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信じるべきは君か悪魔か

新たな試練

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 僕はその後、みんなと一緒にウルフたちに回復魔法をかけながら、色々と考えていた。
 ……奇形で生まれてきたから、あんな、正気を失った状態だったのか? いや、そんなことはないだろう。体の方はそうだとしても、精神面まで……。


(……でも、可能性がないとは言えないか)


 人間だって、知覚障害とか発達障害とか、精神的な部分にも影響する先天性の病気はある。人間であるのだ。ウルフたちにも、きっとある。


「…………」

「……ウタ兄、また難しいこと考えてんのか?」

「そう見えるかな?」

「見える。スッゴク見える。……ウルフのこと? だろ? どうせさ」

「分かっちゃうか」

「これでもおいら、ウタ兄と結構一緒にいるんだぞ! それくらい分かるやい!」


 と、アリアさんが回復魔法をかける手を止めないまま、呟いた。


「……お前が思ってること、当ててやろうか?」

「え?」

「奇形で生まれただけであんな状態になるのか? なるとは思えない。でも、先天的に精神に病を負っておる人もいる。可能性はあるが、納得はいかない」

「…………」

「どうだ?」

「エスパーですか?」

「見事に当たったみたいだな」


 アリアさんはクスクスと笑い、その後、真剣な表情で僕をまっすぐに見た。


「……納得いかなくて当然だ。『あれ』は精神障害があっての行動じゃない」

「そうなんですか!?」

「予想してたのに、わりと大きな反応ですね」

「だって……」

「人はそうじゃないが、そもそも知性が低い魔物にとっての精神障害は、0か100かと同じようなもんだ。
 つまりは、完璧に出来るか、全くできないか」


 ウルフたちに回復魔法をかけても、その体の異常は消えない。骨がむき出しになっていたり、青紫色に変色していたりする部分はそのままに、体についた僅かな傷を治していく。


「だから……精神障害がある魔物は、そもそも一人で歩くこともできない。生きることが出来ないんだ。
 あぁやって、中途半端に自我を失い、野性的な本能しか持たないなんて、あり得ない」

「つまりあれは……この空間の影響?」

「そうなるな」


 僕らの会話にドラくんが入り、言葉を返した。


「我やスラちゃんなんかは、そもそもの自我がしっかりとしている。だから、この空間にいたとして、1ヶ月飲み食いしないで、なんてことがなければ、普通に過ごしていられよう。
 しかし、彼らは違う。奇形ならば、外からの刺激に対する耐性も低いのかもしれん。そうすると、魔力の薄さに脳がやられ、自我を失ってしまう危険が高まる」


 と、僕は次に手当てしようとしたウルフに、小さな火傷のような傷跡があるのに気がついた。これはおそらく、あのときドラくんが使った雷魔法でできた傷跡。
 ……そういえば、あのとき、ドラくんは知らない魔法を使っていた。


「……ごめん、話変わっちゃうんだけどさ」

「どうした?」

「ドラくんが使ってた……アディーガ? って魔法。あれ、どんな魔法なの?」

「あぁ……お主は知らなかったか」


 ドラくんは手を止め、左の手のひらを上に向ける。そして、


「アディーガ」


 そう詠唱すると、手のひらの上に小さな黒い球体が現れた。ドラくんはそれを右手で突っつきながら僕に説明する。


「アディーガは、文字通り、ガーディアの逆だ。ガーディアはバリアの中に自分達が入ることで身を守るが、アディーガは逆に、相手をバリアの中に閉じ込める。一種の結界のような役割をしてくれるわけだな」

「なるほど……だから、ウルフたちはこの中に閉じ込められたんだね。ガーディアがそうできるってことは、もしかしてシエルトも?」

「あぁ、トルシェという魔法があるな。なぜかトルエシではないのだが……まぁおそらく、発音の問題だろう。これもアディーガと同じ役割をする。属性が違うがな」


 ガーディアの反対がアディーガで、シエルトの反対がトルシェ……。ん、んん?


「んー、魔法って便利だけど覚えるの大変だなぁ」

「そうか? まぁ、慣れだ。なにせ我は100年以上生きているからな」

「僕は100年はちょっと辛いなぁ。本当にきりがないよね、魔法」

『そもそも魔法は、人が「これ便利ー」って思ったらいくらでも追加されていく。きりがないのは当たり前』

「そうは言ってもですよ? 多すぎませんか? 初級魔法と属性魔法と特殊魔法と……。はぁー! 日本に来た外国人はこんな気持ちなのかなぁ。何で三つもあるんだって」


 するとそこで、とんでもない情報が僕の耳に飛び込んできた。


「……あー、ウタ?」

「なんですかー、アリアさんー」

「その、ニホン? がどうのこうのはよくわからないんだが、恐らくお前にとって良くない話がひとつある。聞くか?」

「え、良くない話なんですか!? やだ! 聞きたくない!」

「でも聞かなかったらあとで苦労するかも」

「聞きます聞けばいいんでしょ」


 アリアさんは一息ついて、僕をじっと見た。


「あのな……」

「はい……」

「三つじゃないんだ」

「…………」


 ……ん? 三つじゃない? え?


「魔法の種類、三つじゃないんだ」

「えっ……と?」

「四つだ」

「泣いていいですか?」


 新たな試練……が、待ち受けているようです。
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