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おばけ? 妖怪? 違います!
主人として
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見た目は、スラちゃんだった。空色の髪と瞳、白い肌、少し幼い顔。……いつも通りのスラちゃんだ。
しかし、逆に言えば、見た目しかスラちゃんではなかった。中身は、今まで僕と一緒に旅をしてきたスラちゃんだとはとても思えなかった。
虚ろな瞳に、血の気のない頬。ぼんやりと僕らを見る目には光はなく、ガラス玉のようだった。はしゃいで、よく動き回っていたスラちゃん。しかし、今は指先ひとつ動かさない。ただ、重心に体重を預けるようにして、ぼーっと立っている。
そこで、僕は気づいた。人を人として成り立たせるための要素。体と、もう一つあるのだ。
感情と言う、人格が。
それが消えたせいで……逆に、それしか消えていないのに、僕は無意識に、スラちゃんを拒絶した。
「スラちゃん……痛く、ない?」
「…………」
「大丈夫? 怖く、なかった?」
「…………」
「スラちゃん……」
返事は、一つもない。言葉が返ってくることがない。反応を示さない。
僕は……どうしたらいいのか分からなくて、ただただ、呆然と立ち尽くしていた。
「おいお前ら……あの子に何をした?」
そんな、スラちゃんの様子の変化に、みんなが気づかないわけがない。アリアさんは背後に立つ男たちを睨み付け、明らかな敵意を向けた。
「……なぁ、スラちゃんに何したんだよっ!」
ポロンくんは震える手でナイフを握り、男に向けた。フローラは何も言えずに、ただ、杖を握りしめる。そして、そんな僕らを守るかのように、ドラくんは僕らの前に立ちふさがる。
「なにって……なぁ?」
「実験の続きをしただけだよ」
そして、男の一人が指を鳴らす。
「――そいつらを殺れ」
瞬間、僕の背後からとてつもない殺気が溢れる。振り向くと、スラちゃんが僕に襲いかかってきた。
「スラちゃん……?!」
なんとか避けるが、スラちゃんはすぐに軌道を変え、僕が落としたレンチを拾い上げ、殴りかかる。今度は避けずにその手を掴む。
「っ……スラちゃん……?!」
「無駄だ。そいつには、もう声は聞こえない」
外で、何かが咆哮する。それと同時に、洞窟が崩れていく。
「ガーディア!」
ドラくんが瓦礫からは僕らを守ってくれた。しかし、崩れ、広くなったその上には、あのときのワイバーンが飛んでいた。
ガーディアがまだ張られているからか、こちらに降りられはしない。男たちも、ガーディアの外だ。しかし、ワイバーンはガーディアに体当たりを続ける。……いずれ壊れる。
「ワイバーン……」
「どうする!? スラちゃんと、男たちと、ワイバーン……全てを相手するのは骨が折れるぞ!」
僕は……スラちゃんを押し返す。押し返されたスラちゃんは尻餅をつき、その間で、僕は一度冷静になる。
男たちは、敵だ。どれくらいのステータスかは分からないけど、ワイバーンを使っているのなら、自分達はそうでもないのか……?
ワイバーンも敵だ。男たちの言いなりであり、主戦力。少なくとも、レベル80は越えている。でも、ドラくんなら……?
スラちゃんは……。
僕は一度目を閉じ、名一杯息を吸い込んだ。そして、叫ぶ。
「アリアさん! ポロンくん! フローラ! 三人はその人達の相手をして! ドラくんはワイバーンを!」
「ウタ……」
「しかしウタ殿! スラちゃんは、感情と引き換えに強い力を持った。少なくともお主の二倍は」
「考えたんだ。……今、僕が出来ることは何かって」
みんなが、男たちとワイバーンに負けることは、ないだろう。そこはなぜか確信していた。だからこそ僕は、スラちゃんを……。
「だが」
「ダークドラゴン! 僕は、Unfinishedのリーダーとして、ドラくんとスラちゃんの主人として、やらなきゃいけないことがあるんだ!
僕が助けないといけないんだ! 僕じゃないと、助けられないんだ!」
「…………」
「ウタさん……」
僕は上を見た。ガーディアにはヒビが入り、今にも割れてしまいそうだ。
「……すぐに、ガーディアが破壊される。そうしたら、ワイバーンも、男たちも、こちらに入ってくる。それから動くんじゃ遅いんだ。
僕はスラちゃんを助ける。絶対助ける。みんなのことも、守る。守れなかったとしても、守ってみせる。だから……」
スラちゃんが起き上がり、僕らに向かってくる。僕はスラちゃんと向かい合い、剣を抜いた。
ゆっくりと呼吸を合わせ、膝を曲げ、そして、地面を蹴る。
「みんな僕に――柳原羽汰についてきて。僕を……僕を、信じて!」
……僕を信じて、だなんて、本当は僕が言えた立場じゃないんだけどさ。
でも、今、この場で言う言葉としては、僕は、それが正解だと思ったから。
ガーディアが砕ける。ワイバーンは急降下し、アリアさんたちに襲いかかる。
……大丈夫、大丈夫。みんなは、死なないから。
スラちゃんの攻撃を受け流し、後ろを見ると、ドラくんが、空を飛んでいた。闇魔法をまとわせた右手だけでワイバーンの進行を妨げ、笑う。その背中には、漆黒の翼が生えていた。
「……どうやら、こんなことも出来たようでな」
そして、視線だけ僕に向けると、ドラくんは微笑む。
「なぜ、疑わなければならないんだ? 我が主君」
「私たちは、死にませんよ。だから、安心して、スラちゃんを助けることだけに集中してください」
「おいらたちは負けねーよ!」
声を聞き、安心する。
