上 下
256 / 387
信じるべきは君か悪魔か

ゴーレム

しおりを挟む
「にしても……あれじゃ土と言うより、ただの岩だな。どれだけの時間放置されてたのか」

「えっ、ゴーレムって、土なの?」


 目の前にいるそれは、明らかに『岩』だった。粘土とかそんなのじゃなくて、ごつごつとした、巨大な岩そのもののようで、土とはとても思えなかった。


「そもそもは土ですよ。普通の人がゴーレムを作れば、見た目は粘土みたいな感じで、いかにも土っぽいです。
 体長も1メートルほどしかないんですが……放置されると、どんどん自分で大きくなるらしいです」

「それにしたって大きいな。最低でも半年は放置され続けているぞ」

「そんなにですか!?」

「……ここに、ロインは来たんだよな…………」

「…………」


 少し、レイナさんがうつむいた。と思ったら、ゴーレムがその大きな腕を振り上げた。
 真っ直ぐに振り下ろされたとするならば、その先にいるのは、レイナさんだ。音が聞こえないレイナさんは、その変化に気づいていない。


「レイナっ!」


 それに同じように気づいたであろうアリアさんは、僕から手を離し、レイナさんを後ろに突き飛ばし、ゴーレムとの間に入り込み、手のひらを突き出す。


「……シエルト!」


 アリアさんのシエルトは、個性の塊'sのそれと比べるとまだまだ薄く、脆い。それでも、ゴーレムの腕を防ぐことはでき、その後に砕け散った。


『ごめん』

「謝るな。謝るときは、死ぬときだ」

『……分かった。ありがとう』

「すまんな。……スラちゃん、お主は皆を出来るだけ遠くに連れていってくれ! ただし、我が見える範囲で。頼むぞ」

「分かった! みんな、こっち!」


 スラちゃんが僕らを誘導し、壁の端の方へつれてくる。僕はドラくんのことが気になって気になって、そこから目を離せないでいた。
 ゴーレムの攻撃を受け流しながら、攻撃を仕掛けながら、しかし、ドラくんは大したダメージを与えられていなかった。なぜか? 攻撃を与え、壊れた部分は、即座にその場の土を使い修復してしまうからだ。


「あれ……埒があかないよ」

「ゴーレムの倒し方は、かなり特殊なんだ」


 アリアさんが僕にそういう。


「ゴーレムを作るときに、『emeth』と書くんだが、消すときにはeを消して、死という意味をもつ『meth』に変える必要がある。
 昔ながらの作り方、消し方ではあるが、この方法が一番確実で、手っ取り早い」

「その文字は……どこに?」

「ドラくんはこのことを、まず確実に知っている。どこか一ヶ所を集中的に狙っているはずだ」


 そう指摘されて、よくよく見直してみると、確かに、どこか一ヶ所だけを見て攻撃しているのがわかる。
 しかし……場所が悪い。『emeth』の文字が書いてある場所、それは、巨大なゴーレムの胸のあたりだった。

 入り込みにくい。ドラくんはゴーレムとやりあうために羽だけは出している。羽のお陰で大きなゴーレムとも対峙できているが、潜り込むことは出来ないでいる。


「……どうにかしてeを消せたらいいのに……」


 スラちゃんが呟く。土と岩に囲まれたこの場所。ゴーレムにとっては最高の場所であろう。
 しかし逆に言えば、その分ドラくんの分が悪いということだ。レベル差やなにかは分からないが、少し押されている。

 その時だった。
 ゴーレムが薙ぎ払った腕が、ドラくんに襲いかかる。翼の分大きな体。避けきることが、できない。


「なっ――」

「ドラくん!」


 ドラくんの体は、丈夫だ。しかし今は人の体だ。その人の体が、強く、遺跡の壁に叩きつけられる。翼は消え、その場にうずくまる。
 僕は後先考えずにスラちゃんの横を通り抜け、ドラくんのもとまで走った。後ろから呼び止めるような声がした気がするが、そんなものおかまいなしだった。

 すぐそばに駆け寄ると、ドラくんは……いつかのアリアさんのように、必死に痛みをこらえていた。打ち付けられた背中からは血が滲み、衝撃からくる、自分が知らない息苦しさを耐えているようだった。


「ドラくん! 待ってね、今回復薬あげるから……」

「いや……いい、我は大丈夫だ」

『体が痛い。どうなっているんだ、頭が、クラクラと……。これが人の……』


 突如聞こえてきた二つの声。僕は後者を、ドラくんの本心として捉えることにした。


「大丈夫だよ、ドラくん。個性の塊'sの回復薬はすごいんだから。ほら、これ飲んで」

「我はいい……数もないだろう?」

『これを飲めば、楽になるのか……?』

「数の問題じゃないってば! ……ほら!」


 本心をひたすらに隠そうとするドラくん。僕は見ていられなくなって、回復薬の栓を抜き、ドラくんの口に突っ込んだ。


「んぐっ……う、ウタ殿……我は、いいと……」

「なんでそんなに嫌がるの? 僕はドラくんが苦しんでるのを見るのは嫌だよ」

「……それは」


 ゴーレムが僕らに攻撃を仕掛けようとする気配。それを見て、スラちゃんが駆け寄ろうとする気配。邪魔だとでも言うように、スラちゃんを殴り飛ばそうとしているゴーレムの気配。


『我らの力は、ウタ殿の力。回復したらその分、ウタ殿の体に負担が係るのでは……。
 回復して、そして再び戦えばなおさらそうなる』


 ……なんだ、そういうことか。


「ウタ殿、とにかくここにいてくれ! お主の負担は自分が思っている以上に大きい!」

「……関係、ないよ。そんなの」


 恐らく、変わったであろう僕の気配。自分でもわかる。僕は、必死に怒りを押さえつけていた。
 僕は駆け出し、スラちゃんの前に。聖剣を抜き、振り下ろされる腕を、その勢いのままに切り落とした。

 腕は土に変わる。苦しみと怒りを混ぜたような視線がゴーレムから伝わる。


「……お前は、ここに、ずっと放置されてたんだよね。それにはそれで、思うところはあるよ。……でも、」

「…………ウ、タ?」

「ダメだ、今は!」


 僕は剣を携え、ゴーレムに向かっていった。


「僕の仲間には……手を出すな!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...