腕や足を切り落としたあとなら、隙が出来るんじゃ……。そう思った僕は、再び剣を握りしめ、飛び出そうとした。
その僕の腕を、
「――ダメだ」
アリアさんが、しっかりと捕らえた。
「……え」
「ウタ、冷静になれ。よく考えろ。その『勇気』は本当に勇気なのか?」
僕が力を込めようが、アリアさんはその手を離さない。離さないまま、僕の目をじっと見つめる。……あまりに澄んだ、赤い瞳で。
「……どう、いう…………」
「気づかなかっただろう、私が後ろにいるのに」
……確かに、気づいていなかった。しかし、それとこれと、なんの関係があるというのだろう。分からない。
「ポロンの声も、フローラの声も、聞こえなかっただろう?」
「…………」
「ドラくんの声も、スラちゃんの声も……聞こえてなかっただろう?」
「……それは」
「それがどういうことか分かるか? 私が声が出せなくてもその声が聞こえていたお前が、仲間の声を、気配を、全く感じ取れないって……どういうことか、分かるか?」
それは、つまり……周りが、全く見えなくなっていて、目の前のそれにしか、反応できなくなっていて……それで……。
ゴーレムが僕に襲いかかる。隣でアリアさんは、手のひらを真っ直ぐに突きだした。
「シエルト」
その時のシエルトは……あのときよりも、ずっと強く、輝いていた。
「……いいか、ウタ。今お前が使っている『勇気』は、ひどく危険な『勇気』だ。
一歩間違えれば、自分も仲間も傷つけ貶めるような、そんな『勇気』だ」
その時アリアさんは……僕よりも、何倍も、大きな『勇気』を手にしていた。僕よりも……ずっと大きな、『勇気』を。
「いいかウタ。覚えておけ。
……それは、本来持ってはいけない感情だ。持ったとしても、振り回されてはいけない感情だ。流されてはいけない感情だ。人としていきるためには……その感情の『声』を聞いてはいけない。無視して、グッとこらえるんだ」
体から、力が抜けていく。……本当に、消耗が激しかったんだ。そう気づくと同時に、後ろで支えてくれる、仲間のぬくもりにも、やっと気がついた。
「……ドラくん……」
「……本当に、お主は…………」
ゴーレムの近くに、姿を消したポロンくんが見えた。レイナさんの近くに、その人を守るように立つスラちゃんとフローラが見えた。
ポロンくんは、窃盗を使ったまま、土魔法を使い、eの文字を埋める。とたんに、ゴーレムの体は崩れ落ちる。アリアさんはそれから僕らを守るようにシエルトを張りながら、僕に言う。
「お前のその感情は、勇気じゃない。
――殺意だ」
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