チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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信じるべきは君か悪魔か

過去

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 僕らはたまたま空いていたレストランに入る。7人で人数は多かったが、大きなテーブルが空いているらしく、そこに通してくれた。
 ちなみにだが、あのあと僕以外もとりあえずのコミュニケーション手段として単語帳の力を使った。スラちゃんとドラくんは、僕が出来るようになったからか、その効果が反映されている。


「レイはどうする?」


 アリアさんが訊ねるとレイナさんはメニューを軽くめくり、僕にそれを差し出す。


『ウタくんたちで決めて』

「え、好きなの頼んでいいんですよ?」

『いつもお城で食べてるから、こういうところの食事は知らないの。だから、選んで』


 ……なるほどなぁ。


「どれがいいかなー、いっぱいあるよ!」

「スラちゃんとドラくんも、こういうところで一緒に食べるのは初めてだよね?」

「うん! ずっと一緒だったけどね!」

「我があの姿でここにいたらパニックだろう?」

「レイさん、どれがいいですかねー。ポロンどう思う?」

「おいら? おいらは……そーだなー、この鶏肉とか美味しそうだけどな! おいらはこのカレー味のやつにする!」

「レイ、嫌いなものとかあるか?」

『辛いもの。それ以外は大丈夫』

「私はこのグラタンにしようと思うが、こっちの、野菜がたくさん乗ってるのとかどうだ?」

『美味しそう。それにしてみる』

「決まりだな。ウタは?」

「僕は……パスタにしようかなぁ」


 そんなこんなで各々食べるものが決まり、それを頼んだ。軽く談笑しながら、食事が届くのを待つ。
 ……僕は、不意に、あの事が気になってアリアさんとレイナさんに声をかけた。


「……あの、」

「どうしたウタ」

「今聞くことじゃないと思うんですけど……いいですか?」

「大丈夫じゃないか?」

「無理ならあとでって言ってください。
 その……マルティネスとクラーミルには、大きなわだかまりがあって、それはずっと前にあった戦争が原因だって、サラさんが言ってましたよね」

「……そうだな」


 アリアさんはどこか寂しそうに微笑み、レイナさんは軽く顔を伏せる。


「でも、二人を見てると、とても……戦争を好むようには見えなくて。当時の姫がアリアさんとレイさんじゃない事はもちろん分かっています。でも、アリアさんとレイさんのおじいさんとかおばあさんとかも、とても争いを好むようには思えなくて」


 すると、アリアさんはどこか遠くを見据えながら、ぽつりと呟く。


「……あれは、あの戦争は、きっと、不必要なものだった」

「え……」

「父上の言葉さ」


 胸が、抉られるようにずきりずきりと痛んだ。エヴァンさん……。エヴァンさんも、きっと……いや、絶対に争いを望むような人じゃない。
 死の間際に涙を流していた……おそらく、自分の娘の無事を祈って涙を流していたエヴァンさんが、争いによる平和なんか、願う方が不自然だ。


『……私の両親や、亡くなったおじい様も同じことを言っていた。あんな無意味なものはないって』

「でも、それなのに戦争したんだろ? なんで……」

「それは……実は、ちゃんと分かっていないんだ」


 分かっていない……? 資料の一つも残っていないのか? そんなはずないだろう。日清戦争や、日露戦争なんて100年近くも前のことだ。それでも、資料は残っている。
 それなのに、昔とはいえ、終戦から100年も経っていない戦争の資料が残っていないのは不自然だ。


『とある文献によると、その時の人々はおかしかったと書いてある。
 みんな、とても正気とは思えなかった。人格を創る上での大切なものが欠如してしまったみたいだって』

「こっちもだ。確かに、マルティネスとクラーミルでは国民性が違うさ。マルティネスは他国の文化を多く取り入れて変わっていく文化だが、クラーミルは自国の文化を尊重し、発展させたことで出来た国だ。気高く、プライドが高い」

『確かに違う。でも、だからと言って争うことはない。それまでマルティネスとクラーミルがなんの隔たりもなくやってきたのは、お互いのそういう文化を尊重してきたから』

「……そもそもはお互いを思いあって生きてきたのに、なんで……」


 ふと、スラちゃんがドラくんの方を見る。ドラくんは何かを感じたように目を閉じ考え込んだ。


「……ドラくんは、生きてたでしょ? その時代……」


 スラちゃんの言葉に、ドラくんは目を開き、口を開く。


「……あぁ、生きていた。あれほどイカれた戦争は、見たことがなかった。
 マルティネスもクラーミルも、なにか恨みがあるわけではない。ただ、互いを殺すことしか考えていなかった」


 全員が、黙ってそれを聞く。ドラくんは少し躊躇ったのか、小さく笑い、僕を見た。


「ウタ殿、この話……良くはない話だ。食事前に、それも彼女の誕生日に話すような内容じゃないと思うんだが」


 すると、レイナさんが身をのりだし、ドラくんの手をつかむ。その手は、震えていた。
 驚いたようにドラくんが見たその目には、怯えながらも、強い決意が宿っていた。


「き、きたい……」

「…………」

「おね……がい……」


 ドラくんは一つため息をつくと、レイナさんに優しく微笑んだ。


「……分かった。しかし、足音がする。食事をとってからこれを話すとするか」
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