ただ、アリアさんは、僕を見て、一言だけ言う。
「……お前なら、大丈夫だ。無理はするな」
僕らは、それぞれに向かって飛び出した。
しかし、逆に言えば、見た目しかスラちゃんではなかった。中身は、今まで僕と一緒に旅をしてきたスラちゃんだとはとても思えなかった。
虚ろな瞳に、血の気のない頬。ぼんやりと僕らを見る目には光はなく、ガラス玉のようだった。はしゃいで、よく動き回っていたスラちゃん。しかし、今は指先ひとつ動かさない。ただ、重心に体重を預けるようにして、ぼーっと立っている。
そこで、僕は気づいた。人を人として成り立たせるための要素。体と、もう一つあるのだ。
感情と言う、人格が。
それが消えたせいで……逆に、それしか消えていないのに、僕は無意識に、スラちゃんを拒絶した。
「スラちゃん……痛く、ない?」
「…………」
「大丈夫? 怖く、なかった?」
「…………」
「スラちゃん……」
返事は、一つもない。言葉が返ってくることがない。反応を示さない。
僕は……どうしたらいいのか分からなくて、ただただ、呆然と立ち尽くしていた。
「おいお前ら……あの子に何をした?」
そんな、スラちゃんの様子の変化に、みんなが気づかないわけがない。アリアさんは背後に立つ男たちを睨み付け、明らかな敵意を向けた。
「……なぁ、スラちゃんに何したんだよっ!」
ポロンくんは震える手でナイフを握り、男に向けた。フローラは何も言えずに、ただ、杖を握りしめる。そして、そんな僕らを守るかのように、ドラくんは僕らの前に立ちふさがる。
「なにって……なぁ?」
「実験の続きをしただけだよ」
そして、男の一人が指を鳴らす。
「――そいつらを殺れ」
瞬間、僕の背後からとてつもない殺気が溢れる。振り向くと、スラちゃんが僕に襲いかかってきた。
「スラちゃん……?!」
なんとか避けるが、スラちゃんはすぐに軌道を変え、僕が落としたレンチを拾い上げ、殴りかかる。今度は避けずにその手を掴む。
「っ……スラちゃん……?!」
「無駄だ。そいつには、もう声は聞こえない」
外で、何かが咆哮する。それと同時に、洞窟が崩れていく。
「ガーディア!」
ドラくんが瓦礫からは僕らを守ってくれた。しかし、崩れ、広くなったその上には、あのときのワイバーンが飛んでいた。
ガーディアがまだ張られているからか、こちらに降りられはしない。男たちも、ガーディアの外だ。しかし、ワイバーンはガーディアに体当たりを続ける。……いずれ壊れる。
「ワイバーン……」
「どうする!? スラちゃんと、男たちと、ワイバーン……全てを相手するのは骨が折れるぞ!」
僕は……スラちゃんを押し返す。押し返されたスラちゃんは尻餅をつき、その間で、僕は一度冷静になる。
男たちは、敵だ。どれくらいのステータスかは分からないけど、ワイバーンを使っているのなら、自分達はそうでもないのか……?
ワイバーンも敵だ。男たちの言いなりであり、主戦力。少なくとも、レベル80は越えている。でも、ドラくんなら……?
スラちゃんは……。
僕は一度目を閉じ、名一杯息を吸い込んだ。そして、叫ぶ。
「アリアさん! ポロンくん! フローラ! 三人はその人達の相手をして! ドラくんはワイバーンを!」
「ウタ……」
「しかしウタ殿! スラちゃんは、感情と引き換えに強い力を持った。少なくともお主の二倍は」
「考えたんだ。……今、僕が出来ることは何かって」
みんなが、男たちとワイバーンに負けることは、ないだろう。そこはなぜか確信していた。だからこそ僕は、スラちゃんを……。
「だが」
「ダークドラゴン! 僕は、Unfinishedのリーダーとして、ドラくんとスラちゃんの主人として、やらなきゃいけないことがあるんだ!
僕が助けないといけないんだ! 僕じゃないと、助けられないんだ!」
「…………」
「ウタさん……」
僕は上を見た。ガーディアにはヒビが入り、今にも割れてしまいそうだ。
「……すぐに、ガーディアが破壊される。そうしたら、ワイバーンも、男たちも、こちらに入ってくる。それから動くんじゃ遅いんだ。
僕はスラちゃんを助ける。絶対助ける。みんなのことも、守る。守れなかったとしても、守ってみせる。だから……」
スラちゃんが起き上がり、僕らに向かってくる。僕はスラちゃんと向かい合い、剣を抜いた。
ゆっくりと呼吸を合わせ、膝を曲げ、そして、地面を蹴る。
「みんな僕に――柳原羽汰についてきて。僕を……僕を、信じて!」
……僕を信じて、だなんて、本当は僕が言えた立場じゃないんだけどさ。
でも、今、この場で言う言葉としては、僕は、それが正解だと思ったから。
ガーディアが砕ける。ワイバーンは急降下し、アリアさんたちに襲いかかる。
……大丈夫、大丈夫。みんなは、死なないから。
スラちゃんの攻撃を受け流し、後ろを見ると、ドラくんが、空を飛んでいた。闇魔法をまとわせた右手だけでワイバーンの進行を妨げ、笑う。その背中には、漆黒の翼が生えていた。
「……どうやら、こんなことも出来たようでな」
そして、視線だけ僕に向けると、ドラくんは微笑む。
「なぜ、疑わなければならないんだ? 我が主君」
「私たちは、死にませんよ。だから、安心して、スラちゃんを助けることだけに集中してください」
「おいらたちは負けねーよ!」
声を聞き、安心する。
ただ、アリアさんは、僕を見て、一言だけ言う。
「……お前なら、大丈夫だ。無理はするな」
僕らは、それぞれに向かって飛び出した。
